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二話目 スノースマイル 前

ああ・・・。寒い・・・。

外気の、肌を突き刺すような冷たさに、僕は肩を寄せる。

雲に少し覆われつつある空で、太陽が弱々しく僕等に向けて陽を放っている。


季節は冬。


今年は近年稀に見る寒さを記録し、いつもよりも雪の量は凄かった。

が、残念ながら朝方でそれも止み、おかげで僕等はこうして外に散歩することが叶ってるわけだ。

確か去年の今頃は、特にすることも無く家でゴロゴロしていた。

全く持って、青春の一文字すらも感じることの出来ない日々を過ごしていた。

だけど・・・。と、僕は笑った。と。言うより勝手に顔が綻んだ。

今年は、去年とは明らかに違っている。

僕は横を見た。

「ん?」

小首を傾げて、「何?」と彼女は僕を見上げた。

そう、去年の冬と、今年の冬との変化。それは、この彼女の存在。

「どうしたの?」

僕が黙ってじーっと見ていたからだろう。彼女は少し怪訝そうな顔をした。

「いや、なんでもないよ」

ふ〜ん、と、彼女は前に向き直って、

トトト・・・

と、僕より数歩前に小走りで駆けた。

よくある並木道。積もった雪。

横を見れば、キャッチボールをした公園が見えた。

最近、僕等はキャッチボールをしなくなっていた。

いや、出来なくなった、と言った方が妥当か。

あの秋より、少し、少しだけ、

彼女は痩せた。


人通りは少ない。

何と言っても、まだ夜が明けて間もない。

更に言えばこんな雪が積もった中、このんで歩く物好きもいないだろう。

まぁ、僕の前を歩いているのが、その物好きに違いないのだが。

「あ〜あ・・・」

と、彼女は空を見上げた。

そしてポツリと、

「雪、降ればいいのに・・・」そんな事を呟く。

彼女はボフ・・・、と、子どものように雪と一緒に落ち葉を蹴っ飛ばしながら歩く。

「そんな思い通りには行かないだろ」

「そんな事ないよ。昨日の雪だって、私が降れぇ!って言ったから降ったんだよ?」

そんな冗談を言いながら、ボフっ・・・、と雪と一緒に落ち葉を蹴っ飛ばしながら歩いていく。

ボフ・・・、ボフ・・・、ボフ・・・

「またさっきみたいに転ぶぞ?」

僕は言った。

さっき、彼女は今みたいに雪を蹴っていて、雪の下に落ちていた落ち葉を蹴っ飛ばして滑って転んだ。

「痛たたた・・・」と僕を見る彼女を、僕は手を引いて起した。

少し彼女は止まった後、

「ちぇ・・・」

トトト・・・、と、口を尖らせながら僕の方へ戻ってきた。

一つ一つの行動が、いちいち可愛い。愛しい。

その顔は少しすねてる様な、そんな感じだった。

「なんで怒ってんの?」

と、僕は言った。

「ふ〜んだ」

へへへ、と、彼女は笑った。

怒ってるんだか、喜んでるんだか・・・。

「寒いな」と僕。

「寒いね」と彼女

「手、冷たくない?」

「そんなこと無いですよ?」

「何で敬語さ?」

「へへへ」

「冷たいでしょ?」

「冷たくないよ?」

「嘘だぁ」

「嘘じゃないよ?」

「本当?」

「本当」

・・・・・・・。

「握らせてください」

僕は言った。

「はいはい。いいですよ?」

にっこり笑って、彼女は手を差し出した。

本当は彼女の方から「寒いよ、手繋ご?」と言ってくれるのを待っていたが、彼女の方が一枚上手だった。

握った彼女の手は、やっぱり冷たかった。

が、多分僕の手は多分暖かかった。

このために、さっきからずっとポケットに手を突っ込んでおいたからだ。

「わ、暖かいね」

僕を見上げて、彼女は驚いたような顔をした。

俺は常に暖かいさ。けど手が暖かい人って心は冷たいって言うよ?え、そうなの?

そんな会話をしながら、僕等は歩いた。

会話しながら、僕は前を見る。

まだ綺麗なままの、まるで絨毯のように敷き詰まった雪。

誰の足跡もついていない、綺麗な白の絨毯。

そこに、二人で足跡をつけて歩く。

僕等がここを歩いた証。

二人で生きた証。

多分明日にでもなれば消えてしまうだろう、儚い証。


僕には夢があった。

本当に些細で、それでも本当に叶えたい夢。

そんな夢を、彼女はまだ知らない。

そんな夢は、まだ言わなくても良かった。

今、彼女が僕の隣にいる。

今、彼女が僕の隣で笑ってる。

それで、十分だった。

どうやら六話の構成になりそうです。

文化祭やらなんやらで遅くなるかもしれませんが、呼んで楽しんで頂ければ幸いです。

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