63
「国王陛下。」
マリアンヌ達は頭を垂れ、最敬礼をした。ヴィルヘルムはマルクスを引き連れ、謁見の間に入り王座に座る。
「父上、この者は我々に無礼を働きました。」
「ほう…?」
「この汚らしい娘に正しい罰を下そうとしていたのです。」
アルヘルムは自身が最も正しいと示すように、剣を持ったまま両手を広げて弁明をする。ヴィルヘルムは、アルヘルムの言葉には興味ないと言った顔で、マルクスへ視線を移す。マルクスの顔は青ざめていた。それを見たヴィルヘルムは口角を上げる。
「マリアンヌ…どうしてここにいるんだ…。」
マルクスが声を絞り出す。
「な!?この者がマリアンヌ嬢だと!?」
アルヘルムは信じられないといった様子で狼狽える。マリアンヌの顔を確認しようと、あろうことか髪の毛を鷲掴み、乱暴に持ち上げた。鋭い痛みが走る。
「いっ…。」
マリアンヌはあまりの痛みに、言葉にならない声を上げる。だが、すぐにその痛みからは解放された。クレマンに抱き寄せられたマリアンヌの目に映ったのは、ギルヘルムに腕を捻り上げられているアルヘルムの姿だった。
「兄上。今すぐ、剣で決闘を申し込んでも宜しいでしょうか。」
「ぐあ…痛い……離せ!」
「…マリアンヌに謝罪を述べるなら離します。」
「謝る!謝るから!」
ギルヘルムは掴んでいた腕を離すと、マリアンヌの方へアルヘルムを押し出した。相当な力で捻り上げられたのか、アルヘルムは執拗に腕をさすっていた。
「わ、悪かった…。」
「いえ…この場所にこのような姿で参りましたから…誤解なさるのも仕方ありません。」
自国の王子の謝罪を受けて、マリアンヌは戸惑う。
「俺は許さねぇぞ。」
二人の会話に入ったのはクレマンだった。確かな殺意が込められている。アルヘルムだけでなく、その目はマルクスにも向けられていた。
「なんだ…?」
ヴィルヘルムが謁見の間の外を見やる。何やら急に騒がしくなった。制止をする声に混ざって、聞き覚えのある声が聴こえた。
「マリアンヌを連れて帰ります!!」
謁見の間に現れたのは数刻前よりも更に乱れた格好をしたセリスとユリアンヌだった。ギルヘルムは、謁見の間の出入り口で見張りをしている近衛兵に視線で合図を送る。すると、近衛兵達は、セリスとユリアンヌを床に膝を着ける形で押さえ付けた。
「なにを!!離しなさい!!」
「そうよ!私はルードリッツ公爵家の娘よ!無礼者!」
「あなた!どうにかして!!」
セリスはマルクスへ助けを求めるが、マルクスは気まずそうに視線を逸らした。そうした態度を取られ、セリスは絶句した。
「なんだか…賑やかだな。今宵は。」
ヴィルヘルムは、まるでサーカスを観ているかのような口振りで言う。
「父上、わたしはルードリッツ家が長らく隠していた事をここで明らかにしたいのです。」
ギルヘルムのはっきりとした声が謁見の間に響く。マルクスは逃げ出したいという感情が働いているのか急にそわそわし始めた。
「そうだな。長年宰相としてこの国に貢献してきた男が、何を隠していたのか…。ジュール国の大切な宝に何をしたのか…。今明らかにしてみせよ。」
「はい。父上。」
ギルヘルムは不安そうにするマリアンヌに、優しく、大丈夫だと囁いた。




