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「かっこよかったぜ!」
「…よくやったよ。」
ナイフを手渡され、ユリアンヌ達は魂が抜けたかのように動かなくなった。ユリアンヌの手から落ちたナイフは、彼女を押さえていた近衛兵が拾い上げ、証拠品の一部として押収された。
ユリアンヌらが連行された後、ギルヘルムとクレマンはマリアンヌの頭の上に優しく手を置いた。後方では、フォルカーとベルナードが拍手を送っている。
緊張の糸が切れたマリアンヌの眼から、涙がぼろぼろと溢れ出す。両手で顔を覆い、嗚咽を漏らすマリアンヌを彼らは優しく包んだ。
ようやく終わったのだ。前世から味わってきた苦痛が…長い長い絶望が。
「…これで良かったのよね。」
セリスとユリアンヌに言い返す時は終始身体が震えていた。それに気付かれないよう強気でいることに必死だった。彼女達に惑わされず、思ったことを口に出来て良かったと思う反面、死罪と聞いてしまうと、どうしても迷いが出てくる。
「当たり前だ。お前の大好きな叔父様だったら、今頃あいつらの身体を少しずつ削ぎ落として殺してるところだ。」
「やめろ、クレマン。」
「へーへー。」
クレマンは両手をあげ、悪びれる様子もなく軽い口調で言った。
「マリアンヌ、どう転んでもあの人達は死罪は免れないよ。ビスタルク国とジュール国の戦争に発展してもおかしくない所だったんだから。」
「……。お父様は?」
マリアンヌの問い掛けに答えたのはヴィルヘルムだった。
「…殺すには惜しい男ではある。」
綺麗に整えられている髭を自身の指で撫で、少し遠くを見ている。マルクスと過ごした歳月を懐古しているのだろうか。
「そうおっしゃると言うことは…。」
「ジュール国王女の監禁、虐待の幇助として捉えておかしくないからな…。裁判にかけるが、死罪が妥当だろう。」
マリアンヌは膝をつき、懇願した。
「ヴィルヘルム国王陛下。どうか、母のためにも死罪だけは。」
「…うむ…。マルクスが死罪となるのも、ジュール国王女としての立場があるな…と考えてはいる。アルヘルムと同じように辺境地に送るのも一つだな。とはいえ、暫くは牢生活を送ってもらうが。」
「ご寛大な心に感謝いたします。」
そう聞いて、マリアンヌは安堵した。父への情はないが、亡き母への情があった。
ヴィルヘルムは長らく腰掛けていた王座から降りると、マリアンヌの方へ近づき、傷だらけの手を取ると口付けを落とした。
「国王陛下!?」
「……。この長い間、そなたの存在を気にも留めなかった事をどうか許して欲しい。マルクスの本心を見抜けないとは我ながら愚かだと思っている。」
「…お顔をお上げください。お優しい陛下に救われ、今日ほど心が晴れやかになった日は無いですわ。」
「……ありがとう。本当にそなたは女神のようだな。」
「畏れ多いです…。」
マリアンヌとヴィルヘルムは目が合うと破顔した。穏やかな空気が二人を包む。
「マリアンヌ王女よ、今日は疲れたであろう。ゆっくり休むと良い。私は即刻ジュール国に遣いを出し、この件の処理を行う。」
「俺らもだな。フォルカー、ベルナード、処理の援助にあたってくれ。」
「はっ。」
ヴィルヘルムと書記を務めていたヨゼフ、フォルカーとベルナードが退室すると、残されたのはギルヘルムとクレマン、マリアンヌの三人となった。




