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玄関ホールの外では、若い使用人が数名立っていた。マリアンヌが到着すると、使用人達はまじまじと彼女を見て、あまりの美しさに息を呑んだ。
初めて見る使用人達ばかりだ。マリアンヌが使用人に会釈をする。
「…マリアンヌ様ですか?」
「はい。」
「お待ちしておりました。どうぞ…。」
前妻の子といえど、ルードリッツ家の長女であるのに、ほとんどの使用人に顔すら知られていない現実を突きつけられる。玄関ホールに入ると、中にいる使用人達がチラチラとマリアンヌを見た。大勢の人に見られることに慣れていないマリアンヌの手は小さく震えていた。
玄関ホールの奥から、複数の使用人と共にマルクスとセリス、ユリアンヌが歩いてくる。マルクスはマリアンヌを見ると、目を見開いた。
「セラフィーヌ…。」
マルクスは誰にも聞こえないほどの小さな声で、思わずその名を口に出した。無意識に出た声に驚き、片手で口を覆う。セリスはマルクスのその様子を見て、顔を顰めた。そして、皮肉たっぷりにマリアンヌに声をかけた。
「あら久しぶりね、マリアンヌ。随分と化けたじゃないの。」
「奥様…。ごきげんよう。」
「お姉様ったら、ずるいわ。ねぇ、お父様そのサファイアのネックレスと同じようなものを私にもください。」
マルクスの袖を引っ張りながらユリアンヌがねだる。マルクスは我にかえり、「あぁ…。」と返事をしたが、マリアンヌのことを見ているばかりで、先ほどのユリアンヌの声は耳に入っていないようだ。
「それにしても、なぁに、その花。」
セリスがマリアンヌの髪に挿してあるガーベラを見て言う。それに乗っかるようにしてユリアンヌも続けた。
「こーんな、素敵なドレスとネックレスなのに、花で台無しじゃないですか?虫とかついてたら笑えないわよ。」
「グンテが大事に育ててくれた花よ。どんな宝石にも負けないわ。」
「…生意気。」
ユリアンヌが睨みつけてきたが、マリアンヌは怯むことなく背筋を伸ばしたまま堂々と立つ。周りにいる使用人はマリアンヌ達のピリピリとした空気に怯えているようだった。
「アラン殿下は昼にこちらに到着するとのことだ。昼は全員でいただく。マナーは完璧だろうな?」
「エリザベスに教わりました。」
「そうか。くれぐれもルードリッツ公爵家に泥を塗ることがないように。」
「はい。」
「では、また来る。」
マルクスはそう言うと、仕事をしに書斎に向かった。セリスとユリアンヌもどこかへ行ってしまい、ぽつんと残されたマリアンヌは、使用人に応接室へと通された。
通された応接室は、別邸の応接室よりも豪華な家具が置かれていた。ぐるっと見渡すと家具は全て白、青、金の色で統一されている。掃除は完璧で塵一つなく、室内は柔らかい香りに包まれている。テーブルにも、出窓にも沢山の美しい花が活けられていた。
「お茶をお持ちしました。」
マリアンヌがソファに腰掛けたいると、初老の執事がティーセットを運んできた。マルクス直属の数名いる執事の一人だ。その中でも彼は古株だった。
「ありがとう…。」
「お久しぶりです。マリアンヌ様…。お元気そうで何よりです。」
「ごめんなさい…覚えていなくて…。」
「いえ、わたくしが別邸にご挨拶へ伺わないのがいけないのでございます。」
執事は申し訳なさそうに頭を下げる。慌てたマリアンヌは手を振って否定をする。
「そんな…、仕方ないことだもの。」
「しかし、本当にここにセラフィーヌ様がお帰りになられたようで…。わたくしのような昔から仕えている使用人達は狂喜乱舞しております。」
「ふふ…。そんなに似ているの?」
「ええ。お顔立ちはもちろん、雰囲気もお声も…。」
「嬉しい。」
マリアンヌは、ティーカップを受け取る。花の香りがふわっと漂ってくる。
「所作も全てお美しいですね。」
「それは自信になるわ。ありがとう。変なところはない?」
「全くございません。」
「やったわ!…ぁ、ごめんなさい。大きな声を出して。」
マリアンヌは執事に満面の笑みを向けた。
「…マリアンヌ様は、セラフィーヌ様とは少し違いますね。」
「え?」
「とても生き生きとしておられます。」
「がさつさが出てしまっているから?」
「そう言う意味ではなく…。」
「冗談よ。」
マリアンヌと執事は笑い合う。
「この応接室の家具は、マルクス様がセラフィーヌ様をイメージして白と青と金で揃えられたのですよ。」
「そうだったの。」
「特注でしたから、輿入れまでに間に合わせるのが大変で、職人達は泡を吹いていましたね。」
「大変だったのね。」
「それほどマルクス様はセラフィーヌ様を愛しておられました。」
「……。」
ーー じゃあ、私は?
そう問いたくなる気持ちを抑えたのを察して、執事は話題を変えた。
「そのガーベラ、良くお似合いですよ。」
「グンテがくれたの。奥様とユリアンヌには不評だったけれど…。」
「そんなことはございません。自信をお持ちください。」
マリアンヌと執事はしばらくの間、2人で様々な話をした。




