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根古谷猫屋  作者: 八花月
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009

 中は存外に明るかった。ひんやりとして気持ち良い。意外なことに(といっては失礼かもしれないが)お客さんもちらほら居る。


 本棚はあまりなく、大抵の本は床から積み上げられていた。お客さんも屈んで下から丁寧に売り物の本を確認している。


 土蔵はそんなに広くないので、古本がみっちり詰まっている雰囲気で商品の量が多めに見える。計算してやったわけではないだろうが(何せ家賃が払えなくなった結果なので)これはケガの功名というやつではないだろうか。


「これってどうやって買えばいいんですか?」 


「ああ、好きに見てもらって、気に入ったのがあれば声をかけてくれればいいんですよ」


 僕の知っている〝店舗〟の感じとはかけ離れているので、新鮮だ。


 入口は一つ。何も改造していない土蔵の狭い出入り口が一つあるだけ。その近くには各務さんが旧式のレジを置いて陣取っている。心理的圧迫があり、万引きはやりにくいかもしれない。


「えーっと、商品はまた今度ゆっくり見せてもらいたいんですけど、今日は相談したいことがあって」


「なるほどなるほど。じゃあこっちへ来てください」 


 バックスペース……というほどでもない、レジの後ろの空間に通された。お客さんからも丸見えである。


「どういうご相談ですか?」


 本当に嫌な顔せずにこう言ってくれる。そんなに知っているわけではないが、こんな大人は珍しいんじゃないだろうか? 


 各務さんみたいな人が近所にいてくれて良かった、と僕は心底ほっとした。


「あの……ですね。実は、僕の婆ちゃんが子供の頃猫の言葉が分かるようになった時期があった、って話してくれたことがあって……。あ、ボケてるとかじゃなくてですね、ほんの雑談っていうか退屈しのぎの昔話みたいな感じで……」


 僕は考えてきた言い訳というか作り話を語った。少し良心が痛むが、さすがにそのままは話せないのでしょうがない。


「へえ……猫の言葉を」


 各務さんにしてもさすがにこの話は予想外だったようだ。意表を突かれて呆然としている。


「ええ。意思の疎通が出来てたらしいんですけど。なんかいつの間にか出来なくなってたらしくて……。その原因というか、どうしてそういうことが出来たり出来なくなったりしちゃうのかな、っていうのが気になって……婆ちゃんに訊いても忘れたっていうばかりで……」


 僕の言葉の語尾はだんだん小さくなってゆく。


 だいたい何故それを各務さんに訊かなければいけないのだ? 我ながら全然筋が通っていない。

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