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翌日、エリザベスから驚くことを告げられた。
ひとつは、アルヘルム殿下の誕生パーティーに参列すること。
ひとつは、本邸へ移ること。
マリアンヌは鏡の中の者へ、そのことを報告した。
「アラン叔父様が国王陛下に私のことを話したらしいの。」
「なるほどな。」
「国王陛下も私のことはちょっと忘れていたらしいけれど。元気なら是非参加するようにとのことをお父様に伝えたみたい。」
「だろうな…。まぁ、でも良い機会だ。」
「ただ、ギルヘルム様にどんな顔して会えばいいか…。」
庭園での遭遇以降、ハイケンへ行っていないこともありジークハルトもといギルヘルムに会っていない。久しぶりの再会が、王城となるとハイケンでのやりとりのようには関わることができないだろう。
「大丈夫だろ。いつものお前で行け。…アルヘルムが興味持たないと良いけどな。」
「え?それは絶対ないわ。ユリアンヌのことを気に入ってたみたいだもの。」
マリアンヌは首を振って否定する。
「どうだかな…。気をつけろよ、あいつは綺麗な女には目がないんだ。」
「ふふ、分かったわ。」
「…もう平気なのか?」
「なにが?」
「昨日、暫く泣いてたから…。」
「大丈夫よ。だってまたすぐ会えるんだから。」
鏡の中の者はマリアンヌの笑顔を見て胸を撫で下ろす。無理はしていないようだ。
「本邸の件はどうするんだ?」
「…わたしは別邸にいたいと思ってしまっているの。」
本邸にはユリアンヌやセリスがいる。どんな嫌がらせを受けるか想像がつく。使用人達も表立って味方はしてくれないだろう。
「アラン叔父様がお父様に釘を刺して行かれたから。気にしているのでしょうけど。」
「まぁ、あの人はマリアンヌが邪険に扱われていると知ったら、即戦争をふっかけるだろうな。」
「叔父様についても詳しいのね。」
「あぁ、あの人は有名だから…。」
「アルヘルム殿下の誕生パーティーに向けて、本邸の方も準備が忙しいみたいだし…それが終わったら少しずつ移動することにはなると思うわ。」
マリアンヌは気乗りしない様子だ。温かい別邸の生活を気に入っていた。本邸に移動したら、ハイケンへ行くことも難しくなるだろう。手紙のやりとりも制限されるし、ギード達にも会えなくなることがとても寂しいと感じた。
本邸から数名の使用人が迎えに来た。マリアンヌは先日アランから贈られたものの中にあったドレスと宝飾品を身につけた。高級感の漂う深い紺色のドレスで、金色の刺繍が一面に施されている。可愛らしさと大人っぽさの両方が詰まったマリアンヌらしいドレスだった。マリアンヌは手鏡に手を振ると、胸を張って別邸から外へ出た。
マリアンヌが馬車の前に到着すると、ユリアンヌとセリスが本邸から出てきた。マルクスは仕事で王城に泊まり込んでいて、本邸にはいなかった。
「ふーん。」
ユリアンヌはマリアンヌの爪先からてっぺんまでを見て意味ありげに言う。
「お姉様、アルヘルム様の邪魔はしないでくださいね。」
「だ…。」
だれがするか…と言いそうになる口を紡ぐ。いけない。ここ連日、鏡の中の者と話しすぎたせいで口癖が移ってしまっている。今日はルードリッツ公爵家の長女として王城へ行くというのに。
「さぁ、ユリアンヌ行きましょう。」
セリスはマリアンヌに見向きもせず、ユリアンヌと共に馬車に乗り込んだ。
マリアンヌは一人、違う馬車へと案内された。一人なら手鏡を持ってこれば良かったと少し後悔したのだった。




