落とし者との対話
<注意>
なるべくミスの無いようチェックしていますが、誤字脱字や文のおかしいところがあるかもしれませんのでご了承ください。
「堀くぅーん、そろそろ貸した50万返してくれないかなぁ〜。」
電話越しでも分かる、優しい口調の奥にあるのは怒りの感情だ。
「すみません...あと3日待ってもらえないでしょうか。」
口から出任せなんてものじゃない、命乞いですらある。
「3日は無理だねぇ、明日の夜までかなぁ。」
とりあえず今日は凌いだ。
「それまでに入金されてなかったら...稼げる仕事やろうか!」
電話はそこで終わった。人生という名の大きな船も沈みかけているようだ。
どこで道を間違えたかなんて考えても仕方ない。考えるべきは過去よりも現在だ。しかし銀行残高、財布、散らかった1Kの部屋、何処を見ても金は無い。
「売れる物売ってスクラッチでも...無理か。」
ここまで追い詰められたとはいえ、確率の計算くらいはできる。
しかしパチスロはおろか、スクラッチレベルのギャンブルに縋ろうという考えを、無意識の自分が持っているのもまた事実。稼げる仕事というのもおおよそ見当はつく。
「...散歩でも行くか。」
俺は秘儀『現実逃避』を発動する。精神衛生を保つ上で最も重要なのは、ストレスとなる対象を遠ざけることだ。実体の有無に関わらず、元から無いものだと考えれば幾分か気が楽になる。まぁ秘儀という割に、この人生の中での発動頻度はかなり高いが。
そんなことを考えながら、部屋着ベランダサンダルで夜の住宅街へと繰り出す。ただの深夜徘徊だが夜風に当たれるだけでも良しとする。
---
どのくらい歩いただろうか。家から少し遠いはずの公園が見えてきた。いつも横目で見ているだけの公園だが、今は何か不思議な雰囲気を纏っている。昼間の喧騒とのギャップだろうか?まあ公園と言ってもブランコと滑り台があるだけであり、こんな夜中に立ち寄るやつなど一人もいないだろう。
だが...
「たまには見てみるか。」
入口のU字型の車止めを抜け、園内にあるベンチへ向かう。
砂利の上を歩く音が心地よさと懐かしさを感じさせる。思えば公園に来たのは子供の時以来かもしれない。
「あの頃は...なぁ」
特に鮮明でも印象的でもない記憶を呼び起こそうとする。
「これがノスタルジー...か。」
物思いにふけっていれば、いつの間にかベンチについていた。腰を下ろすと同時に無意識下で抑制されていた疲労が足に総攻撃を仕掛ける。
「疲れた..」
疲労困憊でうつむいた時、何かが目に入った。
「財布だ...財布だよ!」
こんな深夜に一人でも叫ぶのはかなりヤバいが仕方ない。それよりもこの財布、誰かがベンチに忘れたというよりは、落としたと言う方が正しいだろう。中を覗いてみると...あらビックリ25枚の諭吉だ。衝動的に辺りを見回して誰も見ていないことを確認する。これは落とした人に同情する他ない。拾ったのが普通の人間ではなくこの俺であるがために。
「借金のちょうど半分...か。」
全額分でなかったことに少し落胆するが、そんな幸運を求めてはいけない。何せすでにプラスなのだ。今日で終わりかけていた人生が変わったのだ。荒廃し死んだ土地に、一本の芽が生え、生命が誕生したように。目まぐるしく変化するこの時代に見捨てられた自分にも、まだチャンスがあるということなのだ。
公園に対して心から感謝するとともに、自分の勘は非常に冴えているんだと確信する。しかし、今まで気にも留めていなかったこの公園に命を救われるとは、予想だにしなかった。それに、まだ勝ったわけではない。この天から降りる一筋の糸ともいえる25万円をどう使うかが、さらなるカギとなるのだ。
「キャッシュ類はどうかな〜。」
カラフルなカード類を前に、思わずニヤニヤしてしまう。
一枚...一枚と見ていると、一つカードではないものがあった。
「子供の写真?」
財布に入っていてもおかしくはないが、あまり見たことはない。
「もしかして、このお金はこの子供のため?」
確証の無い不安がよぎる。たまたま財布に入っていただけかもしれないし、全然違う用途かもしれない。しかし他の思考とは違い一抹の不安が残る。もしかすると他の落とし物よりも重要なのかもしれない。自分よりも未来ある若者の道をつぶすことにつながるのかもしれない。
例えば学費だとか生活費の類だ。果たしてそれは普通の悪いことで済まされるだろうか?法律の観点で考えれば一様に窃盗であるがこれはそういったもので裁けるものなのか。改めて考えればこの25万を得たとして残りはどうするのか。短期的な目で見過ぎていたかもしれない。長期的に見ればこんな自分より写真の子供のほうが道はあるのではないだろうか。写真が無いあるいは子供ではなければ自分の考えは変わっていたのではないか。
いや違う。
犯罪に手を染めそうだった自分がこんなことを考えるのは非常に恥ずべきことなのかもしれないが、この一瞬のために他人の未来を変えることは死よりも恐ろしいと思う。自分だって死にたくはないし、できることなら生にしがみついていたい。しかし死よりも恐ろしいことに手を出す勇気も決断力もない。それが英断でないならばなおさらだ。
---
ビルの屋上はそよ風が気持ち良い。それが何を意味するのか、自分ではあまり考えたくない。
結局は楽観的な考えが仇となったのかもしれない。もっと早く行動していれば道は変わったかもしれない。タラレバばかりが頭を埋め尽くす。
でも不思議と後悔はない。それどころか人を救った気分ですらある。
「気持ちいいな...」
風を切る音が耳に伝わってくる。
---
「先日未明、○○ビルの路地で男性の遺体が発見されました。」
「今朝○○ビルに出社した社員が発見し警察に通報したものとみられます。」
「捜査関係者によりますと、遺体の外傷が酷く身元の確認が困難とのことです。また警察は遺体の外傷から飛び降りによる自殺と推測しているものの、事件の可能性も踏まえ捜査を続けています。」
「次のニュースです――――」
「怖いわねぇ...陸、あなたは命なんか落としちゃだめよ?」
「うん!」
「ママいつも言ってるもん、自分の命を落とすんじゃなくて他人の命を拾ってあげてってね。」
「ちゃんと覚えてて偉いわね。それじゃあ旅行いこっか!」
「うん!僕楽しみ!」
「それじゃあしゅっぱーつ!」
(それにしても落とした財布を届けてくれた人には感謝しなきゃね、陸へのプレゼントは私の命みたいなものだから。)
「...ありがとうございます。」
「ママ何か言った?」
「ううん、何でもない。」
皆さん、お久しぶりです。
と言っても連載作品を見てくれていた方々はもうとっくにいなくなってしまっているでしょう。
それもそうですよね。前回の投稿から丸2~3年程経っているので失踪と判断されてもおかしくないです。ですがしぶとく舞い戻ってきました。経過報告にて幾度となく嘘をついて延期に延期を繰り返してきましたが、やっとの思いで一つ作品を完結させることができました。
この作品はとにかく成功例を一つでも作るという名目で、とにかく手を動かした結果の産物なので、内容が怪しい部分の多々あると思いますが、これを皮切りに今だ完結していない連載作の方も必ず走り切って見せます。なのでどうかお待ちいただけると幸いです。
連載作のほうにつきましては一度内容の精査を行っていますので、場合によっては非公開からの再アップとなるかもしれませんがご了承ください。
最後に、ここまで見てくださった読者の皆様に心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。




