第22話
次の日。
ギルドの応接室を無理やり占拠して行われた話し合い。
何故か参加させられて困惑するアレクさん。
何故か参加したがる愉しそうなユーリさん。
元凶故に絶対参加は確定だったローレッドさん。
テーブルを挟んで右に敵意剥き出しの乙女の旗。
左側には、優雅に出された紅茶を飲むシャーリー。
とりあえずシャーリーのことをローレッドさんに説明させる。
何だかんだあって俺が購入することになった奴隷であると。
そしてアレクさんが『何で俺がそんなことを?』という顔をしながら乙女の旗が俺の面倒を見てきたことを話す。
まあそこからが謎だった。
どちらが俺の面倒を見てきたか、理解しているのか、役立っているのか。
そういった様々な部分で謎のマウント合戦が発生した。
何でそんなことになるのかまったくわからんが、ノリノリで司会者のように両者を煽るのを止めて貰えませんかね、ユーリさん?
もう俺関係無いよね?ってかお前の問題なんだからお前何とかしろよって顔でこっちを見るのは止めて貰えませんかね、アレクさん?
お祭りとか見世物みたいな賑やかな催し物みたいな感じで愉しそうに双方を観察してるだけなのは何でなんですかね、ローレッドさん?
最終的には、用意した壁が役立たずだったために両者の攻撃がエスカレート。
俺が座っている右側で右腕に絡みついているのがリシアさん。
左側で左腕に絡みついているのがシャーリー。
「がるるるるっ!!」
「きしゃ~!!」
リシアさんの背後にはクマ。
シャーリーの背後にはタカ。
2等身ぐらいにデフォルメ化されたそれらが互いの背後で相手を威嚇している姿が見えるようだ。
両者は何度も『どっちが良い』と聞いてくるが、2人というか乙女の旗のメンバーとシャーリーを比べられる訳がない。
得意分野もそれぞれ別々だし、何よりリシアさんはリシアさんで、シャーリーはシャーリーだ。
他人と比べて~なんて評価の何の意味がある?
「みんなのことは(色々役立つ意味で)気に入ってるし、(頼りになるから)1人1人の良さがある」
と言うと、全員何故か不満そうな顔をしつつも『仕方がないなぁ』という感じになった。
……いや、ホントよくわからん。
その日の夜。
辺境伯家の離れでは、乙女の旗のメンバーが会議を行っていた。
シャーリーという存在をどうするかである。
簡単に言えば、仲間に引き込むか、徹底排除かだ。
いきなり出てきてシンとアレだけ親しいアピールしてくる女など排除一択だと言う者も居る。
しかし彼女が居ればこれ以上自分達が居ない時に割り込める女が減るのでは?という声もある。
彼女らの一番の長所は冒険者として高ランクであるという点だ。
彼が困るであろう護衛や素材集めなどが自分達で出来るというのが非常に強みである。
だがその長所は一番の短所ともなり得る。
そう、冒険者故に素材集めなどクエストに出ている間は彼の傍に誰もいなくなってしまうのだ。
その隙が今回シャーリーのような女が入り込む切っ掛けとなってしまったのだ。
なので逆に彼女をこちらに引き込むことで、自分達が居ない間も彼女に隙を作らせないようにさせればいい。
これ以上の被害は抑え込めるのではないか?
でも安易に仲間に引き込むのは、こちら側が負けた気がする。
出来れば相手側から仲間に入りたいと言ってくるように仕向けることが出来れば完璧なのに。
―――――――
―――――
―――
一方同じ頃。
自室に戻ったシャーリーも似たようなことを考えていた。
恐らくあの乙女の旗という冒険者達は、シン様のことを狙っている。
全員で嫁になる気なのだろうことは、見ればスグにわかった。
だからこそ突如現れた私が気に入らないのであろうことも。
……ふふ、まさかあの泥棒猫のことを思い出しても笑っていられるなんてね?
そう言えばローレッドさんから、この前特別に色々と教えて頂きました。
祖国がどうなったかです。
我が家は、早々に私を処分したことでそれ以上の追及が無かったとのこと。
ですが王家と周辺貴族は色々と変化したそうで。
まず王家は、結局王太子を厳重注意したものの公式に罰することが出来なかったらしい。
一方的に婚約破棄され、更にその娘を奴隷落ちまでさせてまで忠誠を示した宰相に対して王族は身内に対して非常に甘い罰である。
しかも当時、侯爵令嬢がやったとされる王太子の新しい婚約者に対しての嫌がらせの数々とやらは、とある貴族が調べた結果、目撃証言だけというお粗末なものだったらしい。
そんなもので罰せられるなら、いくらでも罪を着せ放題である。
これらの結果、貴族達の間で王家に対する忠誠が一気に下がり、王都勤めの貴族の一部が領地に戻ったそうな。
その後、宰相派が内乱を起こすのでは?という噂が流れたが、これに王太子が騒ぎを起こして『仕返しで内乱を起こすとは何事だ』と証拠も何もなく宰相に詰め寄ったそうで。
それらはその場を見ていた貴族達によって見事に国中に拡散され『無能な王太子』と陰口を叩かれる始末。
見事に国が不安定化してしまい、このままでは王太子とその婚約者は、継承権を取り上げられてから生涯幽閉生活になる可能性が出てきたらしい。
ざまあみろとは、まさにこのことですわね。
―――ん、んんっ。
あまり騒ぐのもあの連中みたいで、はしたなくてよろしくありませんわね。
まあ、もうあの方々がどうなろうが知ったことではありません。
今の問題は、私の主であるシン様です。
前回は、立場やプライドが邪魔をしましたが、今回こそは負ける気はありませんわよ?
どうせ一度は何もかも捨てた身。
だったら自分の幸せぐらい自分で勝ち取ってみせますわ。
それに今の私にとって彼ほどの優良物件はありませんもの。
女にだらしがないどころか、女性慣れしていない様子。
いくら儲けのある商人だからといってあの若さでポンと金貨600枚も出せる財力。
何より店を見ても解るように、珍しくも役立つ商品の数々。
奴隷や従業員の扱いも悪くありません。
本来なら1人用の狭い部屋に無理やり3人分のベッドを詰め込んで~なんて貴族でもやることだ。
それをちゃんとそこそこの広さの部屋を1人1つ用意している時点で貴族よりも贅沢で、あり得ないこと。
最近購入したという従業員になる奴隷の一家も、どうやら情に負けて購入したようで甘さが目立つのが欠点ではあるけども。
まあその辺は可愛らしいものですわ。
そういったものを妻である人間が適度に管理してあげれば問題ないでしょう。
1年もすれば大きな屋敷を買うぐらいの資金は貯まるでしょうし、その辺りで結婚して、子供は―――ああ、先に屋敷の使用人を雇う必要がありましたわね。
店の方も、もっと立地の良い場所を確保して、大きな店を建ててしまえば良いのです。
幸いドンドン売れる商品が入ってきているので、商売を拡大することに問題は無いはず。
……まあ彼女らは警備兵替わりに側室でも構わないかしら?
その辺りはしっかりと正室と側室という差を明確にしておかなければなりませんけども。
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