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クレマンの隣にいるのは、背丈はマリアンヌと同じくらいだが、艶のある黒い髪を持つ少し大人びた少女だ。他の令嬢とは違った雰囲気をまとう彼女は魅力的に映った。少女はマリアンヌと目が合うと、ふと目を細めて深くお辞儀をした。
「クレマン、その方は?」
先の一連で人に対する警戒心を強めていたマリアンヌは、見たことのない令嬢の前で戸惑いを見せた。安心させるようにクレマンは答える。
「俺の友人だ。良いやつだぜ。」
「お友達…。なら安心ね。初めまして…見苦しい格好ですみません。私とも仲良くしてくださると嬉しいです。」
マリアンヌの言葉を受け、少女は目を輝かせて顔をあげる。
「初めまして!マリアンヌ様!お噂は予々…。お見苦しいなんてそんな!!とてもお綺麗ですわ!!」
その勢いのままマリアンヌの手を握る。大人びた雰囲気はどこかに消し飛んでしまったかのようだ。
「えっ…と。」
マリアンヌは握られた手をどうすべきか分からず、クレマンに視線を送る。クレマンは頭を掻きながら、半ば呆れた様子で彼女を引き剥がした。
「おい、マリアンヌが引いてる。」
「あはは…綺麗な人や物に目がなくて…ギルヘルム殿下の御前でもあるのに失礼しました。改めまして、ジュリア・ロイスと申します。ジュリアとお呼びください。」
「俺の前はいいのかよ。…ロイス家は貿易に力を入れててな。俺もかなり世話になってる。」
「僕も。いつも面白いものを取り寄せてくれるよね。」
「光栄ですわ。」
「よしジュリア、マリアンヌをよろしくな。」
「承知致しました。さぁ!マリアンヌ様、こちらへいらして!」
ジュリアは意気揚々として、マリアンヌの手を取りどこかへ連れて行ってしまった。
「君はジュリア伯爵令嬢とも仲が良いんだね。」
「まぁな。ハイケンで目立たないような服も取り寄せてもらったし、周りにバレずに城下町に行く手引きをしてくれたのもロイス家だ。」
「おい…それ僕に話していいのか?不法入国ではないのか。」
「入国はちゃんとしてるっての。この城から抜け出す時だよ。荷馬車に乗せてもらって移動してたんだ。まぁ…大目に見てくれよ。俺とお前の仲だろ?」
「…はぁ。次からは普通に城から出てくれよ。」
「それはそれで面倒なんだよ。他国で自由にできない王子の身分ってやつ?」
クレマンは、ギルヘルムの肩を組むと「そんなこと良いから、とりあえず酒にしようぜ!」と言って謁見の間を出た。




