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死者の日~難攻不落の牢獄塔から、四日間で、無実の仲間を脱獄させる方法  作者: 神代紫音
第一幕 再会 第二場 屋根裏部屋:カルハースが、無実の罪で捕まっている仲間について相談する
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第五話 カルハースの覚悟

「お前たちだけの問題じゃない!」

イオアンは叫んだ。

「こうして、ここにお前たちが姿を見せた以上、私は巻き込まれている。お前たちが捕まったら、私まで関与が疑われるじゃないか!」


「ほら、またいつもの保身だぜ」

エルが後ろで呟くと、カルハースは、それを抑える身振りをした。

「君に迷惑はかけない。それは誓おう」

「どうして、迷惑をかけないと誓える」

イオアンは目を細めて指摘した。

「尋問されても、絶対に自供しないなんて、私は信じないからな」

「そもそも、我々は捕まるつもりはない」

「馬鹿な!」

イオアンが叫んだ。

「お前たちは、知らないからそう言うんだ。私の牢獄塔の説明だって限定的なものなんだぞ、すべてを知っているわけじゃない。あそこから囚人を脱獄させるなんて、絶対に無理なんだよ」

「そういう問題じゃない」

カルハースは静かに、イオアンの意見を否定した。

「無理だろうが、我々は、やる」


「――エル、お前も同じなのか?」

イオアンが助けを求めるよう顔を向けると、エルも黙って頷いた。理性の通じない二人に、イオアンは慄然りつぜんとする。

「じゃあ――何人で襲撃する気なんだ」


「襲撃という言葉は、穏やかじゃないな」

カルハースが落ち着いた表情で語った。

「囚人を脱獄させるために、昔から色々な方法が試されてきた。今回、いちばん効果的な手法を採用するつもりだが、君の質問に答えるなら、五人だ」


「五人――」

イオアンは気が遠くなりそうになる。

「たった五人で、ダマリを脱獄させるつもりか」


「うむ、君もよく知っている五人だよ」

カルハースが胸を張った。

「私、エル、ダルトン、ブシェル、ディオンの五人だ。私としては六人のつもりだったから、君の不参加は残念でならない」


「他の者には、応援を頼めないのか」

「他の者、とは?」

「首なし騎士団には、お前たち以外にもたくさんいるだろう」

「イオアン君、前回話したことを、もう忘れたのか。私たちは、騎士団の他の一党からは縁を切られている。私たちだけでやるしかないのだ」

「絶対に失敗する」

イオアンは頭を抱えた。

それを見たカルハースが嫌な顔をした。

「君に応援してくれとは頼まない。だが、せめて、我々の士気を落とす発言だけはつつしんでもらいたい」

「そうはいくか。絶対にやめろ!」

カルハースは顔を背けた。

「君に、意見は求めてはいない」


「それでもやると言うのなら」

イオアンが思い詰めた表情になった。

「総督府に、お前たちの計画を知らせる――」


「イオアン君――」

カルハースは腰を浮かせ、さっと、ベルトに手をかけたが、短剣を下で預けたことを思い出し、椅子に座り直した。

「さっきも言った通り、君に迷惑はかけない」


「さっきも言った通り、そんな話は信じられない」


「もし、捕まったならば――」

カルハースは深く溜息をつき、目を閉じた。

「処刑人の手にかかることは百も承知だ。だから、そのときに我々は、ただちに自らの命を断つ――君との関係は、誰にも分からないはずだ」


カルハースの覚悟に、イオアンは言い返すこともできず、むっつりと黙り込んだ。しばらくしてから「それは、犬死だ」と、ぼそりと口にした。


「その可能性が高いことも理解しているが、まだ決まったわけではない」

カルハースは、寂しげに笑みを浮かべた。


イオアンは溜息をついた。

「ひと月前、死にかけた私に、生きることの大切さを説いたのはお前だぞ。そのお前がなぜ、そうまでして死に急ぐ?」

「何度も言うようだが、我々は最初から死ぬとは思ってはいない。だが、君の問いに答えるなら、君と我々とでは、まったく状況が違う」

「どう、違う?」

「君は最初から、生きることを諦めていた。だが、私たちは生きるために、死への可能性を受け入れているのだ」

「よく、分からない」


「我々は、騎士団の長老たちによる一方的な判断のせいで、他の一党との関係を禁じられ、軍馬の供給も途絶えてしまった。それでも何とかやってこれたのは、ダマリの奇跡的な能力のおかげだった。ダマリの動物への素晴らしい共感能力があったからこそ、傷ついた軍馬や野生馬を訓練し、それを売ることで、我々は五人はこの状況でも暮らしていけた。だが、ダマリが捕まり、その道も断たれた。こうとなっては、ダマリを取り戻さない限り、我々が生き延びるすべはないのだ――」


イオアンは、エルに顔を向けた。

「お前はあくまで騎士団の見習いでしかない。別の道を歩むこともできる。それでも、死ぬかもしれなくても、ダマリを助け出すつもりなのか」

エルは、せせら笑うように答えた。

「ダマリは俺の仲間さ。それだけでも理由は十分だろ」


「仲間、か――」

仕方ないというように溜息をついたイオアンが、二人に告げた。

「私は少し前、ダマリに会いに行ったんだ」

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