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果てなく続く廊下を歩く度、すれ違う使用人達が振り返り振り返りマリアンヌの姿を観る。
マリアンヌは何かおかしなところがあるのかと不安がよぎったが「マリアンヌ様がお綺麗すぎて、皆頬を赤らめてますわね。」と言ったジュリアが優しく微笑んだこともあり、安堵した。
しばらく歩くと、とある部屋の前に着いた。中からは賑やかな声が聞こえる。ギルヘルムとクレマンだ。酒がだいぶ進んでいるのか、クレマンの声がやたらに響く。
「失礼ます。」
ジュリアが中に入る。
「おう。マリアンヌは?」
クレマンがジュリアに尋ねると、ジュリアは顔を緩めながらマリアンヌをそっと押し出した。マリアンヌはジュリアに押されるままに、二人の前に進み出る。二人は酒を飲む手を止め、息を呑んだ。
そこには先ほどのボロを纏った町娘の姿はなく、皆が振り返るほどの美しい少女が立っていた。ギルヘルムとクレマンの側にいた使用人達もマリアンヌを凝視している。
「綺麗だ…。」
ギルヘルムはマリアンヌに近づきその頬に手を添えた。マリアンヌの薔薇色の頬が更に赤く染まる。
「本当、花嫁みたいだな。」
クレマンもまじまじとマリアンヌを見る。
「私の見立てはセンスあると思いませんか?」
「確かに……。これはあの親父も泣いて喜びそうな姿だな。」
「あ、お代はちゃんとクレマン殿下につけておいたので。それでは、後は三人でごゆっくり。」
ジュリアはそう言うとそそくさと退室した。
「あいつはちゃっかりしてるし、自由奔放すぎるな。」
クレマンはジュリアの去った後のドアに向かって言った。マリアンヌとギルヘルムが「君もだろ」と思ったのは言うまでも無い。
それから三人は今後のことを話し合った。
「ルードリッツ家は今後どうなってしまうの?」
マリアンヌは俯き加減でギルヘルムに尋ねた。
「王家の管轄になるけど、まだ誰が取り仕切るかは決まってないな。」
「そう…。働いていた人たちはどうなる?」
「悪いようにはしないさ。マリアンヌが好きに決めて良いよ。」
「えっと…。」
「僕はね、君をジュール国から連れ帰ったら、マリアンヌに任せても良いんじゃ無いかと思ってる。」
「それって。」
「君が懇意にしている使用人達に留守を任せようかなと…。別邸にいたエリザベスは、この国では有名な博識人だしね。」
ギルヘルムの案が通れば、マリアンヌが戻ってくるまでの間は元ルードリッツ公爵家の屋敷や土地の管理はエリザベスに任せることとなりそうだ。ギルヘルムの話を聞いている間、マリアンヌは、またハイケンに赴く日を夢見ていた。




