第20話
早いもので、ダン達がアルバイトをしてからもうスグ1ヶ月だ。
そろそろ彼らの装備を揃えておくか。
シャーリーに関しては、俺が改装した自宅を更に改築して2階に住ませている。
住んでる家が、小さな雑貨屋から立派な雑貨屋みたいな感じでグレードアップした。
家の持ち主も『勝手に立派になっていくので問題ない』と言われた。
流石に同じ部屋に年頃のお嬢さんを住まわせる訳にはいかないからね。
貴族屋敷と比べるとはるかに狭いが、そこは我慢して欲しい所だ。
最初こそイマイチだったが、何故か凄く努力して仕事を覚えてくれたおかげで、もはや教えることがほとんどない。
唯一の弱点は、俺のような『鑑定スキル』という名のチートが無いので、購入・買い取り査定などに苦労しているようだ。
まあそれらもいずれ経験で覚えていけるだろう。
もしかしたら店を一時的に任せるなんて時に彼女だけでも店が営業出来るとなれば凄く便利だ。
実際ちょっとした用事で出かけるときなどは、彼女に店を任せている。
最初こそアレだと思ったが、意外と支払った分は取り戻せそうな感じがしてきている。
「これを買い取って欲しいんだよ」
あれこれと考えながら、今日も買い取りは絶好調だ。
■とにかくウサギを絶対殺すナイフ
謎の怨念が宿っており、ウサギ系のモンスターに特攻効果が発揮されるナイフ。
*付与特性:ウサギ特攻(ウサギ系に対して必中と必殺付与)
呪い(大)(装備すると外せなくなる)
平均価格:銀貨50枚~銀貨80枚
「う~ん、呪われてるのもあって銀貨25枚だなぁ」
こういう謎なものが高額の場合は、大抵コレクター的なのが購入していることが多い。
だから無駄に値段があがるようだ。
呪われていて、しかもウサギ特攻って何だよ。
「もうちょっと何とかならねぇ?結構必死に取ってきたやつなんだよ」
ウサギナイフを手に持ったまま買い取りスキルで確認する。
■とにかくウサギを絶対殺すナイフ
買い取りポイント:金貨5枚分
「……う~ん、そうだなぁ。出せて銀貨30だな。それ以上を望むなら他に持って行ってくれ」
「いや、銀貨30枚でいい」
「解った。……銀貨30丁度だ」
「……おう、ありがとよ」
「また何かあれば持ってこい。今度はもっと高値が付くものをな」
「はは、それはこっちが言いたいよ」
といった感じで買い取りが成立した。
いやぁ~、こんな使い道が無いものを銀貨30枚で買い取ってあげるのだから俺は優しい商人だ。
「相変わらず繁盛しているみたいですねぇ」
「これはこれは。どうされましたか?」
最近よくやって来るのがローレッドさんだ。
よほどシャーリーを気にかけているのか、定期的にやってくる。
「いえ、噂に聞いたのですが今働いている4人が冒険者稼業にそろそろ戻るという話を聞きましてね?」
「はい、元々そう言う話でしたので」
「そうなるとシャーリーだけではお店も厳しいのでは?と思いまして」
―――なるほど、営業だったか
「それはそうなんですけどね?つい最近、大金を使ってしまったばかりなんですよ」
「それでもお店は繁盛なされている。奴隷を増やすぐらいの余裕はあるのでは?」
「流石にそんな大金ある訳ないじゃないですか」
「ははは、御冗談を」
「ハハハ」
牽制だ。
徹底した牽制で、とにかく余裕がないぞ、買わないぞとアピールしなければ。
「―――店先で何をやってますの?」
結果として、呆れ顔のシャーリーに冷静な突っ込みを入れられてしまった。
「最近、少し遠い国ですが色々とありましてね」
ローレッドさんの説明を聞きながら彼の店の中を歩く。
……そう、結局逃げきれなかった。
―――――――
―――――
―――
「お願いしますっ!!」
「お願いしますっ!!」
頭を下げて必死に頼み込んでくる父親と母親。
……こんなん卑怯やん。
紹介されたのは、かなり遠くにある国の農民一家。
父親のハリー 30代ぐらいのオッサンでまだまだ若さと力強さはありそうだ。
母親のチータ 同じく30代っぽい人で、美人な人妻感がある。
長女のレジーヌ 6歳の女の子で必死に両親の役に立とうとしている。
次女のマロン 4歳の女の子で、まだ奴隷とか理解出来ないよねって感じ。
天候不良による不作が続いて税金が納めることが出来なくなったために奴隷として一家丸ごと売り飛ばされたらしい。
……その農民が減った村をどうするんだろうね?
相変わらず馬鹿が多いな、この世界。
で、本来ならそれぞれに値段が付いて分割販売されるらしい。
しかしこういうのを逆に一括購入すると一家が離れ離れにならないため、感謝されて忠誠心が違うそうだ。
まとめると金貨50枚らしい。
―――まあなんてお買い得なんでしょう。
というか人の命が軽いね。
この人達を売った領主とやらは、本来銅ランクでの売りだったものを強引に色々難癖付けて人権無視の銀ランクとして売ったそうな。
その分だけ領主に入るお金は増えるが、色んな方面から敬遠されるようになったそうで。
そりゃまあルール破りを捻じ込んできたんだろ?権力使って。
誰がそんなのとこれからも公平な取引が続くと思えるのかって話よ。
どこぞの600枚したのや、普段売っている高級武具と比べると、ホントに人間がその値段?って思ってしまう。
こういうのを見てるとホント嫌になる。
そしてつい手を差し伸べてしまう馬鹿な自分にもね。
際限無く助けられる訳でもないし、ただの自己満足でしかない。
結局、金貨50枚を支払って一家を丸ごと買い取った。
自分で自分を購入し直せる銅ではなく、許可が無ければ一生奴隷のままである銀ランクの一家。
しかし働き次第で奴隷からの解放は約束しておく。
歩く先に希望が無ければやる気も出ないだろう。
何度も頭を下げて感謝してくれる一家に、何とも言えない気持ちになった。
それから商業ギルドに寄って一家のための住居を借りる。
少し店から離れるが、その辺はまあ再度お金を稼いでから考えるという方向で。
必要最低限の家具類を購入させ、服や下着に関してはサイズを報告させ、通販スキルで全て揃えた。
着心地などの使用感を確認する意味合いもある。
そのうちこれらも売るつもりだからだ。
それからは、ダン達と顔合わせをして仕事を教えつつ、引継ぎ作業をやらせた。
一家はこのままダン達と入れ替わりで店内の販売や陳列など色々とやって貰う予定だ。
そしてシャーリーにはカウンターで全体を見つつ、上客などを相手に専門性の高い接客をして貰うつもりでいる。
―――完璧だな。
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