第9話
特に追手など来ない平和な旅が続いていたが、ついにイベントが発生するかもしれない。
そう、国境超えである。
見えてきた大きな壁。
そして今まで出会っていなかった人達がいっぱい居た。
門の所では荷物チェックなどしているが、果たして魔法バッグはどうするのか。
それよりも、この長い行列よ。
結構な人数が並んでいるのを見ると、何だか数量限定の品を買いに来た人達っぽく見えたりするのは現代人の感覚からだろうか。
まあそんな現実逃避をしていても仕方がないので列に―――
「ちょっと待ってて」
リシアさんがそう言うと列を無視して門番の所に歩いていく。
何やらやり取りがあった後、非常に焦り始めた兵士達が門の所で並んでいる人達を一時的に端に追いやる。
そんな様子を見ていると、こちらに帰ってきたリシアさんが
「さあ、行きましょうか」
と平然とした顔で言った。
―――ん?
意味がわからない。
と思っていると他の皆さんも『じゃあ行くか』という感じで歩いていく。
混乱しながらも付いていくと、何故か列に並ばず兵士達と会話もせず門を通り抜ける。
てっきり、魔法バッグやその中身で色々揉め事が起こったりとか、袖の下を渡してやり過ごすとか、通行税を支払うだとか何かしらのイベントがあるものだと思っていたのに。
完全に混乱している俺にルルさんが『スグに理由は解る』と教えてくれた。
……いや、今のを教えてくれたというのか?
何だかよくわからないが、まあ旅ももうスグ終わりだ。
最後まで頑張るとしますかね。
一方その頃。
ファルス王国の地方都市『ラングレー』では、色々なことが起こっていた。
まずはギルド協会の会長であるサルザード。
この街は地方都市の中では国境に面していて大きいが、特に何かしらの特産品が無い。
もう1つ言えば、スグ隣の国であるガーナック王国の地方都市『エーアイ街』には、冒険者が一攫千金を夢見る迷宮が何と2つもある。
そのためこの街は、迷宮のあるエーアイに行く時に立ち寄る街程度なのだ。
冒険者達もそちらに行くため、あまり良い冒険者が居付かないこともあり、それら関連の仕事もほぼない。
国境故にそこまで寂れることはないかもしれないが、それでもあまり先が無いとも言える。
そんな時だった。
田舎から出てきてモングさんとの繋がりのある商人。
彼はどういうルートなのか、非常に貴重な品を複数持っているらしい。
早速モングさんが王都に持ち込んだ石鹸も、今では王妃様のお気に入りだ。
あまりにも気に入ってメイドに直接購入させに行ったことで色々問題になったぐらいだ。
つまり今回来た商人を優遇して街に店でも構えてくれれば大きな変化を生むかもしれない。
そう思って期待していたのだが―――
「あのクソ貴族ッ!!」
本来は領主にそんなことを言おうものなら処刑されても文句は言えない。
しかし今回は、少し事情が違う。
せっかくの街のためになる大きな金の木を奴は早々に叩き折ったのだ。
気づいた時には全てが手遅れだった時の私の気持ちは、きっと誰にもわかるまい。
モングさんに協力を依頼して何とかあの商人を街に引き戻して貰うようには頼んでおいた。
「あくまで提案だけですよ」
とは言われたが、何もしないよりはマシだ。
せっかくのチャンスを潰された形になり、あまりの悔しさに仕事が手につかない。
イライラする腹いせに、手元にあった紙束を思わす投げた。
ファルス王国の王宮では、今回の件が石鹸を運ぶメイドよりも先に伝わっていた。
国内各地を調査して回る王家直属の部隊からの報告である。
彼らも商人と石鹸に興味を持ち、調べようとしていた所だったのだ。
今まで他国を含めても見たことがない石鹸。
その使用感に虜になった王妃は、無事購入出来た知らせに喜び、そして子爵のやらかしに激怒した。
「アレは他国でも出回ってないものなのですよ!?その唯一の商人を恫喝して他国に追いやるなど―――!!!」
あまりの鬼気迫る様子に王様は早々に逃げ出した。
そして逃げ出す訳には行かない諜報部は、ひたすらにブチ切れた王妃の罵声を浴び続けた。
しばらくして冷静さを取り戻した王妃は
「何としてでも商人をこちらへと招くのですッ!!そして馬鹿子爵を我が前に引き摺り出しなさいッ!!!」
その叫び声のような命令に、諜報部は急いで行動するのだった。
一方、商人が街を出たことを知り、怒り狂って追手を差し向けようとする子爵は知らなかった。
数日後には街に騎士団が現れて子爵を王都に連行しにくるなんて。
そして怒り狂った王妃によって極刑が言い渡されることを。
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