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死者の日~難攻不落の牢獄塔から、四日間で、無実の仲間を脱獄させる方法  作者: 神代紫音
第三幕 死者の日 一日目 第五場 フリュネの誘惑:イオアンはニナから報告を受け、カルハースたちと相談し、シアと約束する
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第四話 別の侵入経路

「そうだな――」

とイオアンは考え込んだ。

「世話をしている獄吏はひとりだけ、兵士も巡回していないから、牢獄塔に比べると抵抗は少ないだろう。ただ、入口である牢獄塔の一階から、地下牢まではかなり距離があるし、完全な一本道だ。そこを塞がれたらどうしようもない――それに、ダマリは衰弱しているから、長く歩かせるのは無理だろう」


「現実的に考えて、我々五人で、ダマリを救出できると思うかね」


「まず、無理だろうな」

と結論をだしたイオアンは、

「地下牢に侵入できたとしても、傷を負ったダマリを連れて、なおかつ気づかれずに牢獄塔、さらには、旧市街から逃げ出せるとは思えない――」

と説明したうえで、二人の顔を見た。

「ただし、地下牢への侵入経路はひとつとは限らない」


「しかし、一本道だと――」

「獄吏たちが認識しているのは、そのとおり一本道だ。だが、別の経路を作れるかもしれない」

「穴でも掘るのか?」カルハースが怪訝な顔をする。

「それに近い」

「だが、相当深いんだろう?」

「そうだな、地下二階か、三階ぐらいの深さのところにある」

「おいおい、我々はドワーフじゃないんだぞ。そんな深さまで掘っている時間も能力もない――」


「そこで、すでにある経路を使う。地下水路だ」


「地下水路!」

とカルハースが叫んだ。

「そうか、地下牢と地下水路が繋がっているわけか!」


「だが絶対じゃない。可能性があるという段階だ」

「――なんだ」

「私はさっき、水道局の役人に会ってきた。地下水路の施設があるのなら、放棄された古い水路に繋がっている可能性はあると言っていた」

「では、そこから侵入できれば、獄吏に気づかれずに――」


イオアンは頷いた。

「ダマリを救出できるかもしれない」


「何ということだ、素晴らしい案じゃないか!」

突然カルハースが立ち上がった。

「窮すれば通ずる、というところだな!」


「待て待て。喜ぶにはまだ早い。こっちにはこっちの問題がある」

「問題?」

「水道局の役人は、地下牢周辺の水路は、おそらく屍食鬼グールのたまり場になっているだろうと話していた。その魔物たちを排除したうえで、地下牢への侵入経路を探らないといけない」


この説明に、カルハースとエルが顔を見合わせた。

「――まあ、それぐらいならな」

イオアンは眉をひそめた。

「相手は屍食鬼だぞ。分かってるのか」

「イオアン君、君こそ我々をあなどっているぞ」

「べつに侮っているつもりはないが」


カルハースが咳払いをした。

「皇帝の権威に屈しない我々は、領主たちの庇護も受けず、帝国じゅうを放浪している。これが、どういうことを意味するか分かるかね?」


イオアンが首を傾げた。

「首なし騎士団が、行く先々でで嫌われているのは知っているが――」


「そういうことを言ってるんじゃない!」

とカルハースが語気を強めた。

「我々は、しばしば関所を迂回するため、安全な街道ではなく、危険な野山を走破するということだ」


「だから?」


「だから、魔物たちを相手にするのは慣れている」

とカルハースは自慢げな顔をした。

「タタリオン家の兵士などとは、比べものにならないほどにな。屍食鬼など、あっという間に退治してみせよう」


「ほう、それは心強いものだ」

とイオアンは感心してみせた。

「だが役人は、屍食鬼がひしめく地下水路の探索には、屈強なドワーフでも二十人は必要だと言っていたぞ。それでも三か月はかかると。ちなみに、この役人は地下水路を知り尽くしている男だがな」


「うむ、まあ――」

カルハースが大人しくなった。

「それぐらいは、かかるかもしれんな」


「でも、地下牢なら――」

とエルが口を挟んだ。

「何も無理して〈死者の日〉の祭りに合わせることはないんだろ? 見つからずに救出できるんだから」


「まあそうだが、ダマリの体力が心配だ」

とカルハースは顎を撫でた。


「私の感触では――」

とイオアンが告げた。

「その役人は、上手く交渉すれば、我々の役に立ってくれそうだ」


「救出を手伝ってくれるというのか?」

「それはないが、地下水路の探索に、お前たちを潜り込ませるぐらいなら、了承してくれるかもしれない」

「だが三か月か。それなりにかかるな」とカルハースが難しい顔をした。

「でも俺たちだけなら、もっとかかるぜ」

とエルが意見する。


「その期間も、短縮できる可能性はある」とイオアンが告げた。


「どうやって?」

とカルハースが尋ねる。

「慣れているドワーフたちでも、それぐらいかかるんだろう?」


「人を増やす」

「だから、どうやって?」

「予算を倍増させる」

「予算? 何のことだ?」

「水道局の役人は、地下水路の予算さえ増やしてくれれば、もっとたくさんのドワーフを雇えるから、工期を短縮できると約束した」


「申し訳ないが――」

カルハースが丁寧に頭を下げた。

「前回話した通り、我々はすっからかんだぞ。人を雇うような金は持っていない」


「分かっている。だから予算なんだ。総督府に金を出させる」

「できるのか、そんなことが?」


「可能性はある。それも近いうちに」

とイオアンが説明した。

「〈死者の日〉の祭りが終わると――つまり三日後に、イグマスの都市参事会が開かれる。そこに今回初めて、私がセウ家の当主として参加する。遠征中の父の代わりとしてだ。そこで水道局の予算増加を訴えて、同意が得られれば、地下水路のドワーフの数を増やせるだろう」


カルハースは疑わしそうな顔をした。

「それは何よりだが、君は参加するのは初めてなんだろう? そんなすぐに上手くいくのか?」


「正直、お前の言う通りだが――」

とイオアンは頷いた。

「都市参事会だけでなく、関係各所にしつこく訴え続ければ、多少なりとも予算を増やせるだろう。ダマリを解放するのと違って、こっちは正当性のある活動だからな。私がどれだけ派手に動いても問題はないし」


「それが上手くいったら?」とエルが期待する顔で問いかけた。


「もし、すべてが上手くいけば、一か月ぐらいで地下牢周辺から屍食鬼を一掃し、調査も完了するかもしれない。そこまでいけば、ダマリをどうやって救出すればいいか見通しも立っているだろう――」


イオアンは二人の顔を見回した。

「これが、ダマリの救出に関して、現時点で、私が提示できる最良の案だ」

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