【ミステリー小説】心の方程式
【ミステリー小説】心の方程式
プロローグ
鈴木亜希子は、ベッドの上で目を覚ました。体は鉛のように重く、頭はズキズキと痛む。一体何が起こったのか、思い出せない。
ふと、ベッドサイドのテーブルに1通の手紙が置かれているのに気づいた。震える手で手紙を開くと、そこには亜希子の字で綴られた、奇妙な方程式が書かれていた。
【方程式1】感謝の目 × 好奇心 = 小さな幸せの発見
【方程式2】自分らしさ × 勇気 = 心の解放
【方程式3】人との絆 × 思いやり = 幸せの共有
亜希子は混乱した。自分がこんな方程式を書いた覚えはない。一体誰が、何のために?
そして、もう1つの疑問が頭をよぎる。自分は何故ここにいるのか?記憶が全く繋がらないのだ。
Chapter 1
亜希子は病院のベッドにいた。医師の説明によると、1週間前に自宅で倒れているところを発見され、緊急搬送されたらしい。
幸い命に別状はないものの、その1週間の記憶が全く欠落しているという。
「一時的な記憶喪失だと思われます。徐々に思い出していくかもしれませんし、二度と戻らない可能性もあります」
医師はそう告げると、亜希子を残して部屋を出て行った。
呆然とするしかない。でも同時に、亜希子の胸には1つの確信があった。
手紙に書かれた「心の方程式」が、記憶喪失の謎を解く鍵になるはずだと。
Chapter 2
退院した亜希子は、手がかりを求めて自宅を調べ始めた。
すると、書斎の机の引き出しから1冊のノートが見つかる。
そこには、亜希子の几帳面な字で、この1年間の日記らしきものが綴られていた。
最初のページには、こう書かれている。
「今日、私は気づいてしまった。心を豊かにする方程式に。でもそれを知ったとき、私の心は闇に閉ざされた。本当の幸せとは一体…」
そこから先は、ページが破り取られていた。
日記の終わりには、1人の男性の名前が書かれている。
田中雄二──亜希子の夫の名前だ。
Chapter 3
亜希子は、夫の雄二に会うため、その職場を訪ねた。
雄二は亜希子の記憶喪失を知り、驚きと動揺を隠せない様子だった。
「君が倒れる数日前から、様子がおかしかったんだ。心の方程式だとか、意味不明なことを言っていて…」
雄二の言葉は、亜希子にさらなる疑問を投げかける。
自分は心の方程式に気づいた後、いったい何を知ってしまったのか?
真実に近づくほど、不安は募っていった。
Chapter 4
亜希子は、親しい友人の鈴木美香に会うことにした。
美香は、亜希子が倒れる前日、会っていたらしい。
「亜希子ちゃん、その時とっても怯えた様子だったわ。『もうすぐ私、消されるかもしれない』なんて言っていたの」
美香の言葉に、亜希子の背筋が凍る。
「心の方程式を知った私は、もう生きられないの。だって私は、あの人が…」
美香はそこまで言うと、急に口をつぐんだ。まるで、恐ろしい事実を口にするのが怖いかのように。
Chapter 5
一晩中眠れずに過ごした翌朝、亜希子はあることに気づいた。
心の方程式は3つ。でも、日記に書かれていたのは、最初の1つだけ。
残りの2つの方程式は、まだ明かされていない。
その時、雄二から電話が入る。
「亜希子、君に話がある。今すぐ会えないか」
雄二の声は、どこか緊張した様子だった。
待ち合わせ場所に向かう電車の中、亜希子はぼんやりと車窓を見つめていた。
初めての乗車だというのに、見覚えのある景色。
そして、目的地に着いたとき、亜希子は息を呑んだ。
駅前に佇む、小さな喫茶店。
そこは、亜希子と雄二が初めて出会った場所だったのだ。
Chapter 6
喫茶店で雄二と向かい合った亜希子は、戸惑いを隠せずにいた。
「どうして、ここなの?」
雄二は苦笑しながら、切り出した。
「君は、ここで真実を知ったんだ。私が隠していた、恐ろしい真実を」
雄二の告白に、亜希子は言葉を失う。
この1年間、雄二は亜希子に嘘をついていたのだ。
心の方程式に気づいた亜希子は、夫の偽りの幸せに気づいてしまった。
だから、記憶を失う羽目になったのだ。
「私は、本当の幸せを求めていたの。でも、あなたとの生活は、偽りに満ちていた」
亜希子は泣きながら、そう告げた。
雄二は、深いため息をついた。
「君が方程式を知った時、私は恐れたんだ。本当の君を失うことが」
そう言って、雄二は亜希子に1通の手紙を差し出した。
「これが、君が最後に残したメッセージだ。読んでほしい」
エピローグ
亜希子は、雄二から受け取った手紙を開いた。
そこには、最後の2つの方程式が記されていた。
【方程式2】自分らしさ × 勇気 = 心の解放
【方程式3】人との絆 × 思いやり = 幸せの共有
そして、亜希子自身の言葉が続く。
「私は、本当の幸せを求めて、1人旅に出ます。
自分らしさを取り戻し、新たな絆を探すために。
いつかまた、心から笑顔で会える日を信じて」
亜希子は、雄二を見つめた。
「ありがとう。私、やっと自由になれたわ」
そう告げると、亜希子は喫茶店を後にした。
心の方程式を胸に、亜希子の新しい旅が始まる。
偽りの幸せから解放され、本当の絆を探す旅が──。