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マリアンヌは自室で外側の木材を外す作業を行っていた。内側の木材は昨日で外し終わり、日が沈んでから外側の木材を取り外し始めた。すぐに外に出られるように、いつもの町娘の姿になった。顔や服には細かな木屑が付着している。
「マリアンヌ、手が…。」
「平気…よ…。あと少し。」
ナイフが刃毀れし、思ったように作業が進まない。木材のささくれ何度も手に刺さり、血が滲んでいた。部屋の外には見張りがいないようで、外側の木材を外せば窓から表へ出られる。
日が沈んで数時間が経過したが、彼等は気付いてくれているだろうか…。解散していないだろうか…。そうした不安も押し寄せたが、ギルヘルムとクレマンを信じて、木材を外す作業を進めた。
「あそこなのか?」
「あぁ。」
林を抜けると、ルードリッツ邸が見えた。馬を走らせながら、ヨゼフが双眼鏡でルードリッツ邸を覗く。
「ギルヘルム様、西側二階の一室が木で塞がれています。」
「なんだって?」
ヨゼフからの報告に、ギルヘルムは血の気が引くのを感じた。
「おい、そこがマリアンヌの部屋とか言わねぇよな?」
「大方…それで間違いない。」
「はぁ!?クソッ…。」
正門は閉じられており、門には二人の護衛が立っていた。片足重心でやる気なく立っていた護衛達は、騎乗した五人の姿を確認すると慌てて、松明を持ち目の前に立ち塞がる。
「ここは、ルードリッツ公爵邸である。この時間の来客の報告は無い。帰られよ。」
「あ?誰に向かってそんな口聞いてんだ?いいから、開けろよ。」
「ここは、貴様らの来る場所では無い。」
「うるせぇ!」
苛立つクレマンが声を荒げる。今日の身なりは全員、平民の格好をしている。護衛達が頑なに門を開けようとしないのも無理ないだろう。
「落ち着け、クレマン。」
ギルヘルムは、腰から銀の時計を取り出し、それを護衛に見せる。銀時計に刻まれた紋章を見ると、護衛達は目を見開く。松明を掲げてギルヘルムの顔を確認すると、護衛の顔はみるみる青くなった。
「私は、ビスタルク国、第二王子ギルヘルムだ。こちらは、ジュール国王子のクレマン。そして、後ろの者達は王家直属の近衛兵だ。お目通り願おう。」
「ですが…。」
「荒っぽい真似はしたくないんだ。あぁ、通してくれたら、君たちの先ほどの暴言は不問にしてあげるよ。不敬罪で大変なことになると思うけど…。」
「っ…。失礼致しました。」
「ありがとう。」
護衛達は門を開け始める。クレマンは微笑んでいるギルヘルムの目が笑っていないことに気付いた。
「お前もなかなかだよな。」
「なにが?」
「なんでもない。」
門が開くと間髪入れずに五人は中へ入った。別邸の玄関の扉をギルヘルムとクレマンの馬で蹴破り、別邸へ侵入する。激しい音を聞きつけて、使用人達が駆け寄る。「侵入者だ!」と言って、剣を抜く者もいた。
「…マリアンヌの部屋はどこだ?」
ギルヘルムが尋ねる。
「階段を登って左だ!!」
そう叫んだのはリベルトだ。
「恩に着る!」
ギルヘルムとクレマンは馬で二階へ駆け上る。二階にはエリザベスがいて、マリアンヌの部屋を指差した。
「…師匠?」
「おう、久しぶりだな。ヨゼフ。」
「お元気でしたか…。」
「リベルト!お前、図ったのか!?公爵様を裏切る気か!」
「裏切るも何も…。俺が忠誠を誓ってるのはマリアンヌ様とセラフィーヌ様だ。」
「貴様!」
斬り掛かる使用人をリベルトは、いとも簡単に殴り飛ばした。
「おー、あのオッサンやるな。俺らも久しぶりに暴れるか。」
「ほどほどにしてくださいね。すぐにここを出るんですから。」
「はいはい。」
「あと、殺すのはなしです。面倒なことになりますので。」
「やり辛いな。了解。」
フォルカーとベルナードも剣を抜き、使用人達にその刃先を向けた。




