三話目 スノースマイル 後
ところで、
僕等二人で歩くのには少しコツが要る。
僕の身長が180ちょい。彼女の身長が150前後。と、単純計算で30cm位の差がある。となると、自然に彼女と僕では歩幅に差が生じてくることになる。
だから、僕が何も考えることなく歩いていると、
「は〜や〜い〜よ〜っ!」
こうなる。
「あ、ごめん」
振り返ると、彼女は僕のポケットに手を入れたまま、半分引きずられるような状態になっていた。
僕は止まって、彼女が隣に並ぶのを待つ。
「も〜・・・」
彼女は頬を膨らませて、僕のポケットから手を抜いた。かと思うと、僕の横を抜けて小走りで駆けた。
そしてクルリ、とコッチに振り返り、
「べ〜、だ!」
可愛らしく下を出して、滑らないように恐る恐る、といった感じでまた小さく駆けていく。
そして何を思ったか突然停止して、その場にしゃがみこんでしまった。
一瞬ドキッ、としたが、次の瞬間彼女は立ち上がって僕の方へ振り返った。
手には、雪玉。
そして、
「えい!」
彼女は振りかぶって、僕に向かって雪玉を投げつけた。
その球は思ったよりも早く、僕はよけることが出来ずに見事に顔面で雪玉を受け止めた。
ずるり、と僕の顔から地面に落ち行く雪玉を見、彼女は大きな口を開けて笑った。あはははは。
こんなところでキャッチボールの成果を出されてもな・・・。
と、笑いながら、
「こんにゃろ」
僕は彼女を追って走った。
「きゃあ」
彼女も走る。
それを、僕は追った。
二人でまだ足跡のついていない雪の中を走る。
この空間に、二人分の足音が響く。
彼女は度々振り返って、そのたびに僕は彼女の笑顔を見た。
彼女が走っているのを追いかけて、思う。
ああ、と。
覚えておこう。と。
この景色。
この並木道。綺麗な白い雪。そして、その上で元気に駆けている、彼女の事を。
彼女が見ている景色。
そして僕自身がここで彼女と一緒に、確かに“居た”という事実を、
覚えておこう。
そう思う。
空は乾いている。
雪が積もっている。
僕は彼女を捕まえた。
「へへ、つかまった」
僕を見上げて、彼女はそう子どものように微笑んだ。
少し息が荒い。
今この瞬間が、夢の代わりになる。
そう思う。
僕も、自然に笑顔だった。
彼女がいつも笑顔をくれる。
そんなことは解ってる。
解ってるから、
別れが辛いんだ・・・。
何か最近身の回りでお亡くなりになる人が多いです。
つい先日も同じ学校の一つ後輩が事故で帰らぬ人となりました。
この場を借りていいのか解りませんが、ご冥福をお祈りします。