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一話目 キャッチボール

BUMP OF CHICKEN というバンドの曲をそのまま小説にしたお話です。

とある並木道。

そのよこにある公園に、僕と彼女は居た。

そこそこ広い公園だが、太陽が山に身を隠し始めるこの時間帯になると、人通りも少なくなり始める。

山に隠れはじめた太陽が、程よく世界を茜色に染めている。

そろそろ外気が肌を刺す季節。少し寒い。

僕は白い息を吐き出しながら、

「よし。ホイ、これ。上手く投げろよ?」

彼女の手にゴムのボールを握らせると、彼女に背をむけて距離を置いた。

つい先日から付き合い始めた僕等。今日はこの公園に、キャッチボールをやりに来ていた。

さっきも話したように、この時間帯は人の通りが少なくなる。だから、こういう事をして遊ぶのには最適だった。

唯一難点を挙げるとしたら、隣の大通りから車の排気ガスが風の流れで漂ってくる位だろうか。

「ケホケホ・・・ッ」

少し彼女が咳をした。

多分排気ガスの所為じゃなかった。

慌てて僕は彼女に歩み寄って、

「止めとくか?体に障るだろ?」と言った。

けど彼女は、

「ううん」首を振って、

「大丈夫だよ。ありがとう」

と、苦しさを隠すように僕に笑いかけた。

「そっか」

そんな彼女に背を向けて、再び彼女と距離を置―――


「え?」


――こうとして、

視界の上の方。さっき彼女に手渡した白いゴムボールが、何か凄いスピードで飛んでいくのが見えた。

「ほらぁ!走れぇ!」

彼女が後ろで口元に手を当てて叫んでいるのを見て、彼女が全力で投げたのだと理解する。

「捕れるわけ無いだろ!?」

僕は叫びながらダッシュして、飛んでいくボールを追った。

ジャンプして何とかとろうとしたが、さすがに間に合わない。

「いいよ!無理して捕らなくて!」

遠くで彼女が言った。投げたのは彼女だが。

落下して、コロコロ転がりながら、徐々に力尽きて止まるのを止めようとするボール。

それを見て、少し悲しくなる。

彼女が無理をして投げたボール。それが何か、心に刺さった。

弱い彼女が強く投げたボールは、“ソレ”を隠すためなんじゃないか、と、少し思って、悲しくなった。



さて。

日が沈んだ。

ボールは、何回僕と彼女の間を往復しただろう?

僕等は公園のライトを利用して、まだキャッチボールを続けていた。

と、いうより、

止めるタイミングが見つからなかった。

ほら、よく、始めたはいいけどこっちから止めるって言い出すのはなぁ〜・・・、みたいな状況ってあるじゃん?

アレ。

特に今回はこっちから言い出しただけに、「もう止めよう」は言い出しにくかった。

何かよく見ると、彼女はあからさまに「飽きたんだけど?」な顔をしている。

もう止めたほうがいいか?

これ以上は、彼女の体に障るんじゃないだろうか・・・?

僕は考えながら、最後のつもりでボールを投げた。

と、彼女はそれを両手でキャッチして、

「・・・・・・・・」

ボールを凝視するようにして固まった。

「!」

苦しいのか!?

僕は駆け寄ろうと足に力を込めた。が、

「えへへ・・・」

「?」

彼女は不適な笑みを浮かべた後、ボールを握りなおした。

そして、

ぐわ、とプロ野球選手よろしく、大仰に振りかぶってボールを、

「えいっ!」

投げた。

「え!?」

投げられたのはコントロール全く無視の“見よう見まねカーブ”。

それなりのスピードが出ているボールに、

「だから、捕れる訳無いだろ、ってッ!」

叫びながら、飛びつくように手を伸ばした。


バシッ


いい音がしたな、と思った。

「お」

見ると、見事、手の中にボールが収まっていた。

彼女も驚いていたが、もっと驚いたのは僕の方。

「捕れないと思ったよ」

驚いたように、遠くから彼女は笑って言った。


彼女は優しい。

とても優しい。

それでも、と、僕は思う。

まるで魔球。消える魔球のような、いつ消えてしまうか解らない、そんな優しさだった。



彼女のボールはいつも、届かない所で飛んでいく。

なんかここまでくると、「ワザと?」と聞きたくなってくる。

が、それでもいい。

ワザとでも、悪気無しでも、そっちでもいい。


僕は彼女の投げるボールを取る。

僕は彼女と一緒に居る。


それでいい。


彼女は僕に向かって何度も、ボールを投げた。

だから、僕も彼女に向かってボールを投げる。


捕れるわけの無いボールも、必死になって追う。

「捕れなくてもいい」と、微笑んで欲しくなかった。


今まで見逃した優しさや、愚痴や色々必死で追う。

“キャッチボール”は続いていく。

まだ、まだ、これからも続いていく。


彼女が上手くなって距離をおく。

だけどその分心は近づいていく。

君の声は遠くなって、

君のコエは近くなる。


カーブのような曲がった愚痴。


消える魔球のような、一時の、ほんの一時の優しさ・・・。


キャッチボールは続いていく。

これからも続いていく。


そう思ってる。


そう思っていたかった・・・。

全五話です。多分三日ぐらいで全部終わります。

ともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。

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