第28話
クソ砦事件から、しばらく経った。
ようやく新しい砦がほぼ完成という所までもっていくことが出来た。
頑丈な壁に巨大でビクともしない扉。
その横に小さくある扉が基本的な出入り口だ。
そして巨大扉の四角には大きな穴が開いていて、そこから鋭い先端が見える。
前世ではよく遊んでいたゲームにあった対大型モンスター用の兵器だ。
一度切りになるだろうが、勢い良く飛び出す巨大槍によって扉を破壊しに来た大型種に致命傷を負わせるための兵器。
門の後ろは左右に巨大な壁で封鎖してその奥が通路になっている。
中央は何も設置しないことで平常時は訓練場として使用できるようにしてある。
そして最終防衛ラインの壁も最初のと同じ作りになっていた。
宣言通り、壁内には備蓄庫を設置。
2つを繋ぐ通路部分の右側には、冒険者ギルド出張所と酒を出さない料理屋を作る。
そして反対側である左側の通路は、全てウチの場所として2号店になるダンジョン入口店を作った。
これに関しては、本当に苦労した。
もうこれ以上、この街のことでは動かないぞと思うぐらいには。
まず酒を出さない料理屋は、孤児院と婦人会の共同経営という形になる。
ウチから仕入れたものや、奥様連中の家庭料理が中心で、騒動の元になる酒類は一切提供しない。
飲みたいなら街の酒場に行けということだ。
こうすることで街の酒場連中と揉めないように配慮にもなっている。
基本的にウチで販売しているレトルト食品は、シチューとカップ麺だけだ。
そこで湯せんで出来るハンバーグや牛丼などを提供するようにした。
ただ全てこちらに依存してはダメなので、各自で作れるような家庭料理などを出す店にする。
そして値段も控えめにすることで、安く食事を済ませたい冒険者達を囲う予定だ。
この料理屋では、基本的に婦人会のメンバーが担当し、ここに孤児院の子供達が給仕や皿洗いなどの雑務を手伝う。
更に子供達は公式なメッセンジャーというか配達員という形で、郵便・伝言屋という形で隣に小さな場所も用意した。
ここで彼らは街中限定ではあるが荷物配達や伝令としてお金をもらって働く。
特に細かな書類の提出や、ちょっとした伝言を小遣い程度で引き受けていた子供達らに、正式な事業として引き受ける形にしたのだ。
しかもこの料理屋では弁当販売を行うように指導してあるので、冒険者達からのウケも良い。
100%解決出来たとはとても言えないが、婦人会と孤児院双方に専用の仕事を作ってやることで、僅かだろうが収入源が出来たことになる。
それを順調に拡大するのか、ほどほどにするのかは、それぞれ次第だ。
あくまで俺はきっかけを与えただけに過ぎない。
2号店を作るに関しての準備も頑張った。
具体的には、追加で奴隷を購入することに。
ローレッドさんの所で家族丸ごと買い取りを希望する2組の家族を新たに追加。
彼らを新たに育てることによって人手不足にならないようにする。
あとはついでに頑張っているシャーリーにプレゼントを1つ用意した。
■鑑定の指輪
装備するだけで初級の鑑定スキルが使えるようになる魔法の指輪。
*付与特性:『スキル』初級鑑定
平均価格;金貨200枚~300枚
鑑定にはランクがあるが、初級ならある程度の情報を引き出すことができる。
ただ高レベルアイテムや、高レベルの隠蔽魔法・スキルに対しては効果が発揮出来ず騙されることもある。
それでも装備するだけで比較的便利なスキルが使えるようになる訳で。
商人を中心に人気なアイテムの1つだ。
最初に指輪を見た時は凄く嬉しそうにしていたので、選択は間違っていなかったと思っていたのだが。
説明を終えた頃には、何故か軽く睨まれるように。
最終的には、ため息を吐いて
「……まあ、そんなことだと思いましたわ」
と明らかに最初と比べてテンションが下がってした。
……解せぬ。
これで彼女も買い取りが出来なくもないが、まだ早い。
なので1号店は、そのままシャーリーに任せるが買い取りは俺の担当だ。
2号店は、基本的に頑張ってくれているハリーさん一家に任せようと思っている。
ハリーさん一家次第ではあるが、今後は彼らを奴隷から解放して一般人として雇用する形にしようかと検討中だ。
いつまでも奴隷の身分もどうかと思うからね。
砦の店はダンジョン入口に相応しい、ダンジョン向けのアイテムや装備品を中心に売っている。
といっても高級品ではなく、初心者~中級者が購入するような普通の武具と便利グッズ程度だ。
買い取りや高級な武具を購入したいのなら本店に来いという訳で。
更に以前から声をかけていた引退冒険者の数人を店舗の護衛として雇うことにした。
やっぱり何かとクレームをつけて暴れる馬鹿が居ない訳ではないからね。
一応万引き対策を含めたガーゴイル君を設置してあるが、これがまさかの大活躍。
しかし彼らはトラップを流用したものであり、中々細かな点では不具合もある。
なのでちゃんとした人間を雇用することにした。
まあ何故かこのトラップガーゴイル君は、美術品としても防犯的にも便利だとして辺境伯様がご購入していた。
確かにリシアさんの所は貴族だし、防犯に気を使うのは当然かと思ってあまり深くは考えなかったが。
こうして街に多大な貢献をした俺を誰か褒めてくれ。
……いや、辺境伯の所に呼ばれて散々褒めてもらったよ?
でもそれとは違う感じでさ?
もっと政治的なものが絡まない感じが良いかなと。
そして忙しかった日々がようやく終わりを告げる頃。
「というわけで、様々な貢献に対する返礼をしようと思ってな」
辺境伯様の、その言葉と共にドヤ顔で紹介されたのは、街の中央を陣取っていた武具屋の集合住宅みたいなところだ。
「全て立ち退いたため、ここの土地開発をキミに任せようと思う。最高の立地だろう?住む屋敷でも新しい店でも好きなものを建てると良い」
俺の絶望とは関係なく、シャーリーは凄く乗り気で1号店をこちらに移転すべきだと言い出した。
しかも新たに新規に専用の建物を建ててである。
一体どれだけの金がかかると思ってるんだよと。
頭を抱える俺とは関係無く、店のデザインからどうしようと悩むシャーリー。
お金が貯まるとスグに出ていく。
この謎の現象は何とかならないのか?
そんな俺の悩みとは別に俺がお金を街で大回転させることで、実は街では好景気の兆しが表れ始めていた。
それがジワジワと国に浸透していくことで、国家全体に貢献していたなど、今の俺が知る訳など無かった。
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