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爽やかな風が吹き、王宮の庭園の花々が踊り出す。昨夜のことが嘘かのように、穏やかな日和だ。マリアンヌは髪を押さえながら、用意された馬車へヨゼフと共に乗り込んだ。これから、マリアンヌは別邸の片付けに向かうのだ。
ギルヘルムやクレマン達は昨夜の後始末に追われている。マリアンは、数日ゆっくり休んでから別邸に行けば良いというギルヘルム達の反対を押し切った。どうしても使用人達や鏡のことが気掛かりでならなかった。
ギルヘルムの側近でもあるヨゼフも多忙を極めているはずだが、護衛のために付き添うことになった。
「忙しいのにごめんなさい。」
「全く心配に及びませんよ。お気になさらず。」
「ありがとう。」
馬車が静かに動き出す。揺れる馬車の中で、ヨゼフはギルヘルムがいかに素晴らしいかを熱く語っていた。
公爵家には、何人もの王宮の騎士達が既に到着しており、荒れた別邸の片付けを行なっていた。開放された玄関ホールからは、マリアンヌの部屋の窓を塞いでいた材木や、乱闘で傷んだ家具などが外へ運び出される。マリアンヌは馬車から降りると、別邸の中へ急いだ。
「エリザベス!リベルト!」
玄関ホールに入り、マリアンヌは大声で呼びかける。すると、奥からバタバタと慌ただしい足音が聞こえ、エリザベスとリベルトを始め、元いた別邸の使用人達が集まってきた。
「お嬢様!」
「みんなっ…!」
エリザベスらはマリアンヌを取り囲んだ。
「お嬢様ご無事で何よりです…。」
「エリザベス、心配かけたわね。」
「一睡もできませんでしたのよ。大きな怪我はございませんか?」
「ええ!大丈夫よ。」
リベルトは鼻を啜り、マリアンヌをきつく抱きしめた。
「お嬢!!本当に良かった!!」
「リベルトってば、苦しい。」
「嬉しくてつい…。」
マリアンヌの帰還を喜ぶ使用人達の後ろから、グンテが顔を覗かせる。
「お嬢様…?」
「グンテ!」
グンテは両手に抱えていた花壇の肥料の袋を床に落とすと、マリアンヌに駆け寄った。つぶらな瞳に涙が滲む。
「昨夜のことお聞きしました。この老いぼれ…本邸にいたにも関わらず、駆けつけられず申し訳ないです。」
「そんな…、グンテが気に病むことなんて何一つないわ。」
「ご無事でよかった…。」
マリアンヌは使用人達と再会を喜び合った後、一人、階段を登り、自身の部屋に足を運んだ。




