32
翌朝、小鳥の囀りと共に目を覚ましたマリアンヌは大きなあくびと共に伸びをする。
ー 護衛の方はお叱りを受けてないといいけれど…。
昨夜の興奮状態のせいか、あまり眠ることができなかった。そして護衛の3人があの後どうなったかも気になる所だ。
まだ起床には早いが洗顔することにし、眠い目を擦りながら起き上がった。洗顔を終えた後、窓を開けて庭を見たがグンテはいなかった。グンテがいないということは、日の出と同時に起きてしまったのだろうか。
マリアンヌは自分で着替えを済ませて部屋のドアを静かに開けた。廊下を見ても何の物音もしない。エリザベスも他の使用人たちも、まだ寝ているのか…。起こさぬよう足音を立てずに階段を降りて、厨房へ向かった。
そろそろ髪にはたく小麦も底をつきそうだ。リベルトがいなければこっそり貰っていこうと考えた。
厨房から何やら良い匂いが漂って来る。マリアンヌは厨房のドアを開けて中を覗いた。大きな鍋はコトコトと良い音を立てて湯気が出ている。トントントンとリズム良く野菜を切る逞しい後ろ姿が見える。リベルトだ。リベルトの手際の良さに見入っていると、ボウルに野菜を入れたリベルトがこちらを振り返った。
「お嬢様!?…おわっと!」
驚いたリベルトはボウルを落としそうになる。
「驚かせてごめんなさい…。」
「いやいや、驚いてませんよ。朝早いですね。」
リベルトは手に持っていたボウルを近くに置いて、マリアンヌに近づく。
「リベルトこそ、こんな早くからいつも準備をしてくれているの?」
「まぁ、そんなとこっすね。」
「大変よね…ありがとう。しっかり寝られている?」
「え!?俺はほら!その分夜早くあがらせてもらってるんで!睡眠バッチリ!」
「そう?なら良かった…。」
マリアンヌが安心して微笑んだのを見てリベルトも、釣られて笑顔になる。
「もう朝食の仕込みが終わりましたんで、そちらにお茶を持って行きますよ。」
「朝の支度が終わったのなら、リベルトと一緒にお茶を飲みたいわ。迷惑でなければだけれど…。」
「おー!それは嬉しい!!すぐ準備します!」
リベルトは張り切って湯を沸かし準備を始めた。マリアンヌは隣の食堂にて紅茶が運ばれてくるのを待つことにした。
広いテーブルでマリアンヌとリベルトは紅茶を飲む。静かな時間が流れた。リベルトはマリアンヌの様子を伺う。話を振るべきか否か判断していた。そうこうしているうちに、マリアンヌは小さく口を開いた。
「ねぇ、リベルト。」
「はい!なんでしょう!」
「お母様はどんな方だった?」
マリアンヌからセラフィーヌのことを聞かれたのは、おそらく今日が初めてだろう…。リベルトはティーカップの中で揺れる紅茶の水面を見ながら、セラフィーヌの顔を思い浮かべた。
「とても…お優しく、美しく…女神のような方でしたよ。」




