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誕生日パーティーの後から、ギルヘルムは様々な仕事に追われていた。
アルヘルムはマリアンヌを大層気に入り、婚約を申し込もうとしている。その熱意を、マリアンヌから遠ざける事にも奔走した。
ヴィルヘルムは何かを察しているのか、アルヘルムがマリアンヌに婚約を申し込もうとするのを「両姉妹に対して失礼に値する。」窘めていた。
それでも、アルヘルムはどうにかしてマリアンヌを手に入れようと必死になっていた。しかし、数日滞在する他国の王族や、貴族やらへの接待をしなければならない。アルヘルムは、それらが落ち着くまで、王城から身動きができないでいた。そして、空いている時間は女遊びをしていて政務等の仕事に一切手をつけなかった。ギルヘルムは彼の尻拭いを懸命に行っていたのだ。
「さて…。」
ギルヘルムは一息つくと、立ち上がった。あの日、一緒に踊ったり語り合ったりした時のマリアンヌの気品ある姿が忘れられない。シルヴィアの時の屈託のない笑顔を覗かせるのも、ギルヘルムの胸を高鳴らせた。
「ヨゼフ。準備はできたか?」
「はい。失礼します。」
ヨゼフが質素な服に身を包み、入室する。ギルヘルムの元へ行くと、服を出して着替えを手伝った。
「今日はとてもご機嫌ですね。」
「そうか?」
「眉間の皺が見当たらないですし…。」
「そんなにか。」
ギルヘルムは眉と眉の間に手を当てる。連日の激務と、アルヘルムの対応で疲れ切っていたギルヘルムは眉間に皺を寄せることが多かった。
「まさか、ジュール国の王子とビスタルク国の王子が、下町の飯屋で飲み交わすなんて…。誰が想像しましょう。」
「はは。僕も驚いている。」
「ハイケンの住人が正体を知ったら泡を吹くでしょうね。」
「大袈裟な。」
ヨゼフ同様、質素な服に着替えたギルヘルムは剣を取り出し、それもまた質素な鞘に収めた。マリアンヌにもクレマンにも正体が知られているし、前回の事件に苦い思い出がある。自分はもちろんだが、マリアンヌを守るために、常に剣を持つことにした。
支度を済ませると、ヨゼフだけを連れて足早に外へ出る。他の護衛達は皆、他国の来客者達の警備で出払っていた。だが、少人数の方が、気付かれるリスクが減る。
ギルヘルムは愛馬に跨ると、そのままハイケンへ向かった。
「遅くなってしまった。急ぐぞ。」
「はっ。」
辺りはすっかり真っ暗だった。
ーーカランカラン
店に入ると、まだ2人は来ていなかった。ヨゼフは目の前のカフェでギルヘルムを見守っている。
「あら、久しぶりだねぇ。元気してた?」
ゲルタがギルヘルムを迎え入れる。
「こんばんは。これから、2人来るんだ。」
「そうかい。わかった、そこのテーブル席を使いな。」
「そうさせてもらうよ。あ、先にビールを貰おうかな。」
「はいよ。」
ギルヘルムは席に座り、2人が訪れるのを待つことにした。




