第四話 別の侵入経路
「そうだな――」
とイオアンは考え込んだ。
「世話をしている獄吏はひとりだけ、兵士も巡回していないから、牢獄塔に比べると抵抗は少ないだろう。ただ、入口である牢獄塔の一階から、地下牢まではかなり距離があるし、完全な一本道だ。そこを塞がれたらどうしようもない――それに、ダマリは衰弱しているから、長く歩かせるのは無理だろう」
「現実的に考えて、我々五人で、ダマリを救出できると思うかね」
「まず、無理だろうな」
と結論をだしたイオアンは、
「地下牢に侵入できたとしても、傷を負ったダマリを連れて、なおかつ気づかれずに牢獄塔、さらには、旧市街から逃げ出せるとは思えない――」
と説明したうえで、二人の顔を見た。
「ただし、地下牢への侵入経路はひとつとは限らない」
「しかし、一本道だと――」
「獄吏たちが認識しているのは、そのとおり一本道だ。だが、別の経路を作れるかもしれない」
「穴でも掘るのか?」カルハースが怪訝な顔をする。
「それに近い」
「だが、相当深いんだろう?」
「そうだな、地下二階か、三階ぐらいの深さのところにある」
「おいおい、我々はドワーフじゃないんだぞ。そんな深さまで掘っている時間も能力もない――」
「そこで、すでにある経路を使う。地下水路だ」
「地下水路!」
とカルハースが叫んだ。
「そうか、地下牢と地下水路が繋がっているわけか!」
「だが絶対じゃない。可能性があるという段階だ」
「――なんだ」
「私はさっき、水道局の役人に会ってきた。地下水路の施設があるのなら、放棄された古い水路に繋がっている可能性はあると言っていた」
「では、そこから侵入できれば、獄吏に気づかれずに――」
イオアンは頷いた。
「ダマリを救出できるかもしれない」
「何ということだ、素晴らしい案じゃないか!」
突然カルハースが立ち上がった。
「窮すれば通ずる、というところだな!」
「待て待て。喜ぶにはまだ早い。こっちにはこっちの問題がある」
「問題?」
「水道局の役人は、地下牢周辺の水路は、おそらく屍食鬼のたまり場になっているだろうと話していた。その魔物たちを排除したうえで、地下牢への侵入経路を探らないといけない」
この説明に、カルハースとエルが顔を見合わせた。
「――まあ、それぐらいならな」
イオアンは眉を顰めた。
「相手は屍食鬼だぞ。分かってるのか」
「イオアン君、君こそ我々を侮っているぞ」
「べつに侮っているつもりはないが」
カルハースが咳払いをした。
「皇帝の権威に屈しない我々は、領主たちの庇護も受けず、帝国じゅうを放浪している。これが、どういうことを意味するか分かるかね?」
イオアンが首を傾げた。
「首なし騎士団が、行く先々でで嫌われているのは知っているが――」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
とカルハースが語気を強めた。
「我々は、しばしば関所を迂回するため、安全な街道ではなく、危険な野山を走破するということだ」
「だから?」
「だから、魔物たちを相手にするのは慣れている」
とカルハースは自慢げな顔をした。
「タタリオン家の兵士などとは、比べものにならないほどにな。屍食鬼など、あっという間に退治してみせよう」
「ほう、それは心強いものだ」
とイオアンは感心してみせた。
「だが役人は、屍食鬼がひしめく地下水路の探索には、屈強なドワーフでも二十人は必要だと言っていたぞ。それでも三か月はかかると。ちなみに、この役人は地下水路を知り尽くしている男だがな」
「うむ、まあ――」
カルハースが大人しくなった。
「それぐらいは、かかるかもしれんな」
「でも、地下牢なら――」
とエルが口を挟んだ。
「何も無理して〈死者の日〉の祭りに合わせることはないんだろ? 見つからずに救出できるんだから」
「まあそうだが、ダマリの体力が心配だ」
とカルハースは顎を撫でた。
「私の感触では――」
とイオアンが告げた。
「その役人は、上手く交渉すれば、我々の役に立ってくれそうだ」
「救出を手伝ってくれるというのか?」
「それはないが、地下水路の探索に、お前たちを潜り込ませるぐらいなら、了承してくれるかもしれない」
「だが三か月か。それなりにかかるな」とカルハースが難しい顔をした。
「でも俺たちだけなら、もっとかかるぜ」
とエルが意見する。
「その期間も、短縮できる可能性はある」とイオアンが告げた。
「どうやって?」
とカルハースが尋ねる。
「慣れているドワーフたちでも、それぐらいかかるんだろう?」
「人を増やす」
「だから、どうやって?」
「予算を倍増させる」
「予算? 何のことだ?」
「水道局の役人は、地下水路の予算さえ増やしてくれれば、もっとたくさんのドワーフを雇えるから、工期を短縮できると約束した」
「申し訳ないが――」
カルハースが丁寧に頭を下げた。
「前回話した通り、我々はすっからかんだぞ。人を雇うような金は持っていない」
「分かっている。だから予算なんだ。総督府に金を出させる」
「できるのか、そんなことが?」
「可能性はある。それも近いうちに」
とイオアンが説明した。
「〈死者の日〉の祭りが終わると――つまり三日後に、イグマスの都市参事会が開かれる。そこに今回初めて、私がセウ家の当主として参加する。遠征中の父の代わりとしてだ。そこで水道局の予算増加を訴えて、同意が得られれば、地下水路のドワーフの数を増やせるだろう」
カルハースは疑わしそうな顔をした。
「それは何よりだが、君は参加するのは初めてなんだろう? そんなすぐに上手くいくのか?」
「正直、お前の言う通りだが――」
とイオアンは頷いた。
「都市参事会だけでなく、関係各所にしつこく訴え続ければ、多少なりとも予算を増やせるだろう。ダマリを解放するのと違って、こっちは正当性のある活動だからな。私がどれだけ派手に動いても問題はないし」
「それが上手くいったら?」とエルが期待する顔で問いかけた。
「もし、すべてが上手くいけば、一か月ぐらいで地下牢周辺から屍食鬼を一掃し、調査も完了するかもしれない。そこまでいけば、ダマリをどうやって救出すればいいか見通しも立っているだろう――」
イオアンは二人の顔を見回した。
「これが、ダマリの救出に関して、現時点で、私が提示できる最良の案だ」




