37
午後、マリアンヌはエリザベスや使用人と共に自室にて、叔父からの贈り物である2着のドレスを目の前に悩んでいた。
どちらも華やかで愛らしいデザインであったし、体型にも合っていた。質素なドレスを数着しか持っていないマリアンヌにはどちらも驚くほど豪華に見えた。
「この白地に金のレースもマリアンヌ様によくお似合いですよ。マリアンヌ様の髪と同じ色のレースですね。」
マリアンヌが着用している白地のドレスのレースと髪の毛を見比べて使用人が言う。エリザベスは、そうねぇ…といいながらもう一着のドレスを見る。こちらは深い青地に白い薔薇の模様があしらわれたドレスだ。
「こちらの青色も素敵ですよ。髪の色が映えるかと。」
「確かにエリザベス様のおっしゃる通りですね。いかが致しましょう?」
「悩んでしまうわね。青はあまり着たことがないから、こちらにしようかしら。」
マリアンヌは青のドレスをもう一度試着することにした。そして、先ほどから疑問に感じていたことを口にした。
「何故、体に合うドレスが届くのかしら。誰ともお会いしたこと無いのに…。」
エリザベスはそれを聞いて、申し訳なさそうな顔をする。
「実は手紙が届くたびに、本邸の使用人にマリアンヌ様のドレスのサイズを尋ねられていまして…。」
「そうだったのね。」
「はい。」
その会話を聞いて、試着を手伝う使用人が堪らず苦言を呈す。
「マリアンヌ様への贈り物なのに、ユリアンヌ様が横取りするのは酷いと思います!前のお茶会で着ていらしたドレスもアラン殿下が贈ったものだと聞きました。」
「いいのよ。私は誰と会うわけでも無いもの。仕舞われたままでいるより誰かに着てもらった方がドレスも喜ぶわ。ユリアンヌの体型にも合っているようだし…。」
「マリアンヌ様は優しすぎますよ!私だったら…。」
「ほら、そこまでにしなさい。」
エリザベスが使用人の発言を静止する。そして、手に持っていた小さな小箱をマリアンヌに手渡した。
「こちらも入っておりましたよ。」
「なにかしら。」
その箱の中には、花や蝶が繊細に描かれたジュエリーケースが入っていた。その開けるとトップには雫の形をした大きなサファイアがぶら下がった、首回りまでいくつものダイヤがふんだんに使われているネックレスがあった。開いた窓から差し込む光がそこに当たると、この世のものとは思えない輝きを放った。よく、ユリアンヌが持っていかなかったものだと思いながら、アクセサリーを取り出すと小さなメッセージカードが見えた。このメッセージを見るとユリアンヌが自分のものにしなかった理由が分かった。
"愛する妹の誕生日にその娘に捧ぐ"
日付は来週になっている。セラフィーヌの誕生日に合わせての来訪らしい。マリアンヌは初めて母の誕生日がその日だということを知った。命日の日はエリザベスが黒いドレスを用意するため、把握していたが、誕生日は知らなかった。マリアンヌは、母のを知ろうとしてこなかったことを恥じた。
「とても素敵…マリアンヌ様の瞳と同じくらい綺麗ですね!」
「本当…。ここまで輝くネックレスは初めて見ましたわ。」
ネックレスを覗き込んだ使用人とエリザベスが感嘆の声を漏らす。
「ありがとう…。これ着けてくれるかしら。」
「喜んで。」
使用人がネックレスを取り付けた。姿見の前に立ったマリアンヌの美しさに使用人もエリザベスも思わず魅入ってしまい言葉を失った。
その時、馬車を引く音が聞こえてきた。外の穏やかな空気が一気に騒々しくなった。喜びの感情が抑えられないといったユリアンヌの声が響く。遂にアルヘルム一行が訪れたのだ。
「…いらっしゃったようね。どんな方なのかしら。」
「少し覗いてみては?ここには気付かないでしょうから。」
マリアンヌは庭園側の窓から外を覗き込んだ。風が吹き込んできて髪を揺らした。髪を耳にかけながら外の様子を伺う。
馬の数も護衛の数もこれまでの見てきた来客の何倍も居た。マルクス、セリス、ユリアンヌの3人の前にアルヘルムであろう男性が立っている。遠目で顔まではっきりと確認できなかったが、身に纏う高貴な雰囲気から、王族だと感じ取ることができた。アルヘルムと思わしき人物の他に、同じような空気を漂わせている男が立っていた。
「ユリアンヌは楽しそうね…。」
はしゃいだ様子のユリアンヌを見て、小さな子どもを見守る母のような優しい顔をするとそっと窓を閉じた。




