始まりは唐突に
それは何年前だっただろうか、地球は終わりを迎えるというよくある噂話が広まったそうだ。
いつもと違う点は、有名な政治家からの情報という点だった。
有名動画配信サイトやつぶやき投稿サイトでは考察や動画が大量に投稿され、やれ何月に地球が滅ぶだのなんだのという情報が拡散されて一時は世間は騒然となったそうだが、すぐにそのような事実は無いと、政府は発表。
冷静さを取り戻した世間の人々はまあそうか、とすぐに忘れていつしか忘れ去られていった。
なぜ私がこんな話をしたかというと、本日私が在籍する高校にやってきた転校生、神代哀歌がなんちゃってオカルト研究会に突然現れ、この話題をしてきたからである。
神代哀歌、夜空のように黒くよく手入れの行き届いたロングの髪で見た目はクールな冷徹美女と言った感じだが、全然そんなことはなく話しかけると誰にでも太陽な笑顔で話し始める。
今日だけで私のクラスの大半と友達になっていた、恐るべきコミュニケーション能力。
私はというとクラスの端で本を読んでいるタイプの人間なので話しかけられたがあまりちゃんと返事を返せなかった。
急に話しかけられるとびっくりしちゃう。
なのでこのオカルト研究会は私以外の全員が幽霊部員であり、部室を使用しているのは私のみになっていてとてもいい場所だった。
ここなら一人で伸び伸びしながら放課後ライフを満喫できる、と思っていた私の聖域が彼女が手に持つ入部届と書いた紙を見た瞬間、崩れ落ちたのを感じた。
「で、そのよくある地球滅亡説がなんだって言うの?」
「よく聞いてくれたね、逢沢さん!」
テンションダダ下がりで机に突っ伏して私は彼女の話を聞くことにした。
「ここだけの話なんだけどね、あの地球滅亡説は真実なんだよ!」
「うわ~初めてだよこんなにオカルト研究会っぽい話をここでするの」
バカバカしい、その一言に尽きる。
予言されていた日は今年という事もあり、年始頃はネットではこの説が少し話題に出ていたがそれももう無くなっている。
「そもそもその説が本当なら、もっと政府だかなんだかが騒いでるでしょ」
「説明しよう、誰も騒いでいない理由を!」
「...一応、聞かせてもらおうか」
神代さんは両手を腰に当て胸を張り、誇らしげにどや顔しながら語り始める。
「世界の滅亡を止める秘策、そう!狭間の世界に巫女を生贄として捧げるのだ!」
「巫女さん可哀そうでしょ」
生贄、など言われてもとても信じれそうもない話でつい呆れてしまった。
「まあ、その巫女が私なんだけどね」
「…は?」
とんでもない事を言い出した目の前の彼女を見つめる。
先ほどまでの笑顔と違い、少し影があるような悲しそうな顔をしている。
なんだ、その顔は、まるで今話したことが本当であるかのような表情をしないでほしい、私単純だから騙されそうになるだろ。
「で、その巫女様がなんで転校生としてうちの高校に来てるんですかね」
「うーん、今まで保護されてたんだけど、今年で最後じゃない?だから世話係のお姉さんに無理言って最後に学生生活をさせてもらおうと思って頼んだの」
そういって神代さんはばつが悪そうに頬を掻く。
「それが本当だとして、なんで私に話したの?結構重大な秘密なんじゃないの?」
もし本当の話で私が口封じに攫われる、なんてことはごめんだ。
そんな事を考えていると、神代さんが顔を近づけて私の眼を真っすぐ見ている。
やばい、めちゃくちゃ顔が良い...!
思わず、緊張して頬が赤くなるのを感じる。
「今日クラスに入った瞬間、逢沢さんの顔が目に入ってね...なんだかおかしな話なんだけどあなたと話したいと思っちゃったの」
「なんでそこで思っちゃうかな」
「もしやこれは運命!と思って話しかけようとしたんだけど、みんなと話しちゃってなかなか逢沢さんのところに行けなかったんだよね」
いつもより視線を感じると思ってはいたが気のせいではなかったようだ。
ていうか運命感じちゃっても話したらいけない事のような気がしてならない。
「で、その話をして私にどうしてほしいの?生贄以外の方法を探すのを手伝ってとか?」
「生贄は避けようのない対策なので、置いておきます!」
そこは置いといちゃいけないだろうと心の中で突っ込みつつ、生贄を完全に受け入れている様子に少し悲しくなる。
これが本当の話なら、大人たちはこの17歳の少女に全ての負担を押し付けてのうのうと生活しているわけだ。
「胸糞悪い...」
「ん?なんか言った?」
「なんでもない」
神代さんはガサゴソとカバンを探り始めて一冊のノートを取り出し、私の目の前に突き出した。
ノートのタイトルは「今年中にしたいことリスト」と、書いてあった。
「映画か動画か忘れたんだけど昔見てマネしたくなっちゃったの」
ノートを捲り、内容を見るとぎっしりと神代さんのやりたい事が書き連ねてあった。
こんなにしたい事がたくさんあるくせに、生贄である事を受け入れている。
それでいいのだろうか、と思う。
いや、そうあれと教育されてきたのかもしれない。
自然とノートを持つ手に力が入る。
そんな私の様子には気づかず、神代さんは私に向かって手を差し伸べる。
「お願い、私がこのノートに書いてあること全部出来るように協力してくれないかな?」
私は面倒ごとに巻き込まれたかな、と思いながらも自然と彼女の手を取った。
こんな感じで私と神代さんの物語は始まった。
結果がどうあれ、彼女が最後に笑っていられる事を私は願う。




