第6話
えー、皆さんこんにちは。
異世界で商売しながら気楽に生きようとしていた人です。
「まあ仕方がないのかなぁ」
見たことが無い食料に明らかに新品っぽい装備達。
よく見りゃ中古品とかも普通に取引しているのを見るとやっぱり値段がネックなのかな。
にしても個人的には良く剣などを中古で買おうと思うよね。
途中で折れたりしたら最悪だろうに。
しかし1時間経とうが3時間経とうが客が1人も来ない。
遠巻きにチラっとみられる程度だ。
仕方がないので商売用に置いてあるフランスパンサンドを1つに100%ジュースをコップに入れる。
そして昼飯代わりにと食べる。
いや~、程よいフランスパンの硬さにハム・チーズ・マヨのゴールデントリオによるダイレクトアタックは最高ですね。
しかもそれらをキンキンに冷えた程よい酸味と甘みの果樹ジュースが口の中をリセットしてくれる。
そして再度また1口目の感動を味わうのだ。
「ホント、うっめぇ~」
思わず口に出しながら食べていると、明らかに人妻って感じの女性が近づいてきた。
「……それ、美味しいのかい?」
「美味くなきゃ売らないよ」
「でも銅貨5枚かぁ」
「肉やチーズなんかも入ってるからね。よしアレだ。初めての客だ。割引で良いから食べてってよ」
「えっ!?」
「銅貨3枚でフランスサンドと100%ジュースだ。銅貨10枚分が何と3枚ってならどうだい?」
「ほ、ホントかい? なら1つ」
「おう、毎度アリ」
俺はテキパキとした動きでサンド1つと紙コップに入ったジュースを渡して代金を受け取る。
女性は2つを見比べると恐る恐る口にして―――
「本当に美味いね、これ!」
驚きの表情と共に声を出してくれた。
そりゃ一応市場を巡って色々食べてきたからね。
焼き鳥みたいなのもあったけど、塩もタレも無い素焼きであまり美味しくなかった。
黒パンはクッソ硬いし、野菜たっぷりスープとやらも銅貨5枚取る割には野菜が2~3個あっただけ。
そんな中に地球産の格安とはいえハム・チーズ・マヨのコンボは、まさに革命と言えるだろう。
女性は恐ろしい速さでパンもジュースも一気に食べきった後、正規の値段でフランスサンドを1つ購入して去っていった。
やっと売れたと感動しつつ、気合を入れて再度商売を―――と思っていたが客が続くことはなく夕方になる。
「次の鐘の音で終了でーす」
広場を管理しているという奴が、そんな言葉を叫びながら歩いていた。
まあ初回はこんなものだろうと店じまいを考えていると
「ちょっとそこの武器を見せてもらっても?」
鎧を着こんだデカいオッサンが立っていた。
あまりの迫力に思わず「はい、どうぞ!」と返事をしてしまったよ。
鉄の剣や槍等を色々手にして素振りしてみたりと真剣なまなざしで色々と見ていた。
やっぱり中古より新品だよねって何故か心の中で新品を見に来たオッサンと謎のシンパシーを勝手に感じていると
「これだけしか武器は無いのか?」
「おや、お気に召しませんでしたか?」
最高品質の低級装備を定価より少しだけ安く売ってるんだけどなぁ。
しかもメインは鋼シリーズだ。
剣・槍・斧・弓と用意してあり、弓に関してはオマケの矢も鋼製の鏃である。
鉄装備で誘き寄せ、持ってそうな客に鋼を押し付ける。
万が一売れなくとも、最初から持ってるカバンがマジックバックなのだ。
これに入れておけば問題ない。
という完璧な布陣だったのに………
「まあよく考えればこんな田舎の街の露店にしては品揃えが良かった方か」
悪意を感じさせないあたりが余計にムカつく発言ではある。
「丁度、メインの武器が壊れてしまってね。まあこんな田舎でメイン武器に出会えるなんて思っちゃいない。これから王都に向かう間の繋ぎが欲しいだけだ」
繋ぎとして使うなら体格が良いオッサンだし鋼の斧とかで十分じゃないですかーって言いたくもなるが、それをオッサンの装備が許さない。
よく見ると何かの鱗で出来ていて、見るからに特注品だと解る。
こちらからすればそれなりの品だけど、オッサンがこれで鋼の斧なんて持ってたら、逆に斧の方が玩具に見えてしまう。
それぐらい鎧とバランスが取れていないのだ。
「まあ、通りにあった武器屋よりは数倍マシな品揃えだったよ」
そう言って去っていこうとするオッサン。
「ちょっと待った~!」
それを引き留める俺。
「ん?なんだい兄ちゃん。俺もあまり暇じゃないんだ」
明らかにこちらへの興味が無くなっているオッサン。
しかしここで引き下がる訳にはいかない。
商売人をやると決めた以上、求めている品が無いのは解るが、それでもだ。
例え悪意が無くとも舐められた態度だけは許せねぇ。
俺が通販スキルを色々と試している時に購入したものの中で、扱いに困っていたものがある。
「ウチで一番の品が見たかったんだろう?……今、見せてやるよ」
本来はどれぐらいの値段がするのか確認するために購入したものの1つだ。
まさかもう出番があるとは思わなかった。
さあ、食らいやがれ。
オッサンが「田舎の露店」と見下した店が出す、最高の一品をッ!!
取り出した武器を台座に乗せる。
■オリハルコンの斧
全てがオリハルコンで出来た斧。
見た目に反して非常に軽く、丈夫で鋼クラスなら一刀両断可能。
*付与特性:切れ味上昇+10
物理防御+10
必殺率上昇+10
壊れにくさ+30%
平均価格:金貨200枚~350枚
斧を見たオッサンは驚きながらも斧を手にする。
そしてじっくりと確かめるように斧を振るう。
「……兄ちゃん。いや店主よ。これが何か解っているのか?」
「全てがオリハルコンで出来た斧です。はるか東の国の迷宮で出た品らしく、巡り巡って現在私の所にあるという感じです。モノがモノだけになかなか売れませんで」
レベル2ってどれぐらいのものが買えるのかなって思ったらこれだった。
付与特性は購入した際にランダムで付与されるっぽいが、これは大当たり品だったりする。
仕入れた情報によると、今の鍛冶屋ではオリハルコンを完璧に扱えないらしく、鋼の剣などの刃の部分にコーティングすることでオリハルコンの切れ味を出すって感じの使い方が主流らしい。
なのでコレみたいな完全オリハルコンなんて人間どころか、武器製造を得意とするドワーフでも無理だと言われる、まさに伝説級の武器らしい。
そういう意味もあって店には出さなかった。
そして迷宮とかいうファンタジーお馴染みのものがあって、そこでは冒険者達が一発逆転を賭けて潜っているらしい。
だからその辺の設定を賭け合わせれば何とか誤魔化せると思って前々から考えていた斧の設定を話す。
「……ちなみに、いくらだ?」
「金貨200枚ぐらいでしょう。王都などなら300枚の値が付いてもおかしくはないかと」
「まあ、それぐらいはするか」
「正直、私が持っててもアレなので金貨100枚ぐらいで誰か引き取ってくれるとありがたいってのが本音ですけどね」
「―――本当に金貨100枚でいいのか!?」
急にガチ恋距離までオッサンに迫られるとか、何の罰ゲームだよ。
押し返そうにも歴戦の冒険者相手に運動もロクにしてない俺では無理だ。
「は、はい。武器は使うものですので、商人の私が持ち続けても意味がありませ―――」
「どのぐらいここに店を出すつもりだ?」
えらく食い気味じゃん。
「え、えっと……4~5日ぐらいを予定してます」
「なるほど、ではそれぐらいまでに頑張って用意するとしよう」
そういうとオッサンは斧を置いて去っていった。
あまりの迫力に金貨100枚で売ることが決定してしまった。
え?
用意するって、もしかして買う気?
金貨100枚とか個人的には1億ぐらいの感覚よ?
でもあのオッサンの雰囲気はヤバかった。
まさにファンタジーで登場するような歴戦の猛者って感じがしてさ。
なんて思いながらその日の営業は終了した。
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