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庭園にぞろぞろとバーディングを身につけた何頭もの馬と、数台の馬車が重々しい雰囲気を纏って入ってきた。護衛として同行したジュール国の騎士達は、鎧に盾、腰からは剣を下げ、いつでも戦争に行けるような格好をしている。顔も甲冑で覆われ、顔を確認することができない。今や大国となったジュール国がビスタルク国を牽制しているようにも見てとれた。
玄関ホールの外で、マルクスとマリアンヌ、セリス、ユリアンヌは並んで彼らを迎え入れた。マルクスも緊張しているのか、いつもに増して表情固い。セリスとユリアンヌは、ジュール国の力の大きさを目の当たりにし、二人してはしゃいでいる。
「凄い馬車と騎士団達ね!お母様。」
「ええ。あなたもアルヘルム様と結婚したら、ああいう人達に守られるわよ。」
「最高だわ!早くアルヘルム様と結婚したい!沢山の護衛を従えて、色々なところに出掛けたいわ。」
「お母様も連れて行ってね。」
「勿論よ。」
この国では絶大な権力を握るルードリッツ公爵家とのものとは比べ物にならない程の、豪華な装飾が施された馬車が目の前に止まった。マリアンヌはドレスの裾を握る。待ち望んでいた時がやってきたのだ。
御者が扉を開けると同時にマリアンヌ達は頭を下げる。
「久しぶりだな。マルクス。」
コツコツとした靴音と共に、低く優しい声が響く。聞きたかった声を、初めて耳にし、マリアンヌの目頭が熱くなった。
「ご機嫌麗しゅう、アラン殿下…。」
アランはマルクスと握手を交わす。
「私もだが、君も老けたな。」
「はは。間違いありません。」
マリアンヌの目の前に、綺麗に磨かれた靴がとまる。
「君が、マリアンヌか?」
「はい…。マリアンヌ・ルードリッツと申します。」
「顔を見たい。顔を見せてくれ…。」
マリアンヌはおずおずと顔を上げる。身内から虐げられ、放置されていたマリアンヌはどういう反応をされるのか内心怯えていた。
初めて見るアランは、とても背が高く、筋肉質で眉も目もキリッとした男だった。アランの目がマリアンヌを捉える。
アランは目尻を下げて白い歯を見せながら笑いかけ、歓喜の声をあげた。
「本当に美しく天使のような子だ!!会いたかったよ!マリアンヌ!」
そして、マリアンヌを力強く抱きしめた。
「ア、アラン殿下!?」
「叔父様と呼んでくれ。」
耳元で小さく"手紙ように"と囁かれる。内密でやりとりしているのが露呈しないよう配慮しているようだ。
「アラン叔父様…。」
「そうだ!私が君の叔父のアランだ!」
アランはマリアンヌを両手で高く抱え上げ、クルクルと回った。予想に反して熱烈なアランに思わずマリアンヌは驚く。
「ごめんごめん、激しすぎたな。余りにも嬉しかったんだ。」
「私もお会いできて光栄です。」
マリアンヌとアランのやりとりを見て、我慢ならなかったのはユリアンヌだ。マリアンヌとアランの間に割って入る。
「初めまして。アラン叔父様。妹のユリアンヌと申します。」
お辞儀をしたユリアンヌを見たアランは、マリアンヌの時とは違い軽蔑した顔をユリアンヌに向ける。その顔は軍師王や戦狂いと呼ばれるアラン次期国王の顔をしていた。マリアンヌも思わず息を呑む。
「…君の叔父になったつもりはないんだが?」
「え…?」
冷たく低い声を浴びせられて、ユリアンヌは驚愕してアランを見る。
「そのカーテシーも最低だな。マリアンヌに師事して貰った方がいい。」
「…なっ。」
ユリアンヌの顔が一気に赤くなる。
「大変失礼致しました。ユリアンヌ、下がりなさい。」
セリスが慌ててユリアンヌの肩を抱いて下がらせた。マルクスも謝罪の言葉を口にする。
おろおろするマリアンヌに、アランはまた優しい笑顔を向けた。
「昼食を用意してくれたと聞いたが、ここの美しい庭を見ながらマリアンヌと二人でいただきたいな。」
「私と二人でですか?」
「嫌かい?」
「いいえ!とても、嬉しいですわ…。」
「良かった。…というわけだからマルクス、悪いが食事はそこの庭園にあるガゼボに運んでくれ。」
マルクスに投げられたその言葉も優しい口調ではあったが、有無を言わせない威圧感があった。
「…承知致しました。」
マルクスは了承し、すぐに近くにいる執事に食事の手配をするよう指示を出した。




