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第五章:地獄の終焉と残されたもの


5.1 救出と壊滅

激しい銃撃と耳をつんざくような爆発音が、まるで終わりのない悪夢のように街全体を揺さぶり続けていた。土煙と硝煙が視界を覆い、何が起きているのかを正確に把握することすら困難だった。しかし、その混沌の最中、遠くから近づいてくるヘリのローター音が、微かな希望のように響いてきた。それは、1機や2機といった生半可な数ではない。空を覆うほどの数ではないものの、MH-60ブラックホークヘリの一個飛行隊が、地平線の向こうからその巨大な影を現し、まさに悪夢の中へと突入しようとしていたのだ。彼らは、米軍の精鋭部隊であるレンジャーを乗せ、この死の市街地へと、その鋼鉄の鳥を進めていた。


田口の無線が、再び耳元でけたたましく鳴り響いた。疲弊しきった精神に、その声はほとんど幻聴のように響く。「サザンクロス、こちらフォクスロット、援護に突入する!街の東と西からレンジャー部隊が突入する。現在地を正確に報告せよ!」その声は、一瞬の安堵と同時に、まだ終わらない戦いへの焦燥を彼に突きつけた。


田口は震える声で、かすれる意識の中で必死に現在の自分たちの位置を報告した。その間にも、壁には銃弾が叩きつけられ、コンクリートの破片がまるで雨のように降り注ぐ。命が紙一重で保たれているような状況の中、彼はただ、援軍の到着を祈るしかなかった。


そして、上空からは、援護射撃の音が文字通り降り注ぐように響き渡り始めた。それはまるで、雷鳴が敵の頭上に落ちるかのようだ。重機関銃の掃射、RPGの爆発、迫撃砲弾の着弾。それまで猛威を振るっていた敵の火力が、まるで堰を切ったように徐々に弱まっていくのが肌で感じられた。その変化は、彼らが確かに死の淵から引き上げられつつあることを示していた。


やがて、建物の入り口の瓦礫の隙間から、米軍レンジャー部隊の姿が目に飛び込んできた。彼らは、まるで機械のように訓練された動きで、迅速に室内をクリアリングし、残された敵を容赦なく制圧していく。深い疲労と安堵が入り混じった感情が、田口の全身を駆け巡った。


しかし、その安堵も束の間、厳しい現実が彼を打ちのめした。救出されたのは、なんとか意識を保っている重傷の田口と、すでにぐったりとして意識のない杉山のみだった。野間は、瓦礫の陰で、すでに冷たくなっていた。彼の腹部から広がるどす黒い血だまりは、乾いた土を深く深く黒く染め上げていた。その光景は、田口の目に永遠に焼き付くだろう。戦闘の激しさと、失われたものの大きさが、痛いほど心に突き刺さる瞬間だった。


5.2 生還の代償

意識が朦朧とする中、田口は米軍兵士に抱えられ、ブラックホークヘリへと乗せられた。ローターの轟音と、機体を揺らす振動が、彼の意識をさらに曖昧にする。ヘリが離陸する瞬間、彼の視界の端に、地上の惨状が映り込んだ。


崩壊したIFVの残骸。そのキャタピラーの横にぽっかりと開いた深い穴は、敵の仕掛けた対戦車地雷の痕だった。黒焦げになった乗員の死体が、見るも無残な姿で横たわっているのが見えた。彼らは、もう二度と戻らない。自分たちだけが、奇跡的に生き残った。その事実は、田口の胸に重くのしかかった。生きて帰ることができた喜びよりも、仲間を失った悲しみと、自分がなぜ助かったのかという疑問が、彼の心を支配していた。


ヘリの中で、田口は隣に置かれた黒い遺体袋を見た。分厚い防水布で覆われたその中には、野間と杉山の遺体が入っているのだろうか。彼の心は、鉛のように重かった。彼らは、生き残った。だが、その代償は、あまりにも大きすぎた。死体袋が放つ、かすかな鉄の匂いが、彼の胃をむかつかせた。この地獄のような戦場での経験は、彼らの肉体だけでなく、精神にまで深く蝕んでいた。彼らがこれから背負っていくものは、勲章などではなく、数えきれないほどの亡霊と、消えることのない血の記憶だった。ヘリの振動が、まるで彼らの魂を揺さぶるかのようだった。



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