66
「王城でこんな醜態を晒す羽目になるとは…。」
マルクスがマリアンヌに近づく。
「…近寄るな。」
ギルヘルムが牽制するが、マルクスの耳には入っていないようだ。
「我々はやり直します。それに丁度、マリアンヌを本邸に移す予定だったのです。…な?マリアンヌ。」
「いやっ…。」
"…この目の前の男は何を言っているの。この人は本当に父親なのかしら…私も実は本当の娘でないのかも知れない…眩暈がする…気持ち悪い。"
マリアンヌは生まれて初めて父親のことを拒絶をした。そのマリアンヌの態度が気に入らないのか、険しい顔つきになる。
「駄々を捏ねるな。みっともない。帰るぞ。」
「マルクス・ルードリッツ…、本邸に移す予定の娘を監禁していたのは誰だ。マリアンヌの部屋の窓を全て塞いで、外に出られないようしていたのは…。」
低い声でギルヘルムは問いただす。
「…は?」
マルクスは寝耳に水だという顔をした。セリス達の方を観ると、彼女達は気まずそうに顔を伏せた。マルクスは舌打ちをする。
「余計なことを。」
睨みつけられたセリスとユリアンヌは、あたふたしながら必死に弁明をしようとする。
「あ、あなた…これには訳が…。」
「お父様、ごめんなさい。アルヘルム様達に取り入るお姉様にちょっと意地悪をしたかっただけなの。」
「………そうだな。」
「お父様!」
マルクスが考え込みながら二人を肯定するかのような発言をし、ユリアンヌは目を輝かせる。血の繋がりは無くとも、親子として一緒に暮らした絆は切れないものなのだとユリアンヌは確信をしたが
、その期待はすぐに裏切られた。
「国王陛下の前で宣言しよう。今ここでセリスと離縁し、ユリアンヌとの親子の縁を切る。」
「…なっ!」
「お父様!?」
「もう、お父様と呼ぶな。」
二人は顔を赤くし憤慨する。怒りの矛先はマリアンヌに向けられた。
「このっ…マリアンヌ!!本当にあんたは悪魔よ!!」
「信じられない!私から何もかもを奪うなんて!あの時監禁なんかしないで、男達に頼んで傷物にすれば良かっ…。」
ユリアンヌが言い終わらないうちに、セリスとユリアンヌの喉元に短剣を突きつけたのは、先程までクレマンを制止していたフォルカーとベルナードだった。
「他国といえど、もう我慢しなくていいんだよな?平民落ちおめでとう。」
「やっと、私たちが手が出せるようになりました。これ以上、マリアンヌ様のお耳に汚い言葉を入れられては困りますしね。」
その言葉を聞いて、ヨゼフが手を挙げてセリス達を押さえつけていた近衛兵達に合図を送る。その合図を受けて、近衛兵達は容赦なく彼女達を体が全て床に着く状態で捩じ伏せた。セリスとユリアンヌはくぐもった呻き声をあげた。
「さぁ、これで良いだろう。マリアンヌ、帰るぞ。」
「行かない…。」
どこまで自己中心的な男なのだろうか。マリアンヌはギルヘルムの服を握りしめ、マルクスを再度拒否した。マルクスは大声を張り上げた。
「いい加減にしろ!恥をかかせるな!」
「哀れな男だ…。」
謁見の間に、重みのある声が響いた。長らく沈黙を貫いていたヴィルヘルムが口を開いたのだ。
「父親であれば、愛する女との間にできた子どもを守ろうと思わないのかね。」
溜息交じりにそう言うと、ヴィルヘルムは、息子達へ愛おしむ眼差しを向ける。
「私は、このどうしようもない大馬鹿者の長男でさえ…可愛さ故に庇ってやろうと思うが…。」
だが、ヴィルヘルムは頭を抱え込むようにして座り直した。アルヘルムは怪訝そうな顔をし、父を見る。
「しかし…、今回ばかりはジュール国の手前、下手な判断はできぬ。ジュール国を敵に回したくないのでな。」
最後は少し冗談めいたように言ったが、今や大国のジュール国を敵に回したくないことは本心だった。ヴィルヘルムはクレマンに声を掛ける。
「さて、若きジュール国の王子よ、今回の件をどうしたい…。」
クレマンは、膝をついてヴィルヘルムに自身の意見を述べた。
「…まずは、この忌まわしきルードリッツ公爵家の家名を剥奪し、公爵領は国の管理下に。」
「許可しよう。」
「なんだって!?調子に乗るな!」
マルクスは逆上するが、クレマンはお構いなしだ。
「そして、この国の王位継承をギルヘルム殿下にし、アルヘルム王太子を廃嫡して頂きたい。」
「そう来ることかと思っていた。…ギルヘルムの方が裁量もあるし、周りからの信頼も厚い。いずれは、王位継承権を考え直さなくてはと思っていたが…良い機会だろう。」
「是非に。マリアンヌに剣を向けたアルヘルム国王が誕生するとなれば、我々は容赦致しません。」
突然の話に、アルヘルムは顔面蒼白になり、言葉を失っていた。ギルヘルムもまさかの展開に理解が追いつかないようだった。
「そして、マリアンヌをジュール国王女の身分に戻し、保護します。」
ギルヘルムが気を落としたような声で言う。
「…ジュール国にマリアンヌを連れていくのか?…それは…困るな。」
「そこから先は、ギルヘルム…お前とマリアンヌ次第だ。」
クレマンの言葉を受け、ギルヘルムとマリアンヌは目を見合わせた。マリアンヌの頬に流れ落ちていた涙の跡を拭い、ギルヘルムはとある決意を固めた。
ここまでは、他国のクレマンの要求であるが、ビスタルク国としての処分はまだ言い渡されていない。話が進むに連れて、マルクスをはじめ、セリスとユリアンヌはわなわなと身を震わせていた。




