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ダンスの最中、アルヘルムはマリアンヌに自分と結婚することのメリットについて事細かに言って聞かせた。大半は、不自由のない暮らしができる、王妃の仕事は周りがやってくれるという内容だった。
その中でも、「我々に子どもが出来たら、世界一美しい子だろう。」という発言はマリアンヌの全身に鳥肌を立たせた。マリアンヌは笑って流すしか術がなかった。
ダンスを一曲終えた後は、令嬢達の相手に追われたアルヘルムはマリアンヌから離れた。しつこく口説かれるかと警戒していたが、思ったよりもあっさりとしていて拍子抜けだった。
マリアンヌはクレマンとも踊った後、またギルヘルムと三人で国の話や政治の話に花を咲かせた。クレマンに「女なのによく知っているな。」と驚かれるほど、マリアンヌには様々な知識が備わっていた。
アルヘルムとマリアンヌが踊っている間、ギルヘルムやクレマンは、ユリアンヌからダンスを誘われたらしいが、遠回しにそれを断ったとの事だった。二人はユリアンヌのことを良く思っていないようだ。
「…かと言って、マリアンヌが兄上の婚約者になるのは嫌だな。」
「俺も無理。マリアンヌこそ、あんなのと結婚してみろ、窒息するぞ。弟がなんとかしろよ。」
「善処する。」
あまりの言われっぷりにマリアンヌは苦笑する。
「一応、君の意思を聞かないとね。兄上の事はどう思う?」
「どうも何も…。全くもって興味が湧かないわ。」
「良かった!じゃあ、僕に任せて。」
「期待してるわね。」
ーー 身分に拘る兄上のことだ。ジュール国の王族の血を引いている美しいマリアンヌ、平民のユリアンヌ、どっちを取るかは明白だな…。
「…つか、お前らが結婚すれば良くね?」
「は!?」
クレマンの突然の発言に、マリアンヌとギルヘルムは顔を赤らめたのだった。
アルヘルムの誕生パーティーもつつがなく終わり、来賓客はそれぞれの帰路に着き始めた。
「ギルヘルム殿下、クレマン殿下…。娘に親切にして頂きありがとうございました。」
「仲良く出来たか?」
三人の元へ、マルクスとアランがやってきた。マルクスの後ろにはユリアンヌ、セリスがいて、マリアンヌに冷ややかな視線を送っている。マリアンヌは二人から目を逸らし、精一杯気付かない素振りを見せた。
「ギルヘルム…マリアンヌ嬢とクレマン殿といる時はとても楽しそうだな。」
「国王陛下っ…。」
国王自ら足を運び、ここまで来ることは珍しい。皆、一斉に畏まった。
「久しぶりに、お前の笑顔を見た気がするな。」
「…父上。」
ヴィルヘルムはギルヘルムへ父親の顔を向ける。そこへアルヘルムが駆け寄り、二人の和やかな空気を遮った。
「マリアンヌ嬢、また会おう。今度はゆっくりと。」
「兄上!兄上にはユリアンヌ嬢がおられるではありませんか。」
ギルヘルムが言い放つ。アルヘルムはムッとした顔をすると、「父上、その件でご相談が…。」と言い、ヴィルヘルムを連れて行った。
「皆さん道中気をつけて。…マリアンヌ、クレマン、また!」
“約束の日に。”
ギルヘルムは他二人にそう目配せをして、父と兄の後へついて行った。
「マリアンヌ、モテモテだな。」
「…からかわないでください。」
クレマンが面白そうにマリアンヌの肩を叩く。アランも横で頷く。
「マリアンヌは美しいから魅了されるのも仕方ない。」
「叔父様、そんな事ないですわ。」
「いや、私の贈り物が全て霞んでしまうほど美しいよ。」
「きゃっ…。」
アランはそう言うと、以前のようにマリアンヌを抱き上げてクルクルと回った。
「あぁ…。マリアンヌ、名残惜しいけど、また近々会おう。父上も会いたがっていたから、今度はジュール国においで。そうだな…ギルヘルム殿下も招こう。」
マリアンヌをそっと腕から下ろすと、アランは眉毛を下げて寂しさを込めた声でそう言った。
「よろしいのですか?」
「もちろんだよ。賑やかな方がクレマンも喜ぶ。日を決めて招待状を送るよ。」
「心待ちにしております。」
アラン達と別れた後、来た時と同じ馬車にマリアンヌ達は乗り込んだ。マルクスは相変わらず、公務があると言って城内へ引き返した。 マリアンヌは揺れる馬車の中で、鏡の中の者に今日のことを報告したい思いが抑えられず、うずうずしていた。
この後どんな過酷なことが待ち受けているかも考えもせずに…。




