第21話
脳内で思い描く未来は、まさに完璧である。
我ながら素晴らしい計画性だ。
そんな感じで自画自賛しながら仕事をしていたある日。
店に入ると何やら騒がしい。
そしてその原因が、本当に意味不明だった。
何故か店のカウンター越しにシャーリーとリシアさん達が睨み合っていた。
「所詮は奴隷でしょうに」
「あら?この国は奴隷でも一般人と同じ権利を持っているはずですが?差別されるほど教養の無い方で?」
「教養云々を言うならアナタも自身を見直すことをオススメするわ」
「それこそご自身を鏡でご覧になられては?」
「流石は教養が無いのに語ろうとする方は、違いますね。堂々巡りに持ち込んで勝ち誇るなんて程度の低いこと」
「そもそも私は、シン様の奴隷として身も心も捧げておりますの。見ず知らずの自称シン様の親しい方に何を言われても気になりませんわ」
「だからそれを確認もせず追い返そうとする時点で、教養の欠片も無い野蛮行為だと言っているのですが?それで主に恥をかかせて満足?」
「ご心配には及びません。シン様でしたら私の失敗など笑って許して下さいますわ。むしろ変な女達を追い返して『よくやった』と褒めて下さるでしょう」
―――ぶっちゃけ怖くて介入しようと思わんよ。
何この言葉のドッチボール。
全力で相手を仕留めにかかってますやん。
「がるるるるっ!!」
「きしゃ~!!」
リシアさんの背後にはクマ。
シャーリーの背後にはタカ。
2等身ぐらいにデフォルメ化されたそれらが互いの背後で相手を威嚇している姿が見えるようだ。
こういう時に、近づくのは論外だ。
いくら女性との接点が少ない人生を歩んだ俺でもその程度のことは解る。
という訳で見つかる前に店から離れて街をウロウロする。
あまりゆっくり見て回ることもなかったので、せっかくだからと市場等に顔を出す。
こういう所では鑑定スキルが無双をする。
あまり価値が解っていないものが、たまに投げ売りされていたり、価値があるのにそれが解らず意味不明な使われ方をしていたり。
例えば、錆びたナイフが鉄貨30枚で売っていた。
しかし鑑定スキルで確認すると―――
■ミスリルナイフ
オリハルコンに近い強度でありながら魔法との親和性が高い金属で出来たナイフ。
*付与特性:魔力+5
平均価格;金貨10枚~30枚
思わず購入してから色々調べてみると、どうやら錆びた刀身は鞘のように取れることが判明し、中には綺麗なミスリルの刃が現れた。
他にも露店を支えるために置いてあった石の1つが―――
■グランドキュクロプスの目玉の化石
かつて生息したとされる小城と同じぐらいのサイズの巨人の化石。
一つ目の巨人だったらしく、その目は大変貴重で化石になっても効果がほぼ落ちない。
目に関するあらゆる病気や症状を直し、正常にする薬の原料。
平均価格;金貨300枚~500枚
というものが出てきて思わず声を上げてしまったりと、中々な露店巡りとなった。
もちろん購入したさ。
銀貨50枚で。
最初はそれとなく話を持って行って銀貨1枚で購入しようとしたら、何かに感づかれてしまい出費が増えてしまっただけだが。
まあこういう失敗も今後のための勉強代だと思えばいいのさ。
ついでに色々と仕込みをしてから店に帰って中を覗く。
……乙女の旗は、どうやら帰ったようだ。
安心して店内に入る。
「どこへ行ってたんですか、シン様ぁ」
さっそくシャーリーに捕まる。
いつものような切れ味鋭い声ではなく、妙に甘ったるい感じなのがちょっと怖い。
「先ほど、変な女達が来ましたけど―――」
彼女らは乙女の旗と言って俺がお世話になった娘達なんだけどね?
まあ何故が距離感が近かったりウチの2階を占拠していたりするけどね?
いつもは何だかんだ文句をつけてあまり近づいて来ない彼女が、何故か今は腕に絡まるように密着しつつ愚痴を言ってくる。
―――解らん。
こっちは1度の人生まるっと女性とは無縁な人生歩んできた男だぞ。
ここまで複雑な女性の機微など解る訳がないと断言しようっ!!
そうだね。
大変だったね。
キミの言う通りだ。
とりあえず彼女を全肯定しておけば何とかなると信じてそう返事をしておく。
まあ、どちらにしろ明日は地獄になるだろうけど。
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