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第13話




 



 ガーナック王国、地方都市エーアイ。

 この街は2つの迷宮を抱えている国内屈指の冒険者達が集まる街だ。

 荒くれものが多く集まるのでトラブルも起こりやすいが、警備兵を増やしたり冒険者ギルドと連携して何とか抑えているといった感じだ。

 下手な冒険者は兵士より強い。

 彼らは毎日命をチップに一攫千金を夢見てモンスター達との殺し合いをしているのだから。


 そんな街では日々様々なことが起こる。

 当然、店を畳んで街を出ていく者も居る。

 だが逆に店を新たに構えるものも居る。


 今日はそんな中で、1つの店がオープンした。

 シンと名乗る店主は、田舎から出てきた行商人から街に店を持つまでになった男だ。

 まだ若そうな青年であり、人が良いのか基本的に低姿勢。

 しかし彼の店は、食品から日用雑貨に冒険者用の装備や貴族が身に着けるような宝石まで様々な商品が置いてある。

 とてもではないが、駆け出しの店主が揃えられる品物の質や量ではない。


 当然、オープン当初から人が詰めかける大繁盛―――


「まあ、こんなもんだよね」


 ―――といったことはなく、閑古鳥が鳴いていた。


 特に店のアピールもしていないのだから。

 地方都市とはいえ、結構大きな街で店が1つ開こうが閉まろうが、ほとんどの人に影響などない。

 こういうのは、ジワジワと口コミで店の情報が広がっていくのを待つしかない。

 かなり現金やポイントは減ったけど、ポイント的にはまだ大丈夫だ。

 それこそポイントさえあれば何も困ることなどない。


 そう思っていた時期が私にもありました。


「あら、中々素敵なお店ね」


「自分のお店、おめでとうございます」


「おめでとー!」


 何故か、クレアさんと乙女の旗のメンバーがやってきた。

 まあ乙女の旗のメンバーは理解するよ?

 しばらく護衛してくれるらしいから。

 お金も払ってるからね。

 ……でもクレアさんは、どうしてなんだろうね?


 こちらの困惑など関係無いとばかりに、みんなそれぞれ商品を手に取り、説明を求めてくる。


 ……やはり手書きPOPのようなもので基本的な商品説明を張り付けておくべきか。


 そんなことを考えていると、やはりというべきか。

 全員が石鹸とシャンプーを手にしていた。


「とても素晴らしい品物だわ。肌も綺麗になるし髪もツヤツヤで―――」


 中でも急遽始まったクレアさんの美容談義に捕まってしまい、頷くしかないのは男の宿命か。

 長々と続く話にどうしようか考えていると―――


「シンさん!これはどういった武器なの?」


 ナイス、エレナさん!

 一応お断りを入れてから素早くエレナさんの所へと向かう。


「これなんだけど」


 勢い良く差し出されたものを見て思わず苦笑する。

 相変わらず良い目をしてるなと。


 ■バスググラソード

  ソードとは言ってもショートソードぐらいで少し短い剣。

  ググラ達のボスであるバスググラの牙を加工して剣にしたもの。

  ググラの牙には麻痺毒があり、バス種になると更に強力な麻痺毒が存在する。

  成人男性基準だと掠り傷だけで5分ぐらいは動けなくなるほど強力。


 *付与特性:切れ味維持(中)

       麻痺効果(特大)


  平均金額:180枚~255枚


 最近分かったことは、平均金額が大きく上下してるような品は、あまり取引されていない品であることが多い。

 つまり価値が安定していないってことは、それだけその時の感覚で値段を付けているのだろう。


 ちなみにググラとは、ここからはるか南の砂漠に住む大きなトカゲ君らしい。

 バス種という向こうではボスを意味する名を冠するググラ君は、別名『砂漠のドラゴン』と呼ばれるほど大きくて強いらしい。

 最近、鑑定スキルが進化したのか、ちょっとした気になることには注釈が付いてより詳細な情報が解るようになった。

 いや。ホント便利で助かってる。


「こいつは、はるか南にある砂漠に居る大きなトカゲの上位種の牙から作られた剣でして。強力な麻痺毒効果のある剣なんですよ。向こうでも大変貴重で金貨180枚以上で取引されてますね」


「金貨180枚ッ!?」


 値段を聞いた瞬間に3人分ぐらいの距離を離れるエレナさん。


「心配しなくとも武器として作られたものですから、ちょっとやそっとで傷なんてつかないですし折れたりもしませんよ」


 苦笑しながらそう言うと―――


「それもそうか」


 と僅かに納得してくれた。

 しかし持つのは凄く慎重だったりする。


「その辺に投げたり落としたりしただけで欠けたり折れたりするなら、武器として販売できませんよ」


 純金で出来た剣でもあるまい、そんな使えない武器を売るなんて商売人としてはダメだろう。

 それに通販スキルで出した品は全て最高品質だ。

 その辺は信用してもいいだろう。


「―――ってこれ金貨80枚になってるよ?」


 値札を見て半額以下になっていることに気づいたエレナさんが『間違ってますよ?』って雰囲気で言ってくる。


「いや、それはそれで問題ないです」


「え?でも金貨180枚って……」


「あくまで向こうので金貨180枚以上で取引されたことがあるというだけです。そもそもバスググラは砂漠のドラゴンとも呼ばれるもので中々出回らないのですよ」


「ええっ!?……そうなんだ」


「ですが、偶然これを非常に安く仕入れることが出来ましてね?武器は誰かの役に立ってこその武器。なので安くすることで良い持ち主に出会えるようにしてあげているのですよ」


「そ、それで大丈夫なのっ!?」


「もちろん問題無いと判断したのでその値段です」


 驚くエレナさんに余裕の笑みを返しておく。

 ポイントで金額にすると金貨10枚分なんですよ、それ。

 80枚で売っても金貨70枚分の儲けの時点で勝ち確なんです。

 真面目に商売している人には申し訳ないですが、チートを自粛しないと決めた理由の1つでもある。


「金貨80枚かぁ~……金貨100枚値引きかぁ~……」


 バスググラソードを見ながらうんうんと唸り出すエレナさん。

 そりゃ凄い武器が半額以下で置いてあると思ったら、そりゃ気になるよね。 


 そしてエレナさんとは違い、キャンプ装備を見ているのはジュリアさんやパメラさんだ。

 あのテント等が気に入ったのだろう。

 数種類用意したテントを見比べている。


 あとは魔石で利用可能なランタンは、風雨によって消えることはない。

 万能火付けファイアーマンは、火起こしの手間を省いてくれる。

 安く済ませたいならマッチも完備してある。

 重ねて収納できるので便利なマグカップやシェラカップ。

 そして最終決戦兵器であるハンゴウは、昔ながらの丸型と最近の四角いやつの2種類を用意。

 更に携帯に便利な水筒も数点ほど用意してある。

 さりげなくランニングポーチ付きのも置くことで携帯しやすく手軽に給水出来るアピールも忘れない。


 彼女達が店内であれこれと騒ぎながら品物を見ていると、その賑やかさからか店内に興味を示す人が現れ始めた。

 そして1人、また1人と入ってくる。

 奥様方は、やはり日用品やキッチン道具に興味があるらしい。

 それを丁寧に説明していきながら、やはり使い方の説明POPを用意しようと思った。

 特に洗濯物を抑える洗濯ばさみやハンガーに興味を示す人が多い。

 この世界では洗濯物は紐にひっかけるだけなので風で飛んでいきやすい。

 服なども折りたたんでタンスに仕舞うのが一般的で、服を吊るような収納をするのは大量に服を所持している貴族ぐらいらしい。

 更に貴族でもこんなハンガーではなく紐で器用に引っかけて吊るそうな。

 なので洗濯物を干すにも使える安い針金ハンガーがそこそこ売れた。

 ついでにハンガーを引っかけるスタンドも売れた。

 上等そうなものとして木製の良いハンガーとか用意しようかな?


 また石鹸やシャンプーなどに興味を示したが、いくら庶民向けの値段でもそこそこする。

 無臭の使い勝手の良い石鹸なんて銀貨10枚以上するらしい。

 それを半値の5枚にしているが、それでもやはり高いと感じるようだ。

 シャンプーもランク分けして銀貨5枚からで用意したが、それも高く感じるのだろう。

 だが考えて欲しい。

 石鹸1つ丸ごとやシャンプーでもボトル1本分だ。

 使い切るまでを考えれば十分安いはず。

 しかしそんな未来より目先の出費なのだろう。


 ここで更に安く売ることは出来る。

 でもあまりにも安く売り過ぎるのは良くない。

 まあ既に半額セールしまくっているお前が言うなって台詞だが、あまりにも価値を下げ過ぎると色々とダメだ。

 特にこの街の他の商人を完全に敵に回すし、何より街の商売そのものを破壊しかねない。

 既に大暴落な値札をつけまくっている俺が言っても何の説得力もないんだけどね。


 そこで急遽、用意したのはアレだ。


 ―――試供品!!


 非常に小さな数回分程度のサイズの商品を用意してそれをタダで使って貰うのだ。

 使ってみて気に入れば購入して貰うというやつで、意外とこれの効果は馬鹿に出来ない。

 かつてデパ地下で高級肉の試食販売のおばちゃんに捕まってしまったことがあった。

 しかし勧められて食べた肉は非常に美味く、勧められるがままに焼いてあった肉を全て食べてしまう。

 あまりの食いっぷりに苦笑していたおばちゃんと状況に気づいた俺は、このまま去るのは気まずいので高級肉を購入することになってしまったことがある。

 それほどまでに試供品というのは恐ろしいのだ。


 お試し無料品であり、これで気に入ったら購入を検討してくれと試供品を綺麗な編み目のカゴに入れて商品の前に置いた。

 一人1つ限りだと説明したので安心かと思ったら、世の中何が起こるかわからないものだ。


 いつの間にかどこから集まったんだというぐらいの奥様方が現れて、試供品の争奪戦が行われた。

 俺があっけに取られていると、一瞬で試供品が消えた。

 これにはリシアさん達も苦笑していた。


 結局、クレアさんは屋敷で使う日用品や雑貨類に宝石を数点。

 リシアさん達は、それぞれ欲しいものを。

 特に冒険に必要な装備類を多く購入していた。


 おかげで初日からそれなりの儲けとなった。

 帰り際に何度も食事に誘われたが、流石に何度もあの屋敷に行ってお世話になるのは申し訳ないので遠慮しておいた。


 そして客が途切れた夜になると、閉店するために店を閉める。

 店内が見やすいようになっている大きなガラス窓に取りつけたカーテンを閉める。

 内側に取りつけた防犯シャッターを下ろしてカギをかける。

 流石にガラスだけとか貧弱過ぎるわ。


 罠類のスイッチを入れ、2階と地下の扉のカギも閉める。

 最後に木製のドアから外に出る時に内側にセットしてあるシャッターを下ろしてカギをかけ、ドアを閉めてドアのカギもかける。

 多少過剰かもしれないが、ウチは高価なものも多いので狙われる危険性が高い。

 特にこの世界は人の命が軽いと言える。

 犯罪意識なんてものも非常に軽そうなので自衛はしておこうと用意した。


 最後にリモコンで防犯カメラのスイッチを入れて帰宅する。


 家の中は、流石に直してもらっただけあって綺麗である。

 しかし今日は色々と疲れたので、通販スキルで照明とベッド類と購入してセットするだけにした。


「また明日でいいや」


 久々に色々とやった達成感と共に、俺は眠りについた。







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