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死者の日~難攻不落の牢獄塔から、四日間で、無実の仲間を脱獄させる方法  作者: 神代紫音
第一幕 再会 第二場 屋根裏部屋:カルハースが、無実の罪で捕まっている仲間について相談する
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第四話 牢獄塔について

カルハースはまだ椅子に座っている。

「エルの発言が気にさわったのなら謝る。だが、あともう少しだけ教えてくれ」


「気に障るに決まってるだろう」

イオアンは憮然ぶぜんとした表情で立っている。

「エルを助けるため、騎士たちの前で、私は失態をさらすことになったんだぞ。それなのに――」


「気絶して、倒れてただけじゃん」

馬鹿にしたようにエルが口を挟んだ。

「それが何だっていうんだよ。俺は殺されるかもしれなかったんだぜ」

「何だと?」

イオアンはムッとした。

「そもそも、おまえが勝手に、ブケラトムを盗み出したからだろうが」

「ブケラトムを助けてくれって、最初に泣きついてきたのはイオアン様じゃん」

「いいから、黙れ!」

カルハースがエルを叱り、不貞腐ふてくされたエルがそっぽを向くと、カルハースはイオアンに向き直った。

「君に尋ねたいのは、牢獄塔のことだ」


「牢獄塔?」

不機嫌そうに、イオアンは訊き返した。

「何で、牢獄塔のことなんか知りたいんだ」

「もちろん、そこにダマリが捕まっているからだ。とにかく座ってくれ」


イオアンが渋々と腰を下ろすと、カルハースは手を組み、身を乗り出した。


「牢獄塔の出入口は、ひとつか」

「そもそも、お前は牢獄塔を見たことがあるのか?」

「何回か、遠くから見ることはできたが、近づくのは無理だった」

「そうだろう」

イオアンは、目の前のカルハースを眺めた。

「牢獄塔は、近衛兵の〈城塞カストラ〉の敷地に隣接している。その恰好じゃ、当然怪しまれるだろうからな」


いまカルハースは、髑髏の仮面を外しているが、それ以外は、首なし騎士団として正式な格好である。

つまり夏でも、黒く染めた馬革のぴったりとしたズボンをき、同じく、黒くて重たい馬革のマントを羽織っている。このマントには海賊旗のような、髑髏とその下の交差する 舶刀カットラスが、白く染め抜かれていた。

ちなみにエルは、ただの見習いなので、質素なシャツとズボンという、牧童のような恰好である。


奇異の目で見られることに慣れているカルハースは意に介さず、

「牢獄塔のまわりに、たくさん兵士がいたが、あれらがすべて、タタリオン家の近衛兵というわけか」

とイオアンに質問を投げかけた。

「いや、そうじゃない。イグマスの衛兵と巡察隊も混じっている。共通の兵舎を利用しているんだ」

「さっきの話に戻すが、出入口はひとつか」

「どうだろうな。一階への出入口は、ひとつだけだと思うが――」

イオアンは首を傾げた。

「見たら想像がついたと思うが、牢獄塔は、イグマスの城壁の防衛塔を改装したものだ。だから、もともと構造的に城壁に組み込まれている。たしか、城壁の三層目と五層目には通路があるから、そこに接続しているかもしれない」


「なるほど、それはとても有益な情報だ」

カルハースが手を打って喜んだ。

「それで、ダマリが何階に捕らえられているか知っているか? 牢獄塔は七階あるようだが」

「七階じゃない、八階だ」

とイオアンは訂正した。

「外からは分かりにくいが、獄吏ごくりが暮らしている階は半地下になっている。もちろん屋上もある。もともとは防衛塔だからな」

「それで、ダマリがいる階は?」

「いや、私には見当がつかない。結局、ダマリの罪の重さと危険性を、役人たちがどう考えているかだ」

とイオアンは答えた。

「牢獄塔では一般的に、下の階の独房には、掏摸すりのような一時的に収容される罪の軽い囚たちがいて、上に行くほど、政治犯、山賊の首領、禁を犯した魔術師のような、重要または危険な囚人たちがいる――と聞いている」


「では――ダマリがどの階にいるか、確かなことは言えないと?」

「そういうことだ」


イオアンの回答を聞いたカルハースは、背を向けて振り返ると、後ろのエルとひそひそ話し始めた。


「ちょっと待て」

イオアンは眉をひそめた。

「そこまで牢獄塔のことを聞いて、どうする?」


「いや、別に――」

再びカルハースが前を向いた。

「純粋な好奇心から、聞いたまでだ」

「そんなんじゃないだろう。お前たちは何か――たくらんでいるんじゃないのか?」

「私が、企む?」

カルハースが心外だという表情をした。

「いったい何をだ?」

「例えば――」イオアンは、カルハースの表情を窺うように答えた。「牢獄塔から、ダマリを助けだそうする、とかだ」


しばらく黙り込んでいたカルハースが答えた。


「仮に、そうだとしても、君とは関係ないだろう」

「関係あるに決まっているだろ! そんな無謀なことはやめろ!」


「余計なお節介は、やめて欲しい」

カルハースは迷惑そうだ。

「さっき君は、関わろうとする気持ちをまったく見せなかったじゃないか。だったら放っておいてくれ。これは我々の問題なんだ」

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