第17話
色々とあったが、ようやく乙女の旗が迷宮へに入っていった。
この街には迷宮が2つある。
1つは、ひたすら洞口の中というか地下へと進む『地下迷宮』
もう1つは、草原や山岳、雪原に森林など一定フロアごとに謎空間が広がる『神の迷宮』
どちらも入った入口はそこまで強いモンスターが居ない。
しかし奥へと進むほど強力なモンスターや罠が登場して命の危険が跳ね上がる。
更に基本的に冒険者達は協力するものという常識があるが、それが常に守られる訳ではない。
中には他の冒険者にモンスターを押し付ける行為や、ボロボロの冒険者を襲って装備やお金を奪うような者まで居るらしい。
まあそんな冒険者は、ギルドから排除されるため滅多に居ないらしいが、結構様々なトラブルがあるそうな。
彼女達のような美人の集まりだと色々あって苦労してそうだなぁと思うが、俺に出来ることは今の所無いからなぁ。
という訳で、まあ1人の商売に戻った訳だが意外と忙しい。
まあ多少は休憩スペースを占拠している方々が暇潰しに商品説明をしてくれたりもしているが、根本的な解決をしたい所だ。
などと考えながら仕事をしていると、ふと初心者コーナーでずっと悩んでいる集団が気になった。
装備からボロボロで見た目も敗残兵のようだ。
「どうかしましたか?」
ずっとそこに居られても困るので声をかける。
すると―――
「……あ、えっ!?」
「ああ、もしかしてっ!!」
若い男2人と女性2人のうちで女性2人が声を上げる。
「覚えてらっしゃいますか!」
その言葉で思い出した。
この世界に来てスグに商人のモングさんを助けた際に彼を護衛していた冒険者達だ。
とりあえず立ち話も何なので、カウンターの近くに椅子を用意して座らせる。
そしてどうしてそんな姿でここに居るのかを聞いてみた。
冒険者というのは依頼を受け、それを達成した時に達成ランクを記入して貰い、それを提出する。
例えば護衛クエストなら、依頼主を安全に届けることで最高ランクの評価を受ける。
そこから例えば一度でも依頼主を危険に晒したとか怪我をさせたとかによってランクが下がる。
モングさんの護衛で言えば、俺が助けに入らなければ全滅していただろう。
なので護衛は達成扱いであるが評価は最低ランクになってしまった。
最低ランクになってしまうと一定の回数分のクエストで格下なものしか受けれなかったりする。
最低ランクが続けば冒険者ランク降格なんてこともある。
更に言えば仲間が死にかけたのだ。
それに俺にポーションという借りまである。
そのため地道に稼ごうと迷宮のあるこちらの街までやってきたそうだ。
迷宮なら判断ミスをしない限りはそれなりに安定して稼ぐことも可能だそうな。
ただやはり低階層は獲物の取り合いなどでトラブルも多いそうだ。
で、そのトラブルが起こったらしい。
別の初心者冒険者達が、自分達では勝てるかどうかギリギリというモンスターに手を出した。
しかもそのモンスターは攻撃されると周囲に居る同じ種類のモンスターを集めて集団化する。
ただでさえ1体でギリギリなのだ。
集団化なんてしたらどうしようもない。
当然その冒険者達は逃げた。
もっと酷いのは、その逃げた先というのが初心者冒険者達が稼ぎに利用するエリアなのだ。
おかげで現場はパニック状態。
その場に居合わせた彼らは、このままでは危険だと判断して彼らだけでモンスター軍団を相手にした。
相手にしたといってもヘイトを稼いで誘導し、他の冒険者達が逃げるまでの時間を稼ぐだけだったらしいが。
そして何とか他の冒険者達が逃げ切った所で、騒ぎを聞きつけた上位冒険者達が現場に来てくれたようで、騒動は終息した。
根本の原因になった冒険者達は罰としてギルド監視の元でギルドへの貢献活動というのをやらされているらしい。
初心者冒険者達を逃がすために戦った彼らには、ギルドから僅かではあるが報酬が支払われた。
更にその話を聞いた中級冒険者や上級冒険者達の中には、彼らの行動を称えていくつかの素材やお金をくれたらしい。
しかし彼らの装備は全てが致命傷だった。
武器も防具もひび割れており、服すらボロボロだ。
一応普段の服が1着だけあったのでそれを着ているらしいが、冒険者用の服などは使い物にならないらしい。
なので何とかもらった素材など売れるものは全て売って全員の装備を買い直そうと思ったのだが……
「なるほどなぁ~」
いくらウチが初心者冒険者向けに格安で装備を売っているとは言え、装備一式となればそれなりの値段になる。
しかもそれが4人分ともなればかなり厳しい。
装備が無ければクエストを受けることが厳しくなる。
今更効率が悪い超初心者向けの薬草採取などをやるか、武器だけ購入して何とか迷宮の低階層で素材を取るか。
……不幸な彼らを助けるのは簡単だ。
だが、そんなことをし続ける訳にもいかない。
この世界ではよくあることなのだ。
でもまあ、彼らは運が良い。
丁度やってみたいことがあった。
それに利用させて貰おう。
「さて、ここで提案だが……君ら、ここでしばらく働かないか?」
■冒険者ダン
「ありがとうございました~」
そう言って頭を下げて客を見送る。
この店で働き始めて10日ほど経った。
最初に店に来た頃は、冒険者を続けていけるだけの装備が用意出来ず解散の可能性もあった。
それに厳しい戦いを経験して、みんな死に対する恐怖があって当面は冒険者活動を自粛しようという空気もあった。
俺達も逃げていればこんな目には遭わなかっただろう。
でもそれは俺達の冒険者活動ではない。
困っている人に手を差し伸べる。
そんな冒険者を俺達は目指していたはずだ。
しかしそんな考えも現実の前には霞んでしまいそうだった。
そんな時、ここの店主から提案があったのだ。
「ここで働いて装備分の金を稼がないか?」と。
最初は半信半疑だった。
それにここの店主には、俺が死にかけた時に使って貰ったポーションの借りもある。
でも店主は言った。
「冒険者を続けたいんだろ?だったら装備分の金を稼ぐしかないじゃないか」
困っていた俺達は、この提案に飛びついた。
というかこの提案を受け入れるしか選択肢が無かったとも言える。
思いっきりこき使われるんじゃないか?
そう思っていたのだが、意外と普通の仕事ばかりだ。
俺とジークは重い装備を並べることが多いが、ちゃんと定期的に休憩がある。
タリサとララは、比較的軽めの雑貨の品を並べたり何故か自宅のように寛いでいるおばちゃん軍団と会話をしていた。
元々俺達4人は、田舎の村から出てきた元農民だ。
冒険者という職業に憧れて冒険者になったが、現実というのは厳しいらしい。
まあ今は、こうして助けてもらっているのだから悪くはないとも言えるが。
装備代のために働いているのだから給金なんてと思っていたら1日で銅貨10枚もらえた時は驚いた。
「何かあった時に金が無いと困るだろ」
そう言われるとそうなのだが、まず店を開けてから少しすれば交代で用意された朝飯を食う。
やわらかいパンに色んなものが挟まれたやつだが、どれも美味い。
驚いたのは昼にも飯を食う所だ。
確かに昼に食べると夜まで腹持ちが良いのは解るが、それだけ食事に金を出せるのも凄い。
大体、昼はカップ麺と呼ばれるお湯を入れるだけで美味い飯が出来るやつだ。
冒険のための携帯食としても使えそうなやつで、色んな形や味がある。
これらを冒険者目線でどうだという感想を答えるだけで食えるというのだから嬉しい限りだ。
そして夜、店の終わりに売れ残りの食べ物を持って帰ることが出来るので、それを夜飯にするのだが、これがまた美味いのなんの。
―――もうこのまま店員でいいんじゃないか
というのが俺達の感想になり始めていた。
しかし、それではダメだ。
あくまで装備を揃えるまでの話であり、好意で働いている過ぎない。
とりあえず1ヶ月間という期間限定の仕事ではあるが、頑張って働こう。
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