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放置令嬢の立て直し  作者: 道野草花
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 別邸を出た所で立ち塞がったのは、セリスとユリアンヌだった。


「何しにいらしたのです!?」


 セリスはギルヘルムの馬の前に飛び出た。余程慌てて出てきたのか、いつもはぴっちりと纏めている髪が乱れていた。


「マリアンヌを保護しにきた。」

「恐れながら殿下。その者は……わたしの娘です。勝手に連れて行くなど、許されません。」


 セリスの冷たい眼光はギルヘルムでなくマリアンヌに注がれていた。マリアンヌを庇うようにギルヘルムは彼女を抱く腕に力を込める。


「娘?笑わせるな。娘にあの仕打ちをして、何を言う。」


 穏やかな口調とは一変し、低く静かな怒りが込められた声が発せられる。セリスは口をつぐんだ。そのセリスの姿を見て、ユリアンヌが前に進み出て、マリアンヌの服の裾を引っ張る。


「ギルヘルム様、お姉様は精神を病んでいるのです。ギルヘルム様にどんな危害を加えるか…。」

「マリアンヌに触るな。」

「ですが!」


 そこへ、クレマンが近づき、ゆっくりと馬でユリアンヌを押し退けた。嫌悪を全面に表し、馬の上からユリアンヌを見下ろす。


「……おい。」

「ひっ…。」


 ユリアンヌの喉元に、クレマンは無言で剣を突きつける。焦ったセリスがユリアンヌの肩を抱いて下がらせた。二人が大人しくなると五人は、ルードリッツ邸から出た。背後で「王城まで馬車を!早く!!」とヒステリックに叫ぶセリスとユリアンヌの声が聞こえた。

 



「マリアンヌ、疲れたかい?」


 優しい声が聞こえる。マリアンヌはゆっくりと目を開けた。ギルヘルムの腕の中で寝ていたらしい。馬の上は慣れなかったが、ギルヘルムの胸に体を預けているこの間は、とても心地よかった。

 手綱を引くギルヘルムの両腕に、自分の腕を絡ませていたことにも気付いたが、その手を離すことはしなかった。


「ごめんなさい。わたし寝てた…?」

「ほんの一瞬だよ。馬車じゃなくてごめん。もう着くから。」

「腕、疲れたでしょう?ごめんなさい。」

「全く。しがみついてくれていたから、楽だったよ。」

「……そう?」

「あぁ。」





 王城に着くと、ギルヘルムは使用人にヴィルヘルムとマルクスを謁見の間へ呼び出すよう命じた。


「ゆっくり降りて。」

「っ…。」


 ギルヘルムに支えられて馬から降りる。手を握られると、傷が痛んだ。


「すぐに医者を呼ぶよ。父が来るまで時間がかかるだろうから、その間に手当てをしよう。」


 ギルヘルム達は王城の中へ入る。マリアンヌの見窄らしい姿を見て使用人達は眉根を寄せる。周りからしたら、ギルヘルムがボロを纏った町娘を連れて来たようにしか見えないだろう。マリアンヌは、気恥ずかしさから頭を下げた。


「嫌な奴ら〜、誕生パーティーの時は皆マリアンヌの姿に見惚れてたくせにな。」

「何も恥じることは無い。この姿も君を守る証拠になる。もう少しの辛抱だ。」


 アルヘルムの誕生パーティーで訪れた謁見の間には既に医者が待ち構えていた。両手から、いくつもの木の棘を抜き、消毒を済ませ、清潔な布を巻いてもらう。いささか傷の痛みが引いた気がした。

 丁度布を巻き終えたところで、よく響く靴音が聞こえてきた。靴音の主はアルヘルムだった。ずかずかと謁見の間に入り、マリアンヌ達の方へ近づいてくる。


「こんな時間に、国王と公爵を謁見の間に呼び出すとは何事だ。」

「……大事な用があるのです。兄上。」

「その用件とは……ん?誰だその汚らしい娘は。」


 俯いたままのマリアンヌの肩が跳ねる。軽蔑されていることが顔を伏せていても伝わってきた。


「兄上。分かりませんか?」

「なんだ?ここは平民の来る場所では無い。それにビスタルク最高位の医者を使うとは…こんな娘を手当しなくて良いだろ。その辺の水でも掛けておけ。」


 それ聞いてクレマンはアルヘルムに飛び掛かろうとした。フォルカー、ベルナード、マリアンヌはクレマンの体を抑える。ギルヘルムは医者を下がらせた。


「たとえ平民だったとしても、王城に訪れてはならないことは無いです。怪我をしていれば手当てを受ける権利もあります。」


 ギルヘルムも感情を押し殺して、冷静に言葉を返す。


「平民と王族、貴族が同じであってはならないのだ!示しがつかない!」

「そういう話をしているのではないのです!」


 兄弟喧嘩が過熱する。謁見の間に二人の王子の怒号が反響する。周囲に控えている王室の側近達や、開放されているドアの前を行き来する使用人達が何事かと覗くが、誰も制止することができなかった。


「落ち着いて…。」


 マリアンヌはギルヘルムの袖を引っ張っり、宥めようとした。それが、アルヘルムの逆鱗に触れてしまったようだ。殺気がマリアンヌの体を貫いた。


「他国の王子だけでなく、ビスタルク国の王子に許可なく触れるというこの無礼。許されぬ!」

「兄上、なにを!?」

「この娘の腕を切り落とす!!」




「…そこまでだ。アルヘルム。」


 アルヘルムが剣に手を掛けたその時、国王の声が謁見の間に響き渡った。

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