第29話
「金が出てってばっかりだ」
思わずため息を吐く。
ここ最近、投資することが多くて貯め込んでいた金が、湯水の如く使われていく。
真っ当な商売をしている商人では、とてもでは出せない金額だ。
チートによる超有利な商売が出来る俺だからこそという感じの投資量に、色んな権力者達から呆れられるが、俺だってこんな形で目立ちたくはない。
そのせいでまた仕事熱心な盗賊の方々が、何度も何度も店を襲撃してくる。
もういっそ店の正面に警備兵の駐屯地を作っても良いぐらいだ。
まあ幸いにして警備で雇った引退冒険者達や、ガーゴイル君の活躍によって人的被害は出ていないが。
引退冒険者達には、迷宮産のアイテムを過剰に持たせている。
ガーゴイル君に関しては、俺以外にシャーリーにも命令権を与えたある。
そのせいでちょっとした盗賊どころか、現役Aランク冒険者もビックリな戦力になっており、事前調査をしっかりしてる野盗は絶対に避ける店だとも言われるようになっていた。
そりゃ引退冒険者達には、フル装備を与えている。
現役の頃より格段に強くなったと高評価だ。
シャーリーもガーゴイルの使い方が上手くなっていて、もはやガーゴイル使いのようになっている。
面白半分で人型ゴーレムを追加してみたら、玩具を与えられた子供のように動かして遊んでいたので習得は早そうだろう。
ちなみに人型ゴーレムには引退冒険者並みの装備を着せて巨大な盾や実験で作らせた刺股を持たせてある。
防犯面では問題ない。
しかしやはり出費がデカい。
特に街の中央の集合住宅っぽいのは全て破壊し、新たに巨大な店を作ることになった。
これにも莫大な金がかかっている。
正直これらを捨てて街から逃げるとなれば、俺は相当荒れるだろう。
―――しかし、それでも多分出ていくのだろう。
何となくそう思ってしまう。
何故ならチート能力さえあれば、どこでもやり直せる自信が付いたからだ。
今までやってきた商売や人間関係は、決して無駄ではなかった。
などと考えながら、俺は目の前の焼き鳥を焼く。
炭火によってしっかりと熱を通すが、焦がさないように注意しなければならない。
じっくりと火を通して、ここだというタイミングで引き上げる。
そして軽く追加で塩をひとふり。
「塩もヤバイな」
そんな声に塩を探す客達だが、残念ながら隣のおばちゃんの所はタレ専門だ。
それに俺の食ってる鶏肉は、通販スキルで購入した地球産である。
俺は屋台で出会った以前タレと肉を交換したおばちゃんに捕まっていた。
タレを定期的に購入したいらしい。
それなら店で売るから買えば良いというと、今すぐ欲しいと言われてその場で3本ほど売った。
どうやらかなり売れていたようだ。
料金の一部として場所を少し貰ってそこで昼食代わりに自分で焼き鳥を作る。
外で食べるという美味さもあるが、客寄せパンダになってよりタレに依存して貰おうという魂胆でもある。
実際、店は好調で孤児を常に2人雇って道具の整理やゴミの始末など色々させているようだ。
孤児たちも身綺麗になったことで、こうしてちょっとしたことに使って貰えやすくもなっている。
そういう意味では良い循環になってきたとも言えた。
循環と言えば、近隣の街からドンドンとウチに仕入れにくる業者が増えた。
聞けば王都まで運べば馬鹿みたいに売れるそうな。
それによって普段はスルーされがちの小さな村なども宿場町となるべく、色々と建物が建ったりしているらしい。
そんな話を聞いていると、たまには行商みたいに別の街まで仕入れをしにいっても良いなぁなんて思ったり。
のんびり商売でもしようと思った切っ掛けも俺が旅が好きだからだ。
まあ、そんな気楽さも街の外に居るモンスター等を見ればリスクの高さに萎えたけど。
それでも乙女の旗のメンバーに頼めば何とかなりそうか?
どちらにしろ、まだまだそんな余裕はない。
やることが多すぎる。
俺のスローライフはどこへいったのか。
食事を終えると店に帰る。
そろそろ買い取りをやらないとな。
そう思って店に行くと、何やら見たことのないオッサンが待っていた。
見た目からして確実に冒険者だと解る。
大型の獣で作られたであろうマント。
その下にはミスリルで出来たであろう胸当てが見える。
籠手も魔宝石が埋め込まれていて、明らかに一点ものだろう。
髪の毛は、この辺では珍しい俺と同じ黒髪。
だがコイツは、物凄くワイルドなボサボサ髪をポニテにしているイケオジ系である。
「やっと帰ってきましたわね。お客様ですわよ」
シャーリーにそう言われてしまうとこれ以上放置も出来ない。
仕方がないので相手をする。
「拙者、名をカイデン・ムゥトゥと申す。Aランク冒険者をやっておる」
サムライ?
サムライなのか?
ここにきて拙者とか嘘だろ?
「この店には色々な武具が揃っていると聞いた」
俺の混乱など気にしないといった感じで話を進めるサムライ。
「まずは、これを見て欲しい」
■折れたミスリルサムライソード
ミスリルの刀身にオリハルコンのコーティングを施した日本刀のような剣。
切れ味が非常に鋭い反面、折れやすく、切れ味維持のために日々のメンテナンスが必須。
使い手の技量に左右されやすい。
*付与特性:切れ味+100%
平均価格;金貨250枚~350枚
見事に日本刀である。
……いや日本刀のようなって出てる時点で製造方法が違うのか?
まあ今はそんなこと関係無い。
この世界に来て初めて日本刀っぽいのを見た。
全部西洋系だし、異世界通販もそっち系ばかりだったのでそう思っていた。
……まあレベルが上がったことで通販の中身には出てきていたんだけどね。
そこまで重要なものでもなく、わざわざ売れるか解らんものを買う訳にも行かず。
正直忘れてたよ。
「この通り、折れてしまってな。私はこのカタナと呼ばれる武器を好んで使用している。しかしこの辺りでは入手自体が困難なのだ」
そりゃそうだろう。
通販スキルで見かけた俺だって忘れてたぐらいだもの。
「そこで近くの街で、この店の噂を聞いてな。もしかしたらカタナがあるかと思って訪ねさせてもらった」
「カタナねぇ……」
日本刀じゃなくてカタナという名になってるのか。
まあ折れてるのを見ても、一般的なのより大きい。
恐らく大太刀とか野太刀と呼ばれる部類の大型日本刀だ。
ど~したもんかねぇ~。
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