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「叔父様もお身体にお気をつけて…っと。できたわ。」
ペンを戻し、顔を上げると陽が沈みかけていた。マリアンヌは蝋燭台に火を灯すと、そっと持ち上げた。そして手鏡のある台へ近づき、反対の手で手鏡を持ち、蝋燭台を代わりに置いた。ゆっくりとベッドへ腰をかけると、鏡に映る自分をぼんやりと眺めた。
「手紙は書けたのか?」
今度は鏡の中の者から話しかけてきた。
「ええ…。」
「どうした?」
先程の報告の時の声とは違い、力無く応えるマリアンヌに違和感を覚え、心配そうに声を掛ける。
「数ヶ月後、私はここで自害するのね。」
マリアンヌはそういうと、ベッドシーツを撫でた。
「そうはさせない。」
鏡の中の者は、いつになく真剣な口調で返したが、そこには怒気が混じっているようだった。
「ねぇ、本当にアルヘルム様はルードリッツ家に婚約を申し込むの?」
「あぁ。」
「そう…。でも、ユリアンヌと結ばれるのね。」
「……。」
鏡の中の者は黙り込んだ。肯定していることになるが、掛ける言葉が見つからない。
「私は放置されたまま野垂れ死ぬと…。」
マリアンヌは鏡の中の者の言葉遣いを真似、それから自嘲気味に笑った。そうした笑みですら、聖母を彷彿とさせる儚さを纏い、ただただ美しかった。
「マリアンヌ、俺が…今度はちゃんと…。」
鏡の中の者は、苦渋に満ちた顔をしていた。