第14話
店を構えてから数日が過ぎた。
店には新人冒険者を中心に人が良く来るようになった。
また日用雑貨コーナーは街の主婦達が集まる。
ちょっとした親切心で隅っこを少し動かして、テーブルや椅子を設置。
ウォーターサーバーを置いて『ご自由にどうぞ』と休憩所を作ってみた。
すると主婦達の憩いの場と化してしまい、絶えず奥様方が居る状態になっている。
もはや慣れたもので勝手にウォーターサーバーを補給して水を飲んでいる。
たまに試食品としてお菓子などを置くこともあるが、おしゃべりのお供としてスグに無くなってしまう。
冒険者達にもマッチなどの消耗品の試供品を提供してみたところ、売り上げが上昇。
更に初心者冒険者応援と称してEランクとDランクの冒険者に関しては武具類の割引を行っている。
Cランクでやっと一人前らしいので、そこに行くまでの冒険者の支援をしてみた。
思った通り最初のウチは中々稼げないのに武具類は高いのでなかなか揃えることが出来ない。
なので修理を繰り返して限界まで使ったり、中古品を購入して少しでも費用を抑えようとする。
しかしいつまでもボロボロの装備で戦っていては万が一の事故が怖い。
実際戦っている最中に武器が壊れた新人冒険者は多い。
そこでチート故に格安販売しても十分売り上げが出る俺が、初心者応援をはじめた訳だ。
スグに冒険者達の噂になり、一般冒険者達も見に来るようになった。
そうなると一般から上級冒険者向けの武具まで幅広く揃えているウチの店は一気に有名になる。
何度か同業者っぽい人から『営業妨害だ!!』と怒鳴り込んできたが『じゃあ彼らにあえて高値で売り付けて金をむしり取れと?』と言ったら逃げていった。
……正確にはお金の無い冒険者達の鋭い眼光が突き刺さったからだろうけど。
ポイント回復のために買い取りも始めた。
鑑定スキルで相場がわかるので、それなりの値段で買い取っている。
一応冒険者ギルドも買い取りをやっているので、そちらの値段を気にしながらではあるが。
特に冒険者達に人気なのは『何でも買い取る』という点だ。
例えば折れた鉄の剣など、どこも買い取ってなどくれない。
買ってくれたとしても素材代にもならない鉄貨10枚とかそんなものだ。
しかしウチだと折れた鉄の剣は鉄貨50枚での買い取りだ。
適当なボロい装備2つで銅貨1枚になるとなれば、初級冒険者達からすれば貴重なお金になる。
多少割高で買うぐらいは構わないだろう。
それでもポイントは大幅プラスなのでチート様様ではある。
そんなある日だった。
朝に店に行くと木製のドアが無くなっていて窓ガラスも盛大に割れていた。
……まあ、防犯シャッターは良い感じに凹んでいただけなので中には入られていないようだ。
「……ああ、これどこに報告すりゃいいんだ?」
警察?なんて無い。
となると領主になるのか?
とりあえず行けばわかるだろうと思って例の屋敷へと向かった。
そして到着して門の前に着いた所で、ここが異世界で俺が平民であることを思い出した。
「紹介状も無い者が会える訳ないだろう!」
綺麗に門兵に止められてしまった。
まあ彼らは仕事をしているだけなので仕方がない。
とりあえず店をオープンさせてから考えるか。
そう思って店に戻ろうとした時だった。
「―――何かあったのか?」
「こ、これはテルムッド様!」
振り向くと門の内側に、明らかなイケメン貴族っぽい兄ちゃんが居た。
彼が噂に聞くリシアさんの兄だろうか。
―――まあ、いいや。
何やら門兵とやり取りしているが、もう諦めると結論が出たのだ。
最悪冒険者ギルドで夜間警備の冒険者でも雇えばいいだけだし。
「そこのキミ」
例の貴族の追手かなぁ。
いやそれなら店を襲うなんてしないか。
「おい!そこのキミ!」
「ああ、もう大丈夫です」
「ん?いやいや、何か当家に用件があったのではないのか?」
「いや~、門兵さんに邪魔……んんッ!、止められたので自己解決しようかと」
「そ、それでいいのか?」
「はい、よく考えればわざわざクレア様やリシアさんに相談するまでもなかったので」
「え?母上やリシアと知り―――」
「ああ、もう大丈夫ですので」
よくよく考えればこちらが借りを作るのはマズイ。
こっちが逆に貸しまくりな状態にすることで、何かあった時に動いて貰えるようにするのが目的だ。
金で解決出来そうなことで借りを作るのは良くない。
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