第3話
―――あ~、くっそ怖かった。
初めての殺し合いの現場に殴り込みをかけるなんてハードル高すぎるだろと。
一応、催涙スプレーやらグレネードみたいな投げ込み式のやら高級防刃ベストやら毒マスクやら色々購入した。
両手にあるのも合金の小型盾である。
万が一のために1点限りのスタンバトンとテーザー銃を購入したが、もう高いのなんのって。
おかげでほとんど全て使い切ってしまったよ。
だが高級な防刃ベストで良かった。
まさか矢が綺麗に刺さるとは思わなかったが、鉄がぶつかった衝撃だけで済んだ。
正直それだけでも痛かったが、刺さって死ぬよりマシだ。
……さて、これからどうやって生きていこうって感じ。
更に倒れていたダンとかいう兄ちゃんを助けるために1つ5万もする下級ポーションとやらを異世界通販スキルで購入したりもした。
冒険者達には感謝され、商人っぽいオッサンにも感謝されたが完全に赤字である。
一応、辺境の村から出てきた商売人を目指す若者という設定にしておいた。
せっかく若返ったのだからそんな設定でいいだろう。
そしてこの世界の常識が解らないので商人のオッサン……モングさんに色々と教えてもらうことにした。
これぐらいの情報は対価に貰っても良いはずだ。
モングさんは見た目通りそれなりの商人らしく、結構色んなことを知っていた。
助けてくれたお礼にとお金も貰ったし、相場を知るためにコッソリ通販で購入した日用品やサバイバルナイフに異世界通販の方で購入したナイフなども見せた。
すると品質が素晴らしいと気に入って全て購入してくれたおかげで、しばらくお金に困ることは無さそうだ。
情報の方も周辺の国のおおまかな話に貴族や王族といった連中のこと。
商売をやる上での話や、お金の価値などだ。
昔読んでいたラノベの主人公みたいにオーバースペック品を出しまくって目立ちまくった挙句に「俺何かしましたっけ?」と首をかしげることだけはしたくない。
あれは物語を面白くするためのスパイスであってリアルであんなことしていたら、そりゃもうギャグでしかない。
どれだけ進んだであろうか。
この日は野宿をして、明日の昼頃には街に到着する予定らしい。
別に寒くも熱くも無いとはいえ布切れ1枚で外で寝るというのは、相当文化レベル的にどうかと思ってしまうのは俺だけだろうか。
それでも幸先が良いスタートかもしれない。
なんたって必須である情報が結構得られたのだから。
そして次の日。
トイレなんて無いので近場の草むらを拝借している時だった。
見たことがある封筒が1枚、目の前に現れた。
「あまり無理をしないように。ただ良い事をしましたね。これはその報酬です」
その文字を読んだ瞬間に封筒は消え、頭の中に声が響いた。
通販スキルがレベル2になりました。
異世界通販スキルがレベル2になりました。
臨時ボーナスとして10万ポイントが振り込まれました。
「……ありがてぇ!!」
ほとんど使い切ってしまってどうしようかと思っていた所でこれはありがたい。
元手があれば、あとは地球アイテムをそれとなく売りさばけば大儲け。
念願のスローライフが手に入るだろう。
そしてそれから何事もなく街に到着した。
街の入口でよくあるような身分証が無ければお金を払え!みたいなやり取りはモングさんによって終了してしまう。
どうやら俺を従業員として申請してくれたらしく、お金を払わずに済んだようだ。
モングさん、ええ人や。
『地方都市:ラングレー』
辺境の街の中でも比較的治安が良く大きめな街らしい。
モングさんは、ここで商売をしてから王都に帰るみたいだ。
元々はそちらに店を持つ商人だと言うのだから、きっとそれなりに上位な商人なのだろう。
「もし来ることがあればぜひとも来て欲しい」
そう言ってモングさんとは別れることになった。
そして冒険者4人組も俺にお礼を言って去っていった。
「いつかポーションのお礼をする」
その言葉が真実になるように、頑張って欲しいものだ。
街中を見ながら向かう先は商業ギルド。
ファンタジー世界よろしく、冒険者ギルドや商業ギルドなどがあるらしく、そちらに所属してカードを貰うと身分証になる。
そして貢献度によるランクがあるなど、完全にラノベの世界だ。
教えて貰った場所へ行くと大きな建物がある。
入口には巨大な木で出来た袋からお金らしきものが溢れているマークの看板。
聞いていた通りの見た目に安心しつつ中へと入る。
中は結構広々としたロビーだった。
正面にはカウンターがあって見た目の良い女性達が立っている。
この辺は会社の受付嬢的なやつだろうか。
その横には巨大なボードがあり、何やら色々紙が貼りつけられている。
少しだけ見ると魔物の発生状況や盗賊などの情報が書かれていた。
ここで情報共有して災難を回避しようって話だろう。
色々考えながら受付の列に並ぶ。
といってもまあ2人だけなのでスグに順番がやってくる。
「ようこそ、商業ギルドへ。どのようなご用件でしょうか?」
「えっと、知り合いの商人に『商売をするならギルドに登録すべき』と言われたので来ました」
「……なるほど、ではこちらの紙にご記入をお願いします」
出された2枚の紙を確認する。
1枚目は個人情報だ。
名前と主にどんな商売をするのか、といった感じだ。
いきなり店を構える訳でもないので、名前を書く時点で考える。
『佐々木 進』
これが俺の名前だ。
安易にすすむでも良いのだが……海外っぽく読み方を変えるのも悪くない。
……よし『シン』だ。
シンプルでわかりやすいだろう。
せっかくの第二の人生なのだから新しい名前で生きていこう。
商売の所は露店・行商と書いておく。
しばらくはこの街で色々売るつもりだが、ずっと居るか解らないからな。
登録料は銀貨1枚……高いな。
いや、年パスと考えれば安いのか?
この世界の金は基本4種類。
鉄貨
銅貨
銀貨
金貨
登録料というか身分を証明するのに年単位で更新しなきゃならんらしい。
俺のような新人は年間銀貨1枚。
感覚的には数万ぐらいかな?で身分を1年保証してやるよというやつだ。
記入を終えて2枚目の書類に目を通す。
商人同士の揉め事はギルドに言えとか書いてる割には貢献度が参照されるって何このクソ規約。
しかも規約に無いことでもギルドが言えば無条件に従うみたいな文言があるのも何故だ。
要約すれば下位の商人は何を訴えても上位の商人には勝てず平等・公平すら訴えられない。
更にギルドに目を付けられればどんな理不尽な要求も受け入れなければならず、それらを無視したり一方的に脱退しようとすると金貨100枚を違約金として支払うらしい。
……何この奴隷契約。
あのオッサン、こんなルールだと教えてくれなかったが。
いや、これが当然とかこの世界の商人は全員ドMだろ。
これならまだ商業ギルドに口を挟まれない程度の年間売り上げで止める売り方をしながら生活した方が数倍マシだ。
もしくはギルドが関係無い場所や条件の所で大口取引を探す方がまだ堅実的と言える。
俺が新人だと侮ってロクに契約書なんて読まないだろうと思って出してきた可能性も無くはないが、公平・公正を謳うギルドが自分から信用投げ捨ててどうするよ。
「あの、記入は終わりましたか?」
俺が呆れていると受付嬢が声をかけてきた。
「ちょっと確認なんだが―――」
せっかくなのでこのドM契約書はなんなのかを確認した。
しかし返ってきたのは『ご記入頂くのがルールなので―――』というテンプレ回答だ。
ぶっちゃけ話にならないとはこのことである。
「ああ、じゃあ登録は結構です」
「え、あ、ちょっと!」
後ろで何か言われている気がしなくもないが、それを無視して建物から出る。
そして万が一のために聞いていた宿屋へ直行する。
街のど真ん中の広場に面した一等地に建つ立派な宿屋。
その中に入ると中は隣の食堂と繋がっており、カウンターが別れていた。
俺は宿屋の方に建つ豊満ボディのおば様に声をかける。
『すいません。こちらにモングさんが居ると聞いたのですが』
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