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「本当はもっと早く会いに来たかったんだ。」
ガゼボではマリアンヌとアランが共に食事をとっていた。逞しいアランだが、漂う空気は優雅だ。
アランの背の向こうでは、本邸から別邸の間を使用人達がいくつもの箱をせっせと運んでいる。アランがマリアンヌに贈った数々の品だった。別邸へ運び入れていることを疑問に思われたらどうしようとマリアンヌは気が気でなかった。
「ジュール国拡大に尽力なさっていたのでしょう?」
「そうなんだよ。」
「バチカルノ国とビルガ国の連合軍に勝利したのは本当素晴らしい功績ですわ。」
「よく知っているね。あれはなかなか手強かったなぁ…。」
「叔父様の戦略は、どの国の軍師も讃えているようですね。」
「照れるな。」
アランはナフキンで口元を拭いながら笑う。それを見てマリアンヌも自然とつられて笑みをこぼす。
「倅も連れてきたかったんだが…、クレマンには今他国への侵攻を任せているんだ。」
「…ご無事なのですか?」
「あいつはちょっとやそっとで死なないさ。優秀な部下もいるしな。」
「だと…良いのですけれど…。」
「アルヘルム王子の誕生パーティーには間に合わせるよう言っているから、そこで会えるだろう。」
「それは楽しみです。」
人と話しながら食事を摂るのはいつぶりか。マリアンヌはこの時間がずっと続けばいいとさえ思った。ふと手をとめて、アランを見る。
「お爺さまの体調はいかがですか?」
アランからの手紙で長らく祖父であるモーガン王が長いこと病に伏せっているとあった。
「頭は元気なんだがな。足が弱って自力では歩けないんだ。」
「そうですか…。」
「とても会いたがっていたよ。アルヘルム王子の誕生日パーティーが終わったら、是非ジュール国に来てくれ。」
「喜んで。」
「私も父も、マリアンヌと会うのはセラフィーヌの葬儀の時以来だからな。こんなに美しいレディになっているとは…驚きだ。」
「そんな…。」
マリアンヌは謙遜する。褒められる経験が殆ど無いマリアンヌはどう対応していいのか分からない。
「髪につけているのはガーベラか?」
「はい。…やはり、おかしいでしょうか。」
「そんなことはない。セラフィーヌも大好きだった花だ。」
アランが目を細める。セラフィーヌとの思い出を懐かしんでいるようだった。
「そうなんですね。初めて知りましたわ。」
「あぁ、あの子は花が好きだったんだが、長く外に出られない体だったからな。誕生日には屋内に庭を作ってやったこともある。」
「凄い…。」
「マリアンヌも体が弱いと聞いていたが、思ったより元気そうで安心した。」
「……大分健康になりました。」
ーー本当はどこも悪くないと伝えられたら楽になるのに…。
ユリアンヌやセリス、マルクスの冷たい表情が脳裏に浮かび、誤魔化すしかなかった。




