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マリアンヌはあまりの衝撃に体が震えていた。ビスタルク国の貴族男性の服の襟元には、家紋が刺繍されていることが多い。襟元を見ると王家の紋章が刺繍が光っていた。
前々から高貴な身分な人だと思っていたが、まさか王族だったとは…。信じられない事実に頭が真っ白になった。
ギルヘルムも同じだ。何故、町娘のシルヴィアがここにいるのか…。二人は沈黙した。その沈黙は短い時間だったが、二人には永遠に感じた。
「君は一体…。」
ギルヘルムが、マリアンヌの帽子に手を伸ばす。帽子が傾くと、そこから光り輝くブロンドの髪が、風を受けながらふわりと垂れ下がった。ギルヘルムは目を奪われた。あの金の輝きは、これだったのか…。
優しく垂れた髪に触れる。さらさらとしていて触り心地がとても良かった。マリアンヌは少し頬を赤らめ、一歩後ろに下がった。
町で会った時は、何か細工をしていたのだろうか…。頭に被っている布巾から覗く髪にはこうした輝きは見られなかった。
ーー いや、外に落ちたタオルを届けたと言う護衛が陰で言っていたな。今まで見たことのない綺麗な髪の色だったと…。
「シルヴィー、君はここで働いているの?」
質素ではあるが、使用人の装いとは違って見えた。
「えっと…。」
マリアンヌが何か言いかけた時に、後ろから大慌てで呼ぶ声が聞こえた。
「マリアンヌ様!!」
「…え?」
ーーシルヴィアでないのか?マリアンヌとは誰だ?君は一体誰なんだ…。
マリアンヌは、困惑するギルヘルムの唇に自分の人差し指を当てると「誰にも言わないで。」と言って小さく笑った。
金の髪に包まれたその笑顔は、天から舞い降りた女神のようで、ギルヘルムはその場から動けないでいた。
「エリザベス、ごめんなさい。」
別邸に裏口から入るなり、マリアンヌはエリザベスに謝罪する。エリザベスの厚意を踏み躙ってしまったことに申し訳なさを感じていた。そんなマリアンヌにエリザベスは真剣な眼差しを向ける。
「あのお方と何か話しましたか?」
「いえ、何も…。あの方はどなた?」
「アルヘルム殿下の弟君であらせられるギルヘルム殿下です。」
「ギルヘルム…。」
「接触したことがユリアンヌ様達に知れたら大変です。何も無かったということにしてくださいませ。よろしいですね?」
「えぇ…。」
エリザベスに釘を刺されたマリアンヌは自室に戻り、窓を全て閉め切って椅子に腰掛けた。机の上に置かれたガラスのペンを見つめて、ギルヘルムとジークハルトに思いを巡らせた。




