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クレマンは、マリアンヌを救うために完璧な土台を作った。
マリアンヌをジュール国の王族に戻し、ビスタルク国の次期国王との婚約。ギルヘルムが国王となり、マリアンヌが王妃となれば、ジュール国とビスタルク国は友好関係を結べるはずだ。
クレマンの要求を全て呑み、ビスタルク国がマルクスらに厳しい制裁を加えるならば、今回の件は不問とすることになった。
「祖父と父には私から、うまく伝えておきます。」
「ははっ…。是非そうしていただきたいな。」
ヴィルヘルムはそう言うと、今もなお固まっているアルヘルムに向き直る。
「はぁ…。お前の行動に目を瞑っていた私も父親失格だな。早いうちから諭しておくべきだった。」
「父上っ、他国の王子の戯言の数々…納得いきません!」
「お前が納得しなくとも、城内の者や民衆の殆どは納得するはずだ。」
人差し指で肘掛けを数回鳴らした後、ヴィルヘルムは処分を言い渡した。
「アルヘルムを廃嫡とし、王位継承権を剥奪する。尚、身分を男爵にし、身柄をダラマスク城に移し、20年間の謹慎を命じる。」
「…な!?」
ダラマスクとは、ビスタルク国の最も北にあり、ビスタルク国一、過酷な地と言われている。国境に位置するその城は、要塞ともなっており、ヴィンセント侯爵率いる屈強な軍がそこを守っている。ギルヘルムは年に数回視察に行くが、アルヘルムは一度も訪れたことがない。辺境地の男臭い場に行くことを拒んでいた。
アルヘルムは真っ青になっている。ギルヘルムも、あの父がそこまでの重い処分を下すとは予測もしていないことだった。
訓練嫌い、女好きの兄がそこへ行ったとて、身が持つのだろうか。郷に入っては郷に従えという精神を兄は毛頭持ち合わせていない。なんとも言えない面持ちで、ギルヘルムはアルヘルムを見ていた。
「…父上、冗談ですよね?」
今まで、一度も息子達を咎めることのなかったヴィルヘルムの発言が信じられないといった様子でアルヘルムは狼狽える。
「この父は、ここで冗談を言うような男だ言うのか?」
「しかし!」
「公爵令嬢でなく…他国の王女に剣を向けておいて、軽い処分で済むわけなかろう。」
「そ、それは…。」
「早く荷物を纏めて5日以内に出て行け。」
「父上!!」
「…アルヘルムを自室へ連れて行け。」
ヴィルヘルムは側に控えていた近衛兵に命じた。ガッカリと肩を落としたアルヘルムは両脇を支えられる形で、謁見の間を後にした。
ダラマスク城での、20年の謹慎。
男爵の地位。
ダラマスク城では、ヴィンセント侯爵の方が爵位が上になる。誰かの下で働くことのなかったアルヘルムは、今後どう生活するのだろうか。
20年後に王城へ戻ったとしても、居場所は無いだろう。そこまでに心変わりしていれば良いが…。
この先のことは誰も想像できなかった。




