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第四章:極限の市街戦


4.1 室内の戦闘


田口は室内戦闘態勢を取った。通常の照準器を使用せず、ダットサイトのスイッチを入れた。光学照準器の接眼レンズ内に、ぼうっと小さな赤い点が浮かび上がった。射手はこの点をターゲットに重ねればいいだけだった。照星と照門と視点の3点を一直線にして、さらにその延長線上にターゲットを重ねるという通常の照準方法に比べて、素早くターゲットを絞ることができた。しかも視点がどこにあっても赤いダットをターゲットに重ねればいいだけのため、銃を持つ位置の自由度が増す。ダットサイト内に組み込まれた半透明のレンズにより、手前に設置された光源からの光が射手のほうに反射する仕組みになっている。このため、射手の頭の位置がどこにあっても、接眼レンズ上に浮かぶ光点の位置は変わらない。


彼は戦闘に備えて、マガジンポーチから弾倉をもう1本取り出し、銃に装着しているマガジンに重ねるようにしてビニールテープで留めた。マガジンチェンジが必要になったとき、素早く弾倉を交換できるようにするためのアイデアだった。気をつけなければならないのは、弾倉の向きを上にそろえることだった。ベトナム戦争中はこれを逆さにしたため、戦闘行動中にマガジンクリップの先から泥や埃が入り、装弾不良の原因になっていたからである。


新兵の彼は、訓練どおりに行動した。日頃の厳しい訓練の賜物だった。体が勝手に動き、室内を次々と捜索していく。彼はハンドガンを使用した。トップをいくものは素早い照準が必要なため、この分隊ではそういう戦法をとっていた。すでに二つの部屋の敵を制圧した。マガジンを新しいものと交換した。空のマガジンをポーチに戻し、新しいクリップを装着する。すべては考えることなく手先が動く。


次の部屋のドアを開ける。目前を影が横切る。素早く照準し、ターゲットを確認する。銃が見えた。敵だ。コンマ何秒かの素早い判断で相手を識別する。人差し指は自然と手前に引き絞られる。闇の中で閃光が走る。影が移動する。応用して照準を移動させる。素早い敵だった。無意識に追撃する。後方の隊員から離れてしまうことに彼は気がつかなかった。再び三連射する。いわゆるタッピングだった。壁に弾丸が跳ね、コンクリート片が飛び散る。奥の部屋に逃げた敵をさらに追撃する。一人だ。後少しで始末できる。彼は深追いした。


次の部屋は袋小路だった。黒い影が壁際でうずくまっているのが見える。トリガーを引いた。空撃ちの音がなった。彼は血の気が引くのが分かった。敵が銃をこちらに向けるのがスローモーションのように見える。彼は無意識に空のマガジンをポーチに戻し、新しいマガジンを取り出そうとした。訓練で学んだそのワンテンポが致命的だった。空のマガジンを放り投げ、新しいのを装填すれば間に合っていたかもしれない。クリップを装填して再照準をしたとき、彼の目に映ったのは相手の銃口から飛び出した閃光だった。そしてその後ろからやってくる物は、音速を超えた鉛の銃弾だった。彼の視界が捉えたこの世の最後の光景だった。すべては訓練どおりに動いた。体が勝手に動いたのだった。まさに訓練の賜物だった。ただ一点、訓練プログラムにミスがあった。ハンドガンでの接近戦では空のマガジンクリップはその場で放棄する。そうであったならば、彼はこの戦闘に生き残ることができただろう。戦場では学校で習ったことは役には立たなかった。すべては戦場で経験しなければならない。だがそこまで生きていられるかどうかが問題だった。


4.2 弾薬の枯渇と死闘


弾薬が尽きかけた。前方からは敵が発砲しながら徐々に近づいてくる。空撃ちの音がする。最後のカートリッジが空になった。彼はセカンドウェポンのベレッタを腰から抜いた。


射撃が途絶えたため、前方から二人の兵士が中腰で腰だめに撃ちまくりながらこちらに突進してきた。彼は両手で照準し、一気に連射した。手前の兵士が倒れた。すぐ後ろの兵士はその場に倒れ込むように伏せる。その兵士を狙って連射を続ける。レシーバーが後退したまま止まった。ついにすべての弾薬を失った。


銃声が鳴り止んだ途端、奴はまた立ち上がり、こちらに向かってきた。退却するにも、奴を仕留める必要があった。彼は周囲を見渡した。真鍮色に輝くものがあった。裸の5.56ミリ弾だった。さっき慌ててカートリッジに詰め込んでいたとき、取り落としたものだった。彼は咄嗟にその1発を拾い、片脇に投げ捨てていたM16のコッキングレバーを引き、エジェクションポートから無理やり弾丸を1発はめ込んだ。初めてやる緊急時の手段だった。彼はこちらに弾幕を張りながら向かってくる敵兵のどてっ腹をしっかりと照準し、トリガーを引いた。運良く激発し、弾丸は見事敵兵の腹部に命中、兵士はもんどり打ってその場に倒れ込んだ。ぐずぐずしている時間はなかった。彼はすぐさまそこから後退した。


4.3 絶体絶命の無線交信


通りの状況は凄惨だった。田口の想像どおり、第3分隊は全滅だった。敵は正面と右側の建物から十字砲火を浴びせていた。特に正面からの火力は強力だった。50口径の重機関銃と迫撃砲弾が雨あられのように降っていた。窓の隙間からIFVが横転しているのが見えた。正面からRPGの直撃を受けた上、50口径弾の集中砲火を浴び、蜂の巣にされている。ハッチは開き、中から炎がめらめらと上がっている。乗員は脱出する暇もなかっただろう。つい先ほどの対戦車地雷の被弾の光景が目に浮かんだ。今はこのままこの鉄の箱の中で火葬にされ、灰になっていくに任せるしかない。棺と化したIFVを横目に、田口は現在の状況を頭の中で再確認した。


彼は肩に装着していた無線機本体を取り外し、そばに置いた。個人装備用の小型トランシーバーのアンテナをいっぱいに伸ばし、赤いダイヤルを回した。緊急周波数帯だった。


「こちらサザンクロス、こちらサザンクロス、敵の集中砲火を浴びています。至急ヘリの支援をお願いします」彼は何度も無線機で呼びかけた。司令部には届かないが、前方に展開している米軍には届くはずだった。


4度目の呼び出しをかけたときだった。「サザンクロス、こちらフォクスロット、状況を報告してくれ」。共同作戦中の米軍部隊だった。「フォクスロット、こちらサザンクロス、街の第5ブロック西の建物内にて十字砲火を浴び、3個分隊のうち1個分隊全滅、残り1個分隊とは連絡がとれず。前方および東側の建物内より重機関銃、RPG、迫撃砲弾により攻撃を受けている。ヘリによる上空支援を請う。」


「サザンクロス、こちらフォクスロット、了解。こちらは街の中心部から北に2キロの地点。銃声と黒煙を視認、米軍司令部にヘリの支援を要求する。こちらも分隊を二手に分け、街の東と西から攻撃態勢に入る。」


「了解、それまでなんとか持ちこたえる。以上」


「幸運を祈る」それっきり、ぷつんと無線は切れた。米軍の地上部隊の支援よりもヘリのほうがおそらく早いだろうと彼は踏んだ。ブラックホークヘリが1機でも来てくれれば反撃に出ることができる。それまではここで防戦態勢を敷くべきか、外に撃って出るべきか、彼は迷った。

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