58
暫くして、ギルヘルムの隣にドカッとガサツに座ったのは、先日会ったクレマンだ。
「よぉ。」
「やぁ、お疲れ。」
「一人か?」
「あぁ。シルヴィアはまだ来てない。」
「そうか。」
強盗事件の時は深くフードを被っていたが今日は顔を出している。掃除屋の姿をしている彼と直接会うのは初めてだ。煤を頬や服につけたその姿は、仕草から何まで、平民らしさが出ていた。
「凄いな。いつも会う正装姿の君とは大違いだ。」
「なんだよ。」
「いや、流石だと思って。やはり何年もこういう場所に視察しに入っているからか?王族の雰囲気を感じない。」
「……割と俺は素なんだけど。」
「……。」
クレマンもビールを注文し、ギルヘルムは新しく追加をした。注文後、クレマンは近くを見廻す。
「今日は護衛はいないのか?」
「向かいのカフェにいるよ。君は?」
「俺のは、その隣の小洒落た飲み屋で待機してる。いつもは一緒にここにいるんだが、今日は3人だって約束だからな。」
「そっか。」
クレマンとギルヘルムが話す時は、いつもどこかの王城内で、こうした場で他愛無い話をするのはお互い少し違和感があるのか、流れる空気がぎこちない。マリアンヌのことを待つが、まだ来ない。
「はい。ビールお待ち。」
ゲルタが豪快にビールをテーブルに置く。その拍子に、ジョッキから泡が飛び出した。
「とりあえず…、酒だな。シルヴィアが来たらまた乾杯するか。」
「そうだね。」
「じゃあ、俺たちのこの姿に乾杯って事で。」
「はは。」
グラス同士がぶつかり、涼しげな音を立てた。勢いよくクレマンがビールを飲み進める。
「あー、うめぇ。」
クレマンは一気に半分ほどになったジョッキをテーブルに置き、袖で口を拭った。
「君は王城の客室で寝泊まりしてたの?そちらの国の人と全く会わないけど。」
「いや、俺は城下町の宿屋だ。」
「城下町の?」
「そ。アルヘルム王子と話すのが面倒で。マリアンヌのことを知りたがって、俺や親父に色々詮索してきた。」
「うわ、なんかごめん。」
ギルヘルムが謝ると、クレマンはきょとんとした顔をした。そして、ビールを呷ってから歯を見せて笑って言った。
「親父は王城に一泊だけして帰ったし、俺もすぐ城下町に行ったから何も問題ねぇよ。」
「そっか。」
「お前も大変だな。あんな兄貴がいてさ。」
「…なんとも言えない。」
「あーぁ、お前が国王になったらやりやすいのになぁ。」
「まぁ、僕は兄の後ろでサポートに回るよ。」
「やるせねぇー。」
その後も二人は、家族のことや、国の今後について話を進めた。




