第18話
例のボロボロになった冒険者達を雇って数日が過ぎた。
やはり人手があると便利だなと思う。
チート通販のおかげでボロ儲けなので、そろそろちゃんと従業員を雇うなりするかな。
そう思っていた時だった。
懐かしい顔が店にやってきた。
「やあ、シンさん。お元気でしたか?」
「ああ、モングさん。その節はお世話になりました」
最初に色々な知識を教えてくれた王都の商人であるモングさんだった。
「いやはや、あれからそれほど経っていないのに、もうこれだけの店と品揃えがあるとは」
「ははは、おかげ様で」
良ければ立ち話も何ですので―――
とカウンターの奥にある狭い商談用スペースに案内する。
「アナタが居なくなってから、あの街も面白いことになりましてね」
そんな切り口でモングさんが語ったあの街ことファルス王国のラングレーでは騒動になっていたらしい。
私が大きな店を出せるぐらいの商人だと見抜いていたらしいギルド協会ギルドマスターのサルザードさんは、そりゃもう怒ったらしい。
更に石鹸を気に入ったという王都の方とやらの逆鱗にも触れたらしく、俺に絡んできた領主は極刑になったそうだ。
何でも隣国に優秀な商人を取られただけでなく、生み出されるはずの税収やらなんやらが全て水の泡になった責任を取らされたとのこと。
やたらと仮定というか、捕らぬ狸の皮算用みたいな計算で罰したんだなって印象だったのだが、モングさんがそこを説明してくれた。
要するに『大きな利益を生み出す人間を逃しただけでなく、隣国にそれを取られるなんてお前は国に喧嘩売ってるのか!?』ってことのようだ。
確かに今やガーナック王国の王都からも『○○様がお求めになられている』などと超上から目線で購入しにくる人も出始めた。
まあ丁重に『二度と来るな』とお断りしているが。
見るからに作り笑顔だろうが形だけでも丁寧に商売をしてくれる相手なら、それなりの商売をするんだけどね。
実際、近隣の街から商人が取引にやってくる。
そしてよく大口契約を迫られるが、面倒なので数を限定した商売しかしない。
ウチのやり方を理解してくれるところとは、良い取引が出来ている。
毎回数量制限をするので、何をどれだけ購入するかを毎回吟味しているのを見ているだけでも愉しいし、参考にもなる。
そんな話をモングさんにすると大爆笑された。
そのまま今まであった店のアレコレを話し始める。
流石は王都の商人だ。
凄く聞き上手なのでついつい話し込んでしまう。
俺の話を聞き終えたモングさんは
「やはり私の目に狂いはなかった。アナタはとても良い商売人だ」
と凄く感動されてしまった。
どうやらモングさんも儲けの一部を孤児院などに寄付したり、人の世話などをしているそうだ。
特に王都は、一発の夢を見て集まって来る人が多いため簡単に挫折してスラム街に消えていく。
そうしたスラム街へと消えていってしまう一歩手前の人を雇ってあげたりしているらしい。
それに病気の家族のためなど、やむを得ない事情で借金を抱えた人などは、必死に働いて恩を返してくれるので店側も助かっているそうな。
そんな話を聞いて、ますますこの世界で最初に出会ったのがこの人で良かったなと思う。
なので今回限りとして、数量限定での取引を解放。
乗ってきた馬車に積み込めるだけの数を売っても良いと言ったら大喜びで店内の商品を見始めた。
そして流石は王都に店を構える商人だ。
高額な品を大人買いしていく。
しかも気づけば乗ってきた馬車は1台だけだったのに3台に増えていた。
どうやら使用人を走らせて馬車を2台分、即金で購入したらしい。
確かに馬車の数を1台と限定はしてなかったし、ちゃんと確認取らなかった俺も悪かったが、ここまで堂々とされると苦笑するしかない。
大きな出費になるだろうが、積み込めるものが3倍になった計算だ。
この辺りのしたたかさというか堂々とした感じは、ぜひとも見習いたいものである。
「いや~、本当に良い取引をさせて頂きました~」
そしてこの満面の笑みである。
そりゃそうだろう。
どの品も定価以下だし、この近隣では手に入らないものも多かったりする。
それらを全て『色んな行商の方がやってきて取引しているので』と誤魔化しておいた。
まあ言えない秘密であるというのは察してくれそうだけど。
「そう言えば、人手の件ですが明日に予定はありますか?」
「いえ?」
「では、明日に紹介したい方が居ましてね。その方なら人手不足の件が何とかなると思いますよ」
そう言って満足そうに去っていった。
まあ良いんだけどね。
おかげであの貴族から追われるなんてことも無くなったと知れたのだから。
といっても今更あっちに帰る気はないけど。
あっちは商業ギルドや貴族など、初手の印象が悪すぎる。
「さて、人手不足解消って何だろうな~」
直接働きたい人を紹介してくれるのだろうか?
……まあ明日になればわかるか。
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