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アランからの手紙には、戦地で摘んだというカンパニュラが綺麗な押し花となって添えられていた。アランが作ったのかと思われたが、そうではなく、手先が器用なクレマンが作ったと書いてあった。
アランにはマリアンヌと歳の近い息子のクレマンがいる。手紙の内容にもあまり登場はしてこないが、将来ジュール国を背負う身として、父アランと一緒に戦地に行ったり公務をこなしたりしているらしい。
「立派よね…。」
マリアンヌは手紙を読みながら呟く。歳の近い従兄弟が国の為に身を粉にしているというのに、私は別邸で何をしているんだろう…。自堕落すぎやしないか…。
「そうだわ。」
鏡の中の者に言われたように、まずは社交界復帰だ。その為には今以上に礼儀マナーやダンス、社会情勢を学ぼう。そう考えたマリアンヌは、翌朝、エリザベスに昼食後の自分の時間も、レッスンの時間にしてもらえるよう交渉した。
エリザベスは快諾してくれたが、リラックスも必要だと言い、週の半分だけ昼食後もレッスンをすることに決めた。
アランへの返事には、いつか体調が戻ったら社交の場でアランやクレマンに会った時に恥ずかしくないように、レッスンを増やしたという内容を書き入れた。
「今日も行くのか。」
その夜、ハイケンに行く支度をしているマリアンヌに鏡の者は問いかけた。
「うん。どう?今日も町娘か使用人みたい?」
髪を纏めて三角巾を被ったマリアンヌは手鏡で自分の顔を確認して様々なポージングをする。
「やめろやめろ。こっち側から見てると恥ずかしいから。」
「ひどい!可愛いくらい言ってくれてもいいじゃない。」
「あー可愛い可愛い。」
「全然心がこもってないわ。やり直して。」
「なんでだよ。」
鏡の中の者と笑い合った後、マリアンヌは窓をそっと開けてロープを垂らす。
「前回から幾日も経っていないのに、あいつがいるか分からないぞ。」
「いいの、ギードに会えなくても。ハイケンに行くことが楽しみだから。」
「そうか。」
手鏡をそっと鞄にしまい込むと、するするとロープをつたい、地上に降り立った。そして、足取り軽くハイケンを目指したのだった。




