3+ 妖精の森の休日~真偽のガラクタ~
■調査報告
名前 :エイン=エクレール
年齢 :一九歳
所属ギルド:城塞都市リルガミン西地区ギルド所属
認可公布日:王国暦九九四年 九月 二八日
登録分類職:レンジャー
・能力判定
武器適正
格闘 :F 短剣 :B
片手剣:C 両手剣:F
片手斧:E 両手斧:F
両手槍:F 両手鎌:F
片手棍:D 両手棍:E
片手刀:F 両手刀:F
投擲 :D 弓術 :F
射撃 :D 砲撃 :E
魔法適正
回復魔法:F 神聖魔法:F
精霊魔法:F 暗黒魔法:F
弱体魔法:F 強化魔法:F
…………
……
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※
――ファルクス北部・旧街道
二百年に舗装された比較的道幅の広い街道。
当時は、西の森に様々な砦や前哨があり、兵員輸送に高く貢献した。
今となっては、殆ど利用される事は無い。
ガラガラガラ……。
人気の無い街道を馬車の一団が闊歩する。
目指すは、ルフェの森。
正直、驚いた。
末妹からの報告書に途中まで目を通し、見事に並んだ「F」判定の多さに。
「――森の奥には危険な魔獣が居――」
俺の正面では末妹…リウェンが『朗読』をしている、それを俺の隣で静かに聞くエイン、
それと俺の斜め向かいには、もう一人の妹…リルドナが眠っている。
俺は棋譜帳を眺める様に装い、すぐ隣に座る男の調査内容を見ている、
続きを見れば、『特殊技能』の項目が並んでいる、相変わらずの『F』判定だらけだったが、中にポツリと『A』や『B』の判定の項目が姿を見せる。
それらは『開錠』『罠発見』『爆発物処理』『判断推理』『情報解析』などなど、
進むべき道を間違えているのではないか?
明らかに、その技能を活かした定職に進むべきだ。
実に興味深い、
例えば『認可公布日』、つまり冒険者に認定された日だが、王国暦九九四年といえば三年前だ。
彼は一六歳で冒険者になったことになる。
その若さでこの世界に飛び込むにはそれ相応の覚悟か目的がある筈だ。
次に目に付くのは…やはりその能力判定、それも戦闘・魔法関連の項目。
一見するとなんの特技も無い、特徴が無い評価結果だ、比較的使いやすい短剣や片手剣がやや適正が高いのはお約束だろう。
だが、これはとても凄い特徴を持つ評価結果なのだ。
ふむ?
意味が判らない?
既に特徴は述べたのだがな、『特徴が無い』と、
「それでは、お兄様、エインさん……私はこれを以ちまして、失礼しま――」
「お、おい?」
どうやら『朗読』を終えて休眠状態に入ったようだ。
光属性魔法の一つ休眠――闇属性の睡眠と違い、無理やり意識を奪う物ではなく、効果中は休息を得られる。
意識が切れている為、馬車の揺れで三半規管が揺さぶられることも無い。
問題があるとすれば…術者自体が眠っているため任意に解除出来ないことか、
おそらく彼女は無抵抗で受け入れたので長時間起きないだろう。
「――なぁ、聞いていいか?」
「どうした?」
ふむ?勘付かれたか?
「なんで、伝説の剣の鞘だけが、オイゲンのおっさんが持ってたんだ?」
「そのことか」
俺はパタンと棋譜帳を閉じ、何事も無かったかのように語りだす、
エインの目からは窓から景色を眺めているように映る筈だ。
一通り話し終え、俺はため息をつくと共に棋譜帳を開く、今度は報告書を忍ばせてはいない、エインが俺の顔の動きに注視した時に、その紙を懐へ仕舞い込んだ。
このエインという男は人の目を見て話をする、意識しているかどうかはわからないが、
それは真実を引き出そうとする会話術に思える……実に厄介だ。
そしてそれはチェスの指し手にも現れている、まだまだ未熟だが、実に奇抜な返し手を指してくれる――厄介だが、実に愉しませてくれる。
「それにしても、こうやって並べて観察すると似てるなぁ」
今度は妹二人の顔を観察し始めた、推理小説の探偵では無いのだ、何事も深入りは危険が付き物ということを教えてやるとしよう。
リルの寝息の間隔が少し変わった、そろそろ目覚めるに違いない……これを使うか。
「よく見てみろ、区別する明確なポイントはある」
「瞳の色だろ?」
「ふむ、目は閉じられているが?」
俺の言葉に意地になって観察を始める――掛かった。
さらに追い討ちを掛けておこう、
「あと五秒だ」
懐から時計を取り出し一瞥して見せる、
「時間制限付きかよ」
悪いがチェックメイトだ。いや、これは――
「羊飼いの詰」
「「え?」」
正直、驚いた。
こうも見事に掛かるとは、それも二人で声を揃えるとは……
俺は思わず笑いを零すばかりだった。
~・~・~・~・~・~
森の入り口にある、いくつもの小屋。
その前には六台ほどの馬車が停まっている。
荷物を俺とエインで引き受け、妹達には先に小屋へと行って貰うことにする、
俺に眠っている女の面倒が見れる訳が無いからだ。
「よく寝てるなぁ」
「途中で何度も起きないように、相当深い眠りにしたんだろう」
俺はそれだけ告げて、足早に荷物の運搬に取り掛かる、
この妹達の荷物はとにかく多い、毎回減らせと言っているのにこれだ、
明らかに不必要な生活品まである、どうしても俺には理解出来ないのだ。
運搬に何往復かした頃、
「――おいおい、遊びに来てんじゃねーんだぞ?」
槍を手にした傭兵の男が吠えていた、
こういったことは、よく起きる。
明らかにお荷物に見えても仕方ないだろう、俺だってそう思う、
勿論、外見上の話だ、
その外見と行動から毎回誤解を招き、他の同業者に難癖を付けられる。
いい加減慣れたので、一部始終を黙って見届けた。
こういう場合は言葉より確実な方法を執る。
「悪いが、あと頼んでいいか?」
「いいけど、どうした?」
それだけ告げ、俺は先程の傭兵――ゼルという名だったか――を追う。
俺の気配を察したのか、足音が着いて来ない…エインが追ってこないのだ、
先程と違って深入りしようとしないらしい、良いことだ。
~・~・~・~・~・~
表の停車場より小屋を挟んで反対側に位置する森の入り口、
二人の男がそちらへと歩いていくのが見える、
その片方の男、ゼルは振り返らずに口を開く、
「――なんか用かよ?」
「……ふむ、」
「そんな敵意剥き出しで着いて来やがって――」
彼は振り向き、目をギラ付かせながら続ける、
「――ほらよ、『話し合い』し易いように場所を移してやったぜ?」
「ゼル、挑発するもんじゃないよ、」
同じく金髪の男…ロイが振り返り口を開く、言葉の上ではゼルをなだめる様だが、明らかに俺への警戒を解いていない。
「キミもそんな敵意を向けないでくれるかな?
妹さん達を揶揄したことについては悪いと思っているよ」
「ふむ、それは仕方ないことだ」
ロイは一瞬キョトンとする、
「そういう視線には慣れている、なので――」
そこまで告げ、俺は腰のエッジを抜き構える、
「――こういう手段を執らせて貰っている、」
ロイの表情が曇り、ゼルが不適な笑みを漏らす、
「へっ、そうかよ、実力行使かよ」
「なに、ただ『お手合わせ』願いたいだけだ」
俺の言葉にゼルとロイ、双方それぞれの配分で警戒の色を強めたのがわかった、
彼らも戦闘のプロだ、俺の言葉が冗談ではないことくらい気配で察したのだろう。
「怪我しても……いや、最悪死んでも知らねぇからな!」
「ゼル!よせって!」
「俺が引いても、アッチが引くとは思えねぇ――」
面倒臭そうにそう呟き、そのまま言葉を繋ぐ、
「――よ!」
その掛け声と共に槍の間合いギリギリの距離で鋭い横薙ぎの一閃が繰り出される、彼の槍の穂先はごく標準的な刺突に特化したモノだ、横薙ぎに斬りつけるには不向き……様子見の一撃なのが見え見えだ。
間合いギリギリの一撃なので、後ろへ下がれば難無く避けられる、だが、様子見の一撃ならあえて危険を冒してくれよう。
「――っ!」
俺は槍が薙ぎ払う空間のさらに下を潜り抜けるように低く突進する、俺にとってこの程度のリーチの差など無いに等しい、一歩踏み込めば詰めることが出来る。
難無く懐に潜り込み、そのままの勢いでエッジを走らせる、
ガキッと鈍い金属音、やはりそう簡単に勝たせてはくれないようだ、
彼は初撃を避けられた直後、素早く槍の持ち手を変え石突きで、襲い掛かる俺のエッジを防いで見せた。
「へっ、やるじゃねぇーか」
そのまま密着状態にも関わらず、石突きで次々と攻撃を繰り出す、
俺はそれらをエッジで受け流していく、が素早く後方へ跳び間合いを空ける、
「――シッ!」
そこへゼルの鋭い蹴りが空を切った、ただの蹴りじゃない金属製のグリーヴでガチガチに武装されたそれは、充分な重量を持つ鈍器と言っても良い。
「なかなかいい読みしてるじゃねーか」
「――ふむ、なんとも型破りな槍術だ」
確か、彼は銃兵であるロイを護衛するのが役目の筈だ、なるほど乱戦時でも銃兵を護衛するには、こういった柔軟で変幻自在な槍術が活きて来るのか。
実に興味深い。
「――序盤は本のように指せ」
「はぁ?」
言うや否や、俺は一気に間合いを詰め、こちらの有利な密着状態へ持ち込み次々と斬撃を放つ、
「――くっ、ヤロウ!」
俺は槍を短く持ち変える隙すら与えず立て続けに斬撃を浴びせる、どれも短剣術の基本に則った急所狙いの一撃だ。
――にも関わらず、ゼルは全ての攻撃を凌ぐ、懐に潜り込まれた不利な間合いを物ともせず、的確に斬撃を受け流し――
「オルァァァーーー!」
俺の斬撃のパターンを読んだのか、太刀筋に合わせる様に例の蹴りを繰り出した。
それは攻撃を防ぐという類のモノではない、相手の武器ごと吹き飛ばす乱暴な一撃だ。
「――むぅ…、」
俺の身体が宙に浮き、そのまま側面へと薙ぎ払われるように運ばれる、
空中では如何なる姿勢制御も方向転換も出来ない、運動慣性に従ってそのまま予定の着地地点まで問答無用に流されるだろう。
「貰ったぜ!」
すかさず渾身の力を乗せたのであろう必殺の中段突きが、俺の着地点を先読みし稲妻のように飛来する。
俺は咄嗟に右腕をかざす――攻撃を防ぐため?
否定だ、攻撃を逸らす為だ!
直進する力は横からの外力にアッサリと方向を変えられてしまう、言うのは単純なことだ。
実行するには、一秒にも満たない時間で突き迫る穂先を見届け、刃の無い柄軸部分を的確に払うことだ、タイミング早ければ腕を穂先で切り裂かれ、遅ければそのまま穂先に胴体を貫かれる。
だが、俺にとっては、問題ない。
ビュバと鋭い空気を切り裂く音が顔のすぐ横を走りぬける、
「――む?」
右肩に違和感、攻撃を逸らし切れず掠めたか?
――被弾確認……右肩関節部・軽損
――損害確認……外装剥離、動作に支障なし……
俺は右肩動かし確認するが、問題なく動く。
うむ、問題ない、
「――手応えは少しあったんだけどなァ?」
「大丈夫だ、問題ない」
俺の反応を気味悪く思ったのだろう、彼は舌打ちをし俺の右肩を睨みつけている。
黒い衣服は大きく裂けているだろうが、出血は無い、ある筈が無いだろう?
傍目には穂先が衣服だけを掠めたという結果に見えるだろう。
「――中盤は魔術師のように指せ」
「はぁ?だからなんだソレは!」
その問いには答えず、再び俺は間合いを詰めるべく突進する――と見せかけて彼の眼前で九〇度急旋回、
迎撃のタイミングを狂わされた彼はバランスを揺さぶられる。
そこへ心理の死角を突く不意打ちを仕掛ける、角度的にも槍で迎撃し難い彼の左手方向だ。
しかし、それも反応され、咄嗟に石突きで受け止められる――が、これもフェイントだ。
体重も乗せていない見せ掛けの斬撃なので、すぐに身を翻し真横へ跳ぶ、
急接近、急旋回を繰り返し、目まぐるしくゼルの視界を掻き乱す。
次々と武器と武器がぶつかり合い小気味のいい金属音が鳴り響く、
大したものだ――これ程までに、ことごとく俺の残撃を受け流すとは、
そんな中、苦し紛れの反撃の突きが来た、牽制する為の置きに来た一撃だ、俺はソレを見逃さない。
「んな?!」
俺は突き出された槍の柄軸に飛び乗り、そのまま細い道を伝ってゼルへと肉薄する、が、咄嗟にゼルは蹴りを放ち迎撃を仕掛けてくる――掛かった。
蹴りを避けつつ飛び退き、そんまま空中である物を投げつける――
「なんだ、こりゃあ?!」
――それは俺が投げつけたワイヤーロープ――俺の右腕の手甲に備え付けられたモノだ、それが彼の持つ槍の柄軸のほぼ中央……両手保持する中間に巻き付いている。
両手持ちの長柄武器というのは、両手保持する中間点を掴まれるのに弱い、ここに力を込めて引かれるとアッサリ取り落としてしまったり、無理に抵抗すれば最悪柄軸がヘシ折れてしまう。
――さぁ、どう返す?受け手を聞こうか。
「……へへ、舐めて……ンじゃねェェ!」
不適な笑みを見せたかと思うと、彼はパッと左手を離す、
当然、ワイヤーロープに引かれた柄軸は、俺に対して垂直に向き――
「オルァァァァ!」
そのまま引かれる方向…つまり俺目掛けて突き進む、
そのベクトルを利用して、彼は右手一本…それも逆手で…石突きによる突きを放つ、
回避しようとするが、皮肉にもワイヤーロープで捕縛している為、自動的に俺へと誘導されてしまう、
「――くっ、」
今度は俺が舌打ちする番だった、止むを得ずロープを切断してから回避行動へと移る、当然一拍以上遅れた動作になる。
それは戦闘においては致命的な間、右腕に嫌な衝撃が走った。
――実に厄介だ、
本来、穂先が折れた時の非常用としか使わない石突きをあそこまで多用し、使いこなすとは…、あたかも、必殺の威力を誇る太刀と、小回りの利く防御に適した小太刀を二刀流しているかのようだ。
「――やっぱり手応えはあったんだけどなァ?」
「やはり問題ない」
おそらく右腕の装甲板に亀裂が入った程度だろう、
やはり問題ない、
「なァ、もう止そうぜ?」
「ふむ、」
「テメェの力は充分だ、それにまだ本気も出してねぇだろう?」
「そうだね、実力があるのはわかったし、もういいんじゃないかな?」
本気を出していない……それは――
「そちらもだろう?」
「……」
「冒険者風情に本気で力を振るう訳にはいかない、流石は――」
ゼルとロイが息を呑む気配がわかる、
「――元・近衛騎士団だ、」
「んな…?!」
「ど、どうして、それを…」
二人とも動揺を隠せないといった感じか、無理も無いだろうが、
なにせこちらには優秀な諜報員たる妹がいる、素性などすぐに洗い出せる。
「テメェ……何が狙いだ!」
「なにも、ただ理解が貰えたらいいだけだ」
訝しげに俺を睨みつけるゼル、得体の知れない相手を見る目だ。
そろそろ潮時かも知れない。
「最後に一合……本気で付き合って頂こうか?」
「な…んだと?!」
「俺も少し本気を出す、」
「死んでも知らねェからな!」
「その言葉はそのまま返す」
そう告げ、左手に持つエッジを右の順手に持ち替える、
「おい、テメェは左利きじゃねぇのかよ?!」
「肯定だ、俺は左利きに出来ている」
さらに俺は相手に対し身体を垂直に向け、右半身を前に突き出す、
垂直に向けるのは左右方向の攻撃範囲を狭める為、
右半身を出すのは、右手で迎撃するから、
「なんだよ、その構――」
――質量制御、解除
――体積保持、継続…
「――えは…よぉ……?」
さすがに声を失ったようだ、
ズンッと俺の足が地面へめり込み、異様な重圧を放ち始めたからだろう、
「――終盤は……機械のように」
「……何なんだよ、テメェはよ?!」
「問題ない、これより詰める、」
「ウオォォォォ……!!」
ゼルは意を決し渾身の突きを放つ、
それは今までとは比べ物にならない、圧倒的な速度と鋭さと重さを兼ね揃えた至高の一撃。
小細工など一切ない、洗練された純粋な中段突き、それは単純な突きでありながら必殺の一撃にまで昇華された槍術。
回避も防御も適わない強烈な光の矢の如き一閃、受け流そうとした俺の右手ごと容赦なく貫き粉砕する――筈だったんだろう?
ゼルの放つ槍の穂先は吸い込まれるように俺のエッジの柄へと着弾する、直後に火花が散るような錯覚と凄まじい破裂音が響き渡り――
「――っ! バカな?!」
その凄まじい衝撃に耐え切れず、槍の穂先が粉々に砕け散った、
その衝撃は俺自身にも振りかかる、エッジから保持する右手、それを支える右腕、右肘、右肩――このまま放置すればこちらも砕け散る、
咄嗟にエッジを握る手を離し、その刃ごと後方へ衝撃を逃がす、
――そして、後ろに回していた左手で逆手に捕獲する――持ち替え完了、
――質量制御、再開……加重を開放!
「――チェックメイト!」
「――チィ!」
俺は武器である槍を破壊されたゼルへ一気に飛び掛る、
ゼルも武器を破壊されたことに呆けることなく反応する、
俺の刃がゼルの頚動脈を食い千切ろうとした瞬間――
「――そこまでだっ!!」
突然の横やりの声に、双方ガクンとその動きを急停止した、
声の方へ目を向ければ、俺にピタリと照準を合わせたロイが構えていた、
彼の目に迷いはない、このまま踏み込めば容赦なく発砲するだろう、
「もう、充分だろう!いい加減にしろ!!」
「ロイ、余計なことすんじゃねぇ、」
果たしてこの勝負どうなったか、
俺のエッジはゼルの首元直前で停止している、
一方のゼルも咄嗟に槍を持ち替え、石突きを俺の左胸の前まで突き出している、
お互い、あと一歩踏み込んでいれば只では済まなかった――そう思うだろう?
「――引き分け……いや、ステイルメイトでいい」
「な…んだと、コラ――」
「――もうよせ!」
ロイはその人懐っこい顔からは想像付かない怒声をぶつけ、俺達双方の矛を収めさせる。
渋々ながらゼルは構えを解く、俺もそれに合わせて残心を解いた。
「――チッ、認めてやるよ、テメェをな」
「大したモンだね、まるで城壁だよ、差し詰め盤上の城兵かな?」
「肯定だ、元々護衛が本業なんでな」
俺の『護衛』という単語にゼルが反応した、
「あの嬢ちゃんの護衛か?」
「否定だ、あいつらも充分戦力だ」
そもそも、これを理解して貰いたかったのだ、分野や方向性は違えども妹達の戦闘能力は高い。
「テメェが城兵ならよォ――」
そう呟きながら彼は思案する素振りを見せる、
どうやらゼルもロイも少なからずチェスの知識があるようだ、是非とも一局付き合って頂かねば。
「――あの乱暴なねーちゃんや、魔法使いっぽい嬢ちゃんは僧正か?」
「否定だ、あいつらは、そうだな――」
あの妹二人の役割と性能は俺とは大きく価値が違う、
本人達にその自覚が無いのがなんとも歯がゆいが……。
「――女王だな」
「……すごい評価だね、まぁ女の子に『女王』はどうかと思うけど?」
「仕事が始まればわかる、だから理解してくれ」
「おーけー、おーけー、もうケチ付けねぇよ」
……、
憎まれ口を叩いているが、この男の真意は『守らなければいけない』なのだろう、
なんだかんだで、本筋は『騎士』だ、女子供を危険な戦場から遠ざけようとするのは当然のことだ。
さもなくば、同じ仕事をする上でトラブルになり兼ねない叱責を飛ばしたりはしないだろう、
女子供をただの『足手まとい』としか見ていない連中は、何も言わないし、何も手助けせずに見殺しにするだろうさ。
この二人は間違いなく頼りになる、ここで繋がりを作ることは正解の筈だ。
「んじゃゼル、もう行くよ?」
「だな、穂先も付け替えなきゃいけねェしな」
そう述べると、アッサリと二人は去っていった、
――ふむ、
残念だ、
至る箇所が砕けてしまった右腕の装甲板よりも残念だ、
せっかく準備していたのだが……。もし「じゃあエインは何だ?」と聞かれたら「歩兵だな」と答えようと思っていたんだが……。
正直、残念だ。
読んでくださっている、あなたにごきげんよう。
またまた心の寄り道です。
今度は、書けば書くほど厨二指数が上がってしまうルーヴィックです。
こんなヤツが友人にいたら……間違いなく顔面パンチかましちゃいますね。
文句言いながらも付き合っているエイン君は偉いと思います。