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このままだと極刑は免れないだろう。歯をガチガチ鳴らし、震えながら泣くユリアンヌの姿を見ると、なんとも言えない気持ちになった。
ーー心から謝ってくれるのなら…。
「ユリア…ん…!」
「ばーーか。何言おうとしてるんだよ。」
マリアンヌの開きかけた口を背後から、クレマンが塞ぐ。
「こいつらは、お前に何をしてきた。」
「……。」
「別邸にお前を隠し、全てを奪い、挙句監禁しあわよくば殺そうとした奴らだぞ。」
「分かってるわ。」
マリアンヌはクレマンの腕から離れ、いまだ床に押さえつけられている二人の方へ歩み寄り、膝をついた。
涙を流し、ユリアンヌ達はマリアンヌを見つめる。
先の脱出劇でぼろになった服を纏い、傷だらけの体ではあったが、二人を見下ろすその姿は美しく、神の遣いのようだった。
「あぁ…マリアンヌ!!分かってくれたのね。」
「お姉様っ…!」
「心からの謝罪をしてくれるのなら…。」
「おい!!」
「クレマンッ。」
納得のいかないといったクレマンをギルヘルムが止める。
「ええ!!もちろんよ。いくらでも謝るわっ!」
「また三人で暮らしましょう!お姉様!!」
「……。」
どこまで図々しいのか。クレマンを止めたギルヘルムも拳を強く握り締めている。
「…また…三人で?」
マリアンヌは小首を傾げながら聞き返した。
「そう!今度こそ、家族として…!今までのことを反省して、貴女と向き合うわ!」
セリスは必死にマリアンヌへ縋った。
「マリアンヌ、これからは母として貴女を愛してあげましょう!」
その言葉にマリアンヌは自分の胸の中がスッと冷めていくのを感じた。
「…お言葉ですが、セリスさん。」
マリアンヌは落ち着いた声で言った。
「……え?」
「先程、あなた方の身分は剥奪されませんでしたか?」
「マ、マリアンヌ?」
「私の母はただ一人。セラフィーヌです。」
「お姉様!?」
「あなた達の娘でも姉でもないの。血も繋がってない。そもそもが他人なのです…私とあなたたちは。」
「そんなっ…。」
「心からの謝罪があれば、減刑を願い出ようと考えたのだけれど…。自分たちのことしか考えられないのね。……昔も……今もずっと。」
マリアンヌはゆっくりと立ち上がると、ヴィルヘルムに視線を送る。
「ジュール国王女に対する監禁、略奪…これらはビスタルク国にも損害をもたらす反逆行為でもある。裁判にかけるまでもない。死罪だ。……連れて行け。」
声が裏返るほどの大声を出して、抵抗を続ける二人をマリアンヌはただ見ていた。
「お願い!お願い!見捨てないで!!!」
「マリアンヌ!!聞いているの!?」
彼女らの呼びかけに応じずにいると、遂に痺れを切らしたのかユリアンヌが絶叫する。
「この悪魔ぁああ!!」
その瞬間、乾いた音が謁見の間に響いた。
「…国王陛下の御前よ。」
マリアンヌは、右手をそっと下ろす。手当を受けた包帯には血が滲んでいる。俯くユリアンヌの左頬は赤くなっていた。
「悪魔はあなた達よ。今も…昔も…。」
そう呟くと、マリアンヌは自分の胸元に手を入れ何かを取り出し、ユリアンヌの目の前に差し出した。ユリアンヌは目を見開く。
その手に握られていたのは、ユリアンヌに渡されたあのナイフだった。
「……これ、返すわね。」
そう言ってマリアンヌは微笑んだのだった。




