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「「「あ」」」
口を開いたのは三人同時だった。
「なんだよ。」
「いや、クレマンから。」
「はぁ?ギルヘルム殿下どうぞ。」
「じゃあ…マリアンヌから…。」
「えぇ…。」
ギルヘルムに指名されたら言うしかない。マリアンヌはため息混じりに話を振った。
「まさか…、みんながみんな正体を隠してたなんてことある?」
マリアンヌの発言に2人が吹き出す。クレマンは笑った時に出た涙を拭う。
「本当だよなぁ。俺も、あの街に第二王子がいるとは思わなかったぜ。」
「それはこちらも同じだよ。他国の王子がいるのは驚いた。しかもジュール国とは。」
「気を悪くするな。別にスパイしてた訳じゃねぇよ。さっきいた部下のベルナードの家は貿易に力入れててな。そのついでに息抜きにビスタルク国の社会見学させてもらってたんだ。」
「そうなのか。…てっきり攻め入る予定でも立ているのかと。」
「だから違うって。」
「へぇ。」
二人の会話をマリアンヌは不安そうに聞いていた。警戒しているのか、ギルヘルムの空気が張り詰めている気がした。
「二人も顔見知りだったのね。」
マリアンヌはどうにかこの空気を打開しようと口を挟む。
「まぁ、俺たちは何度かこういう場で顔を合わせているからな。」
「なるほど。そうよね。」
「マリアンヌも社交界の場に出て来られたのだから、こっちでも会う機会が増えるね。」
ギルヘルムが笑顔を向ける。こうした場で会えるかも嬉しいが、出来ればハイケンでみんなとまた会いたい。その内心が顔に出たのか、ギルヘルムはマリアンヌの手を取る。
「またハイケンでも会おう。そうだな、この三人でパウルとゲルタのお店に行こう。」
「私たちみんなで?嬉しい!」
ギルヘルムの案は、マリアンヌが以前願っていたことだった。
「マリアンヌが言うなら…。俺も少しの間ここに滞在するから有りだな。」
「では…三日後。いつもの時間に店で待ち合わせするのはどうだ?」
「賛成!」
「分かった。」
「では、必ず。」
マリアンヌ達は約束を交わして、三人で再び場内へ戻った。幾つものペアが中央で華麗なダンスを披露している。その中にはユリアンヌの姿も見られた。
マリアンヌ達は、飲み物を手に談笑を続けた。ギルヘルムとクレマンもいつの間にか、気さくに話すようになっていた。この二人が良好な関係を築き、ビスタルク国とジュール国が和平協定を結んだら、こんなに喜ばしいことはないだろう。
そこへ、ある人物がマリアンヌの元へやってきた。
「マリアンヌ嬢、君にダンスの相手を申し込む。」
今日の主役のアルヘルムだ。王位継承第一位の彼の誘いを断る訳にはいかないが、その手を取るのを躊躇った。相手はユリアンヌの婚約者候補だ。そして、先程のギルヘルムの忠告も引っ掛かる。
「兄上、まだ候補の令嬢達とのダンスが済んでいないのでは。」
「どうでも良い。」
「しかし…。」
ギルヘルムが、マリアンヌとアルヘルムの間に割ってはいるが、お構いなしだ。アルヘルムはギルヘルムの言うことに一切耳を傾けず、マリアンヌの手の甲にキスを落とした。
「アルヘルム殿下っ…。」
「君の体裁を考えて、ユリアンヌ嬢とのダンスは終えたぞ。だから、何も後ろめたく思うことはない。」
「でも…。」
「弟とは踊ったのに、無理だと言うのか?」
その言葉には有無を言わせない圧力が感じられた。押し黙るマリアンヌの手を強引に引っ張りながら、ダンスホールの中央へとずんずん進んで行く。それから演奏者達に向かって声を張り上げた。
「私とルードリッツ公爵家の女神が踊るぞ!盛り上がる曲にしろ。」
「ア、アルヘルム殿下!?」
目立ちたくなかったマリアンヌはこの場から早く立ち去りたい衝動に駆られる。曲が急に変わり、踊っていた者達は足を止めてアルヘルムとマリアンヌを見た。その中に、激しい嫉妬心を剥き出しにしたユリアンヌの姿もあったが、マリアンヌは気付かなかった。




