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第7章: 「未来を信じて」

転職活動は、決して順調とは言えなかった。

面接の連絡が来たかと思えば、「やっぱり今回は…」とお断りの通知が届く。時間をかけて書いた志望動機も、想いを込めた履歴書も、誰にも届かないまま、ただ消えていくように感じた。

自分なりに工夫して応募しているつもりだった。求人票を読み込んで、自分の強みを言語化し、少しでも希望に寄り添えるように文章を組み立てた。けれど、社会が求める「理想の人物像」に、自分がはまらないことは痛いほど分かっていた。


「どこでも通用するタイプじゃない」という現実は、ずっと前から知っている。


それでも、挑戦をやめるわけにはいかなかった。

履歴書を一通送るだけで、もう限界に感じる日もある。返信が来るかどうかもわからない。それでも「今日もやった」と思えるだけで、自分をほんの少しだけ肯定できる。今の自分にとって、それは生きるための小さな証だった。


昔は、「普通」に働けない自分を責めてばかりいた。

毎日同じ時間に出社して、周囲の空気を読みながら振る舞い、感情を押し殺してでも平静を保つことが、「社会人としての当たり前」だと信じていた。

でもようやく気づいた。自分は「そっち側の人間」ではなくていいのだと。

感覚のズレ、会話のすれ違い、人との距離感…。それらは単なる欠点ではなく、自分という存在を形づくる一部であり、ASDという特性によるものだと、少しずつ理解しはじめた。

無理に矯正しようとしていた頃より、今のほうがずっと心が穏やかだ。

だから最近は、自分を変えることよりも、自分に合った環境を探すことに時間を使っている。


自分が輝ける場所は、誰かの真似をしても見つからない。

職場に合わせようとするより、自分にフィットする職場を探す。

誰かと同じやり方で競おうとするより、自分のやり方で役立てる道を模索する。

それは決して「逃げ」ではなく、むしろ——生き方を描く力だと私は思っている。

うまくいかないことはある。むしろ、うまくいかない日のほうが多い。

でも、だからこそ工夫する。あきらめるのではなく、「未来をあきらめないための工夫」を重ねていく。私がこれまで生きてきたように。


周囲の人との関係も、少しずつ変わってきた。

以前の私は、自分の感情や状態をうまく伝えられず、誤解や衝突を重ねていた。けれど、今は少しずつ、言葉にしてみようと努力している。


「今、少し疲れてる」「考えるのが難しい日なんだ」——そんな一言が言えるだけで、相手との距離が近づくこともある。


家族との関係も、以前より穏やかになった。無理にすべてを共有する必要はない。でも、お互いに「違っていていい」と認め合えることで、むしろ信頼が深くなった気がしている。


妻との関係もそうだ。


静かに過ごしたいとき、彼女は何も言わずに隣にいてくれる。その沈黙が、私にとっては何よりの癒しだった。言葉を尽くさなくても分かり合える感覚が、私を守ってくれていた。


それだけで、「ここに居ていい」と思える。


社会との距離感も、少しずつ見えてきた。

以前は「みんなと同じように」ふるまうことが大切だと思っていた。だけど今は、「すべての人と分かり合えなくても、数人とちゃんとつながれればそれでいい」と思える。

「ちゃんとしなきゃ」「普通でなきゃ」と焦っていたあの頃の自分に、今ならこう声をかけられる。


「ちゃんとしなくても、あなたはそのままでいいよ」と。


これまでの人生、私はずっと、自分を証明しようと必死だった。

人と同じようにできない自分を、何かで補わなければと焦っていた。

「足りない」自分を隠すために、走り続けていた。


でも、その走り方では、いつか倒れてしまうと知った。

だから、今は立ち止まってもいいと思っている。

歩幅が小さくても、立ち止まって空を見上げる時間があっても、それでいい。

そう思えるようになったのは、周囲の理解や支えがあったからだ。


そして何より、自分自身が「生きたい」と願い続けてきたからだ。


正直に言えば、未来のことはまだよくわからない。

仕事は決まっていないし、安定した生活への道のりもまだ見えない。

それでも、不安ばかりに飲まれることはなくなった。

「なるようになるかも」と、少しずつ未来を信じることができるようになってきた。


昨日のことを思い出すと、まだ胸が苦しくなる日もある。

後悔や不安が頭をよぎって、動けなくなる日もある。

だけど、一歩踏み出せば、何かが変わることも知った。

飛ぶのが怖い日もあるけれど、飛ばなければ見えない景色がある。

不安定でも、確信がなくても、とにかく飛んでみる。

その先に何があるのかを、この目で見てみたいから。


「昨日ことばかり考えてたら飛べない。でも、飛んだら次がある。」











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