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初めて見る城は圧巻だった。見渡すことができないほど壮大な庭園と建物。外には街灯が沢山灯されていたが、奥の方までは把握できない。そして、庭園に出入りする人の数の多さ…。まるで一つの町のようだった。
「ルードリッツ公爵家のご到着です。」
王城の護衛が声を張り上げる。王城入りする貴族達や、その使用人、護衛までもが一斉に振りかえる。ルードリッツ公爵家が権力者であることもそうだが、アルヘルムが見初めたと噂されるユリアンヌに誰もが注目していた。
ユリアンヌとセリスが馬車から降りると、祝福の声やユリアンヌを褒め称える声が飛び交った。ユリアンヌはニヤつく口元を扇で隠しながら歩みを進めた。
「あれ…。ルードリッツ公爵家の馬車がもう一台あるぞ。」
誰かが、その存在に気付く。皆が不思議そうにその馬車を見つめる。
馬車が開かれた。御者にエスコートされながら、マリアンヌが王城へ降り立つ。「誰だ…。」「誰なんだ…。」初めて見るその顔に皆が困惑する。そして、誰もがマリアンヌの美しさに魅入られた。
マリアンヌは背筋を伸ばしてユリアンヌとセリスの後ろを少し間を空けて歩いたが、周りの注目を浴びて緊張で心臓がどうにかなりそうだった。
城内はこれまで見たことのない豪華絢爛さだった。シャンデリア
が玄関ホールで来客を迎え、敷き詰められたカーペットにはびっしりと細かな花や草のような模様が描かれている。マルクスも合流し、謁見の間へと通される。ヴィルヘルム国王と会うのは初めてだ。マリアンヌは頭を少し下げながら、奥へと進んだ。
「息子の誕生日に来てくれてありがとう。」
低く柔らかな声が聞こえる。どことなくギルヘルムの口調に似ていた。
「お招きいただき光栄でございます。国王陛下。そして、お誕生日おめでとうございます。アルヘルム王太子殿下。」
マルクスが挨拶をするのと同時に全員でカーテシーをする。
「ありがとうな。顔を上げよ。」
鼻につく話し方をしたのはアルヘルムだ。玉座の前に置かれた椅子に、足を組み、挨拶に来るもの達を見下すように座っている。
マリアンヌ達は顔をあげた。マリアンヌの視界に一番に飛び込んできたのは、玉座の横に立つギルヘルムだった。ギルヘルムと目が合うと、彼は微笑みながらマリアンヌに会釈をした。
「ほぅ…そなたがマリアンヌか?」
ヴィルヘルムが興味津々にマリアンヌを見る。
「美しいな…。」
そう声を漏らしたのはアルヘルムだった。その後ろで、ギルヘルムは心底呆れた顔をする。
「ヴィルヘルム国王陛下、アルヘルム王太子殿下、本日はおめでとうございます。」
マリアンヌは凛とした声でそう言うと、再びカーテシーを行った。
「楽しんでいってくれ。」
「はい。」
アルヘルムはじっとマリアンヌを見つめる。それに気付いたユリアンヌは
「アルヘルム様、おめでとうございます。大広間でお待ちしておりますわ。ダンスのお相手お願いしますね。」
とマリアンヌの前に進み出て挨拶をした。自分から話しかけるなどマナー違反だ。まして、女性からダンスに誘うなどもっての外だ。相手が王太子なら尚更だった。
「ユリアンヌ、やめなさい。大変失礼致しました…。」
マルクスは焦りながらユリアンヌ達を連れて謁見の間を後にした。
マリアンヌは出入り口の手前で振り返り、ギルヘルムを見た。
ギルヘルムは声を発さなかったが
"あとでね"
と言っていることが口の動きで分かった。




